第17話

応答してわずか3秒。


電話を取ったこと、すでに後悔している。



帰宅したばかりなのか、バタバタと騒々しい音が聞こえる。



「……夏瑪くん、」



そのまま終話ボタンをタップしてやろうかと、感情のままに動きかけた指先の力を抜く。


私だって、一言、いや……十言くらい言ってやらないと気が済まない。



「さっきのあれ、何?何考えてるの?自分の立場、分かってる?」




―――山崎、本当に分かってる?




車中での澤田さんの台詞が蘇る。



分かってないのは、私も同じ。


だって、今もこうして通話を許してしまっている。



「立場?」


「夏瑪くん、今一番注目されてるミュージシャンなんだから……」


「俺、間違えたりしないけど?」


「……、」


「俺が何のためにここまで来たか、胡桃こそ分かってる?」

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