Voice.10 ちょっと相談があるんだけど、いいかな?

 ――篠原がゲーム制作部に入ってくれることになった、次の日の昼休み。

 オレは、メガネと文豪に篠原を紹介するために屋上に来ていた。

 篠原としばらく待つ。

 すると、メガネと文豪が購買から屋上のドアを開けた。


「オタクー。焼きそばパン4人分ゲット……って、え!?」


 篠原の姿に気がついて、メガネが購買の焼きそばパンが入っている袋を落とす。

 文豪が声をあげた。


「し、篠原さん! なんでこんなところに!?」


 オレが冷静に口を開く。


「なんでって部員だからな」

「マジかよ!?」

「マジだよ」


 2人が同時に出した言葉に、オレは真顔で返した。

 そして、みんなで焼きそばパンを食べながら、篠原のことを紹介する。


「……というわけで、篠原が声優としてゲーム制作部の部員になった」

「篠原朝陽です。演劇部として演技の経験を積むために入部しました。よろしくお願いします」


 篠原がお辞儀をする。

 すると、メガネがオレに詰め寄った。


「やっぱりあれか!? 実は仲いいから頼めたのか!?」

「食事中に大声出すな」


 文豪が冷静にツッコミをいれる。

 オレはメガネの勢いに気圧けおされて、思わず動揺した。


「あのさ、篠原が入部してくれた経緯は今話したからわかったよな?」


 オレが言うと、メガネはうつむく。


「ご、ごめん。話聞いてもちょっと信じられなくて……」

「まあ、オレもすぐにオーケーされるとは思ってなかった」


 篠原は、オレの言葉が嘘だとわかっているからか、オレしか気づかない程度に小さく笑った。

 放課後、オレ達はゲーム制作部の5人目の仲間を探すため、学校の壁に部員募集のポスターを貼る。


「それにしても最初は部員集まるか不安だったけど、けっこう早く集まるなー」

「そうだな」


 メガネの言葉にオレが相槌を打つと、文豪が言った。


「もしかしたら超人気の部活になったりするかもしれないぞ。部員数30人とか」


 オレはそうなった部室を想像する。

 そんな人数居たらみんな部室に入りきらないだろうな。

 篠原は苦笑いした。


「それはさすがにないと思う。けど……」


 貼り終わったポスターを4人で眺める。

 篠原は言った。


「5人目は、早く集まるかもね」


 そして、それから1週間後――。


「来ない!」


 5人目の入部希望の生徒は来なかった。

 屋上でメガネが叫ぶ。

 オレ達3人は1週間前と同じように屋上でお昼ごはんを食べていた。

 篠原は明石達と3人で教室でお昼ごはん食べているからここには居ない。

 文豪が言った。


「よく考えたら作詞作曲できて歌える人探すってすごく難しくないか?」

「まあ作詞作曲できたら音楽系の部活行くだろうしな」


 オレが言うと、メガネはため息をつく。


「どうしよう……。このままだと部活じゃなくて同好会になるんだけど」


 どうすればいいか3人で考え込むけれど、答えが出ない。

 文豪が口を開く。


「とりあえず、今日仮入部終わったらみんなで音楽系の部活行ってみるか」


 そして、オレ達4人は仮入部が終わった放課後に、みんなで合唱部と軽音楽部に行くことにした。

 合唱部に行って、同じクラスのショートボブで黒色の髪の女子に声をかける。


「うち合唱部だから、歌える人なら居るけど作詞作曲できる人は居ないよ」


 次に軽音楽部に行って、同じクラスの短髪で茶色の髪の男子に声をかけた。


「うちは作詞作曲できて歌える人なら居るけど、バンドの練習で時間がないから兼部してくれそうな人は居ないかな」


 合唱部の女子と軽音楽部の男子の話を聞いて、オレ達4人は肩をおとす。

 ――その夜。

 自分の部屋に居た時、家のインターフォンが鳴る音が聞こえた。

 玄関に行ってドアを開けると、篠原がタッパーを持って立っていた。


「篠原」

「あ、たっくん」

「ど、どうした?」

「夜ごはんのカレー作りすぎちゃったからおすそわけ」

「ありがとう」


 篠原からタッパーを受け取る。

 そして、篠原をリビングに通して、お茶を出した。

 リビングには母さんと姉ちゃんが居て、父さんは仕事だからまだ家に帰っていない。

 母さんが台所で、タッパーに入ったカレーをご飯を盛りつけたカレー皿に取り分けて、ダイニングテーブルに置く。


「わー。すっごくおいしそう」


 姉ちゃんが声をあげる。


「本当ね。お店で出てくるやつみたい」


 母さんが言うと、篠原は顔を赤らめた。


「見た目はいいけど、おいしいかどうかはわからなくて……。私が作ったから」


 篠原の言葉に、オレは驚く。


「え!? これ、篠原が作ったのか?」

「うん。今日の朝学校行く前に準備して私が作ったよ」


 篠原は自信がなさそうだけど、すごくおいしそうだ。

 3人で手を合わせて、声をそろえて言う。


「いただきまーす」

「ど……どうぞ」


 篠原に言われてから、オレ達3人はカレーをスプーンですくって食べる。

 すると、スパイスの効いた辛さが口いっぱいに広がった。


「……おいしい」

「本当に!?」


 ふと出た感想に、篠原が詰め寄る。


「本当だよ。すごくおいしい」

「よかったー」


 オレが言うと、篠原は安心したような顔をした。


「おいしい! 朝陽ちゃん料理上手ね」


 母さんが甲高い声をあげる。


「うん。毎日食べたいくらい」


 姉ちゃんが言う。

 すると、篠原は恥ずかしそうに笑った。


「みなさん、いくらなんでも誉めすぎですよ」


 そして、カレーの皿をを片づけていると、篠原が声をかけてきた。


「たっくん」

「何?」

「ちょっと相談があるんだけど、いいかな?」


 そして、篠原の相談を聞くために、2人でオレの部屋に移動した。

 篠原にオレの部屋を見られるのは初めてだから、なんか緊張する。

 そして、オレがドアを開けて入るのに続いて、篠原が部屋に入って言った。


「わー。たっくんの部屋、私の部屋に似ててなんか安心する」


 そりゃそうだ。

 オレの部屋は柚木真奈さんのCD、ブルーレイ、アクリルスタンド、タペストリーに囲まれた部屋なんだから。

 篠原の部屋とほぼ変わらない。

 だけど……幼なじみっていっても、いちおう男の部屋なんだけどな。

 変わらない篠原の様子を見て、なんでかわからないけどちょっと落ち込む。


「どうかした?」


 篠原に呼ばれて、オレは我に返った。


「な、なんでもない」


 そして、向かい合って座る。

 すると、篠原は何かに気づいたように言った。


「あ、たっくん。ちょっと動かないで」

「う、うん」


 まっすぐに見つめられて、胸の鼓動が高鳴る。

 すると、篠原はハンカチを取り出して、オレの口もとをぬぐった。

 それから、笑顔を見せる。


「口にカレーのご飯粒ついてた」

「あ、ああ。ありがとう」


 別のことを期待してしまった自分が恥ずかしい。


「そ、それで、相談っていうのは何?」


 篠原は口を開いた。


「今日の帰り道に茉昼と夕乃から聞いたんだけど、放課後にすごく声の綺麗な女の子の歌が聴こえるって噂があるらしいの」

「本当に?」

「うん。他の友達にも確認したけど、何人も聴いたって言ってた」

「そっか」

「それで、その子の歌どんな歌か気になってるんだよね。だから明日、みんなにも相談してみようかと思ってるんだけど」

「わかった」


 こうしてオレ達は、屋上で歌っている人を探すことにした。

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