第15話

「じゃあ、来週から忙しくなるから今日はしっかりケアして体休めておくのよ」


「はーい、お疲れさまでした」



自宅マンションに到着して、明日以降のスケジュールをいくつか確認したあと車を降りる。


2時間のライブに比べたらまだ体力の消耗は激しくはないけれど、疲れを残しておくのは後々に祟る。



「山崎」



挨拶をして、エントランス前の階段に足をかけたところで澤田さんの真剣な声が呼び止める。


振り返ると、ジ、と彼女の視線が私の瞳を射抜く。



「今が一番大事な時期だからね。忘れないで」



車中で投げられた問いよりも、意味を持った忠告に素直に頷く。



そう、今が一番大事な時期。


そのためには、目の前の誘惑に流されず、常に自分を律し続けなければならない。



澤田さんを見つめ返す視線に私の覚悟を見たのか、彼女の瞬きで私たちの間に流れていた緊張が解ける。



「それじゃあ、お疲れさま」



話は終わったのだ、とその言葉を合図に、彼女に見守られながらエントランスの自動ドアをくぐり抜けた。

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