第44話 君は……誰だ?
「君は……誰だ?」
他の皆さんも彼のことは知らないみたいです。
マスクの人はピースサインをして答えました。
「何って『ともだち』だよ。みんなの友達」
全員が顔を顰めたのは言うまでもありません。
「んっと、どういうことかの?」
歴戦の英雄、サトルさんでさえ困った表情を浮かべています。
「『ともだち』はみんなと友達、ただそれだけさ」
えぇ……。気持ち悪っ。しかもよく見たらこの人、レベル含めてすべてのパラメータが0だし……。帰り道で会ったら即通報レベルじゃん。
「変わった人もいるんですね〜」
私の反応とは対極的にショウヘイくんは呑気な声をあげます。いいなぁ、力がある人は。きっと、なにが起きても物理で解決できちゃうんだろうな。いや、あのルックスなら笑顔一つで切り抜けられそう。
「それで、お姉さんは?」
えっ、私? まさかの!?
そうか、残るは私だけだもんね。すみません、ごめんなさい。顔洗ってきます。
それで本当に顔を洗いにいけるはずもなく、私は偉人たちから好奇の視線を向けられました。心臓はバクバク鳴ってるけど、頭は不思議と冷静でした。
私が、ロナータさんを知ったきっかけ。
「最初は、たまたま雑談配信してるところを覗いただけなんです。私、リアルでもネットでも影が薄いから、コメントとかも全然読んでくれなくて……。視聴者が一桁のところでコメントしても無視されることとかあって、
誰かに反応されたくて、それでたまたまロナータさんの配信でコメントしたんです。そしたら……」
『あっ、コメントありがとうございます。好きな食べ物、ですか? う〜ん、たくさんあるけどなぁ————』
「私のコメントを真剣に考えてくれて、それがとても嬉しくて、それから配信を追うようになりました……」
やばい、顔がめっちゃ熱い。
まるで私とロナータさんの馴れ初めを話しているみたいで、いや、実際にそんなことが起きたわけじゃないんだけど、でも間接的なシチュはそんな感じで……。
湧き上がる思いを掻き消すように言葉が飛び出る。
「み、皆さんは、ロナータさんのどこがいいと思いますか?」
あわわわ、私なんかがお歴々に向かって質問なんて……。
でも、
「うーん、僕はお姉さんと一緒でファンのことを大切に思ってくれていることかな。コメントもなるべく拾おうとしてくれてるし」
ショウヘイさんの言葉をきっかけに皆さんが語り始めます。
サトルさんとアワハラさんは
「彼は言っちゃあなんだが、他の配信者より弱い。けどね、どんな敵にも立ち向かっていくんだよ。それがワシは大好きだ」
「奇遇ですね。私も同じだ。弱くなっても強大な敵に挑み続ける。人類の奥底に眠る魂を彼からは感じることができるよ」
とそれぞれ言いました。
「分かります。低級悪魔に追われながらも、なんとか立ち向かおうとするところは勇気もらっちゃいますよね」
続いてジャスミンさん。
「あたしは……そこにいること、かな?」
頬を赤らめて彼女はそう言いました。
えっ? 何その思わせぶりなセリフ。どういうこと、どういうこと?
もしかして、もしかしなくても、ジャスミンさんは、ロナータさんのことが…………。
いや、推せる!
ロナータさんは配信で時々、好きな人がいる的な匂わせをしていた。ジャスミンさんとロナータさんは幼馴染でしかも同じ事務所! どう考えても二人は
これは応援するしかない!
ロナ×ジャス、推せる!
…………。
もちろん、私もロナータさんと、という思いはあります。
けど、推しの幸せを願わずして、推し活とは呼べませんから! 私なんてジャスミンさんの次くらい。いいえ、ロナータさんが世の女性、全員にフラれてから初めて声をかけるくらいの順番でいいんです。それくらいの心意気がないと!
「やっぱり、ともだちは彼のお尻かな」
藪から棒にともだちが口を開きます。
「彼のお尻はプリッとしてて素晴らしいんだよね。特に四つん這いで進んでいる時なんか……」
「あなたは黙っててください」
私の冷酷なターミネータが起動しました。最近はロナータさんの容姿だけを見てやれ可愛いだの言ってるファンがいますが、それだったら生成AIで十分。ロナータさんにはロナータさんでしか得ることのできない魅力がたくさんあるんですから。
「ハナヒメ、あんたは?」
「はひっ?」
ジャスミンさんから声をかけられて、私は豚のような声を出してしまいました。はわわわ、ジャスミンさんから声をかけられたよぉ。
「あんたは、ロナータのどういうところが好きなん?」
「えっ……全部です」
思った以上に即答でした。でも、これが私の答えです。だって推しは推しであるからに推しなんですもの。言葉にできるのなら、それは推しじゃない!
けど……
「やっぱ安直ですかね……」
「いいや」ジャスミンさんは八重歯を覗かせました。
「きっと、あいつも喜んでると思うぜ」
ジャスミンさんの笑みに私の心はキュンと締め付けられました。あぁ、この二人が付き合って結婚したら、どんなやり取りが行われるんだろう。二人の子供に生まれたい。
「そうだ、彼のいいところがもう一つあるよ」
ともだちが懲りもせずまた口を開きました。
「彼が腕を上げた時に見えるわき————————」
紫電烈空
スイーパー
五人の超人が放つ攻撃がともだちに命中しました。
ともだちは個室の屋根を破壊しながら、月が綺麗な夜空に消えていきます。
拝啓、お母さん。
今日、私は推しのオフ会でとんでもない方々とお知り合いになることができました。皆さん歴史に名を残した、もしくはこれから残そうとする方々ばかりです。
けど、相変わらず私の推し活はたのしく続けられそうです。
ロナータの登録者数:36754→36791
—————
余談
ロナータが大失敗したタピオカ事業「ロナタピ」の開店初日の売り上げの一つはハナヒメちゃんが買ったものです。
ハナヒメ「この一般視聴者って私のことです!」
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