第38話 パラメータ100の世界

 高く上がったボールは、そのままスタンドへ!




 ——ホームラン!!




 魔力を持たない代わりに生まれながらにして体力と筋力のパラメータが100の青年、ショウヘイ。彼が振るバッドは全てホームランとなり、中学の公式試合では一度もヒットを打ったことがないそうです。


『ショウヘイ、半端ねえって』は全国大会の決勝で相手ピッチャーが控え室で叫んだ名ゼリフでした。


 そんな彼の加入は、今この瞬間、悪魔チームの勝利を裏付けるものとなりました。


 人間チーム:悪魔チーム=0:3




   ***




 五番マダムと六番ズッコを凡退に抑えた人間チームは、心機一転、反撃するために打席へ向かいます。


 ところが、悪魔チームのマウンドに立つのはショウヘイ。


 パラメータ100の世界。


 高校生にして平均300キロを超えるストレートと、大きく曲がるスライダー、そしてその両方の特性を併せ持つスイーパーであっという間に三者連続三振。人間チームはバットを振ることすらできませんでした。




 二回表。

 一番のサタンがヒットを打ち、二番バズ=ジャックがバント。次のアカツキはセカンドゴロだったものの、ジャスミンが悪送球したためセーフ。


 ランナー一塁三塁で回ってきたのは、


 神童・ショウヘイ。


 彼が振り抜いたバッドはまたしてもホームラン!

 その後、マダムとズッコは凡退に抑えたものの、点差は0:6。




 そして二回裏。

 四番、神さまがレフト前ヒットを放つも(神さまなので)、後が続きませんでした。




 >うわ、オワコンじゃん

 >負けましたね。ちょっと風呂入ってくる

 >このまま0-9で負けかな

 >相手が悪すぎたね




 コメント欄では敗色が漂っています。

 ここでザンテツがタイム。人間チームは作戦会議を始めました。


「まずいな。天才球児もそうだが、悪魔たちもなかなかに手強い」ザンテツは唇を噛みました。

「やっぱり野球経験のない僕らじゃ……」ロナータは肩をすくめました。

「なにスポコンのモブみたいなことを言ってんだ。こっから勝つんだよ」


 撃を飛ばすものの、ザンテツ自身もしばらくして俯いてしまいます。

 沈黙が続くなか、

 神さまが手を挙げました。


「思っていたのだが、この試合は魔法を使ってはダメなのか?」


 全員が顔を上げました。彼らは魔力がないショウヘイに加えて、悪魔たちも一切魔法を使ってきませんでしたから、てっきり使ってはいけないのかと思っていたのです。


(だが、サタンとルール確認した時にそんな条項はなかった……)


 ザンテツは思考をめぐらすと、

「それだ!」と指を鳴らしました。




   ***




 三回表。


 一番、サタンが三遊間に強烈なヒットを放ちます。視聴者はまた同じローテションを組まれて終わる、と落胆したそのとき——




 デネキスが影を伸ばしてノーバウンドでボールをキャッチしました。




 >なに!?

 >ありなの?

 >ヤバすぎw




「フフン、魔法を使ってはいけないなどとルールにはないだろう」

「えぇ、もちろん」


 サタンは笑みを浮かべました。


「彼らが魔法を使ってくるのは想定済みです。むしろ遅すぎたくらい。みなさん、プランBで行きましょう」


 二番のバズ=ジャックは魔法を使えませんので、変わらずバントをします。

 しかし、バントすると分かっているのなら対応できなくありません。


 ザンテツが投げると同時に一塁のカゲマルが走り出し、転がったボールをキャッチ。一塁に立ったザンテツに向かって投げます。ボールはミートに収まってツーアウト。


 勢いそのままスリーアウトと行きたいところでしたが、三番のアカツキは魔法でザンテツの足場を脆くさせ、浮いた球を左中間へ。一気に二塁ベースまで進みました。


 しかし、彼がどのベースを踏もうとも二点入ることは間違いありません。




   四番、ショウヘイ。




 ショウヘイはルーティンであるバッドをホームベースに置くと、遥か彼方へバッドを向けました。


 予告ホームランです。

 そんな彼にキャッチャーのロナータが話しかけます。


「ショウヘイ君は、ボクのファンなんだよね?」

「ハイ、フォロワー七人の頃から見てました」


 ショウヘイはバッドを構えたまま笑顔でロナータのことを見ました。


「どうして、ボクのことを知ってくれたの?」

「昔、ロナータさんに助けてもらったことがあるんですよ」


 バスン。ロナータのグローブにボールが収まります。


「まだ配信を始める前でしたけど、ダンジョンに迷い込んだ僕を助けてくれたんです」

「そうか。そんなこともあったっけ……」


 再び、バスン。


「配信者として活動を始めたと知って、すぐにフォローしました。今日、こうして会うことができて……」


 バスン。


「スリーストライク! バッター アウト!」


 球審のマダムが言いました。


「えっ?」


 ショウヘイはロナータのグローブを見つめました。なんと、ショウヘイが語っている間に、ザンテツはストライクボールを三つも投げていたのです。


「あれ?」


 純真無垢なショウヘイにロナータは「ごめんね」と言いました。


「大人はちょっと狡猾なんだよ。だから騙されないように気をつけてね」


 ショウヘイをアウトにしたことでコメント欄は活気を取り戻し始めました。




 >おお、無得点で切り抜けた!

 >ルール的にありなのか?

 >まあ審判がアウトって言ってんならアウトだろw

 >あとはここからどう攻めるかだな




 三回裏。泣いても笑ってもここで最後です。

 最初のバッター、デネキスはショウヘイのボールを影で掴み、ライト前にヒット。


 続くザンテツは魔法はほとんど使えません。


 ここは取れるだろう、と思ってショウヘイが投げたストレートを、ザンテツはサードに向かって打ち返しました。


「ベンチから何球も見てきたからな。どこに来るかは何となくわかるんだよ!」


 さすがダンジョン配信者。並みに悪魔たちと死闘を繰り広げているだけあります。

 サードに立つズッコはもちろん取れるはずもなく、悪魔チームは初めて一塁二塁とピンチを招きます。


 ここで現れた神さま。


「すべてはロナータが勝つためだ。すまぬな、無辜むこな球児よ」


 神さまはショウヘイのボールを「止める」と、空高く放ちました。




 ホームラン!




 人間チームに三点入り、6対3と追い上げます。


 続いてのロナータを三振に抑えたものの、魔法が得意なジャスミンにヒットを打たれた(アクア・シールドで球の動きを遅くしてから打ったよ!)ショウヘイは、ここで初めて「敗北」の二文字がよぎります。


(こんな簡単に負けるわけにいかない)


 ショウヘイの天性の千里眼が発揮されます。

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