第5話

「さくら!」



体育館から移動する列の途中、私のすぐ前を歩くあい子がこっそりと後ろを振り返る。



「よかったね、同じクラスで」



あい子の言葉に小さく頷いた私は、そこで初めて安心した感覚に体を包まれ軽く笑みを零した。



「今日からうちらも高校生か。楽しい高校生活になるといいね」



そう話すのは小林あい子こばやし あいこ


私、小峰さくらこみね さくらとは小学校からずっと一緒の大切な親友。



内気で人見知りな私と違って、明るく頼りがいのあるあい子はショートカットがよく似合う美人。


誰にも媚びることがなくて、だけど、誰に対しても誠実で。


こんな私を見捨てないで、ずっとそばにいてくれる。



甘えているんじゃないか……。



その優しさにそう思うこともあったけれど、あい子はずっと私の友達でいてくれた。




「高校生、か……」



ぽつり、と私の独白はそっと春の緩やかな風に溶けて消えた。



……ほんと、楽しい高校生活になるといいな。

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