終章 名残雪

図書室には夕闇が迫っていた。そろそろ学校も終わりの時間だ。私は図書室を閉め、今度こそ先生を見送るために外に出た。

駐車場に着くと、空からふってきた白いものが、ふわりと鼻に着地した。雪だった。

「主人が亡くなった日も、雪が降っていたわ」先生が思い出したように口を開いた。

ふと、先生の夫は最期に何を考えていたのだろうと想像する。病室で、しんしんと降る雪を見て、思い出したのかもしれない。最愛の人を思いながら作ったあのお菓子のことを。最期に、あのとき伝えられなかった思いを伝えようと句を作って、それでも照れくさかったから、濁点を足して本に隠した。

名残雪には、春になってからの雪の他に、もう一つ意味がある。春になり、急激に雪解けが進んでも溶け残っている雪のことだ。由起夫さんにとって、先生との出会いは、どんなに有名になっても忘れることのできない記憶だったのだろう。それとも、あのときの雪はずっと彼の中で降り続いていたのかもしれない。

「本当に、最期まで不器用な人」

雪は、一人呟いた彼女を見守るかのように、いつまでも降り続けていた。


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