第25話 薬師、過去を知る

「抽出はできたから、あとは合成だけだね」


 小さな少年が机の前で何かをしているようだ。

 その手には血がたくさんついていた。

 必死に涙を服で拭いながら、時折嗚咽をしながら作業をしている。


「これができないとお父様に捨てられる。僕が出来損ないだからダメなんだ……。僕がこの町の領主にならないと――」


 何度も何度も同じような言葉を繰り返し、呪文のように言っている。

 まるで言い続けないと、心が崩れてしまうような気がした。

 

「これでポーションができれば……お父さんに認められ……何でできないの!」


 机の上には真っ黒でウニョウニョとした生き物が現れた。

 そんな生き物は少年の手を楽しそうに突いている。

 どこか見慣れた動きに安心感すら覚えてしまう。


「僕は出来損ないだ。勉強でもダメなのに……」


 自分を責め続ける少年に俺はそっと近づく。

 ウニョウニョと動く生物を見ると、毒を合成する時によく見ていたやつに似ていた。

 ひょっとして、幼い頃のメディスンだろうか。


「でもまだ諦めない」


 ウニョウニョした毒もメディスンを慰めるかのように、変な踊りをしていた。

 その光景はずっと繰り返され、自分を否定し続けながらも実験は続く。


『もう休んだら……』


 俺の声が届かないのだろうか。

 何度も声をかけるが少年はやめようとしなかった。


「ぐへへへへ、新しいのが抽出できた。これがあればポーションはできるかな?」


 知らない成分が抽出できたのだろう。

 嬉しそうに紙にメモをしているが、突然動きが止まると全身が震え出す。

 どこか痙攣発作のような症状でそのまま床に倒れこんだ。

 きっと魔力を使いすぎたのだろう。


『おい、大丈夫か!』


 駆け寄って声をかけるが反応はない。

 ただ、そのまま苦しそうな顔で眠りについていた。


 ♢


 すぐに場面は変わり、違う部屋に移動していた。

 さっきまでは見慣れた離れの屋敷にある部屋にいたが、今回は全く――。


『いや、ここは学園の自室か』


 ゲームの中で魔王について調べるために、学園を訪れるシーンがある。

 その時に寝泊まりする部屋と作りが全く同じだ。


 少年は大きくなり、今の俺とそこまで変わらない見た目をしている。

 制服を着ているから、きっと数年前のメディスンだろう。


 彼は相変わらず、実験を繰り返していた。

 以前と比べて実験の仕方も変化し、周囲が血で汚れるようなことはなくなった。

 学園の自室だからってのもあるだろう。


 ゆっくりと学園時代のメディスンに近づく。


「俺が何をしたって言うんだ……」


 机の上にはビリビリに破かれた紙が置いてあった。


『あれって実験結果が書いてあるやつだよな……?』


 何枚も束になった紙が破かれ、メディスンは必死に拾い集めていた。

 一緒に拾おうとしても、今の俺では触れられない。

 繋ぎ合わせるのも大変だと思ってしまう量に、俺はただ見守ることしかできなかった。


 表情がコロコロと変わった少年時代とは異なり、どこか諦めたように表情が抜け落ちていた。

 この数年で何が起きたのだろうか。


「もうこんなことやめるべきだな……。どうせお父様は俺に期待していない」


 そんなメディスンを慰めるかのように、ウニョウニョした毒は今日も変な動きをしている。

 まるで今まであいつが孤独のメディスンを慰めてきたのだろうか。


「ノクスとステラが生まれたからな。せめて誇れる兄でいたいな……。よし、新しく作り直すか」


 メディスンの言葉にウニョウニョした毒もさらに喜んで踊っている。

 今まで毒を合成しても、すぐに分解して申し訳なくなってきた。

 俺の中には毒に助けられた記憶がほとんど残っていなかったからな。

 ただ、これでメディスンのことが少しでもわかった気がする。

 

 俺が今まで見ていたメモは、新しく作った一部だったってこと。

 メディスンは誰よりも頑張り屋で家族思いなこと。

 そして、俺が一番メディスンに寄り添って褒めてあげられる存在だったこと。


『メディスン、今まで頑張っていたんだな』


 きっとメディスンには聞こえないだろう。

 これだけは彼に伝えないと俺自身が後悔すると思った。


 だけど、メディスンは俺の声に反応して振り返った。

 視界がぼやけると少年のメディスンと学生服を着たメディスンがいた。


『今度は俺がどうにかするからな!』


 俺は二人に近づき、拳を前に突き出す。

 それに合わせるように二人も拳を前に出した。

 重なり合う拳に気持ちが伝わってくる。


「「「ぐへへへへへ!」」」


 二人は見たこともないほど、眩しい笑顔をしていた。

 ただ、どこか気持ち悪い笑い方をするのは変わらないようだ。


---------------------


【あとがき】


「ねね、おにいしゃま?」

「どうしたんだ?」

「しゅてらのことしゅき?」


 実験中の俺にステラが自分のことを好きなのか聞いてきた。

 チラッと見ては視線を泳がす。

 何か不安を感じているのだろうか。


「もちろん好きに決まってる」

「ほんと?」

「あたりまえだろ。俺の大事な妹だぞ」

「ぐへへへへ」

 

 最近ステラの笑い方が俺に似てきた気がする。

 ひょっとして★とレビューが足りないのか?


「みんな★★★とレビューを頼む!」

「おにいしゃま? それじゃあだめだよ?」

「そうなのか?」

「おほちしゃまとれびゅーちょーだい!」


 ステラはニコニコした顔でお願いをしてきた。


「「ぐへへへへ」」


 その姿に俺もついついニヤニヤしてしまう。


 ぐへへへへレビューありがとうございます!

 追加ぐへへへレビューまだかなー?| |д・)チラチラ

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