第196話 魔法の言葉、ドゥビドゥビ・ドゥ

俺は、お友達シリーズの説明をした。


その間トロットは、作ってやったラジカセ型魔導具からユーロビート音楽を垂れ流し、ドット絵みたいなサングラスをかけたまま謎のウネウネダンスをしている。こいつマジでなんなんだ?


ニアは謎のピストンから謎の煙を出している。


アンティはニヤニヤ笑いながら浮遊している。


うーん、こうしてみると本当に謎の面白メンツだ。


ネットミームとゴティックメードとニャルラトホテプの人間に化けた姿みたいな女の三体、流石に面白過ぎるだろ。


「……生命の、創造」


誰かが、息を呑んだ。


「誤解しないでほしいんだが、この子達は頑丈なだけで、別に強くはない。それと、量産性も高くはない。この国に対して叛意とかは……、ないです……」


「そんなことはどうでも良い!!!!生命だ!魔法によって生まれた、新種の生命ですよ!!!!あはははは、あーははははは!!!!私の研究は間違っていなかった!!!!魔法は、『神の領域』に届く!!!!」


「そうだ!!!!生命の魔法は、生命を創造できるのだ!!!!」


「素晴らしい!!!!なんと美しい魔物だ!!!!」


一部の魔導師達が、急に、狂ったように笑い始めた。


んん……、まあ、アレか。


『根源』に到達した魔法使いと会って話せた!みたいな感じか?某エロゲ的な例えをすると。


「凄いね……、これは凄い。僕ですら、何をしているのかが分からないほどだ」


お、マーリーンか。


「人工魔物はおすすめだぞ、面白い分野だ」


「この魔物達は、どれほどの知能があるんだい?」


「ええ……?まあ、少なくとも、言葉は通じているし、文字も読めるから、人よりは上なんじゃない?」


「それは凄い!どれ、話しかけてみようかな」


トロットに話しかけるマーリーン。


「こんにちは」


『ぴちぴち、ちゃぱちゃぱ、どぅびどぅび、だばだば』


「ええと……、筆談?何かな、この文字は?」


「あー、そいつはダンス(?)が趣味なんだよ。コラ、トロット!ノリノリやめなさい!」


俺はトロットのほっぺた(?)をつねった。一メートルくらいうにゅーっと伸びた。怖……。


『なに?』


「トロット君、だったね?君は、文字が書けるんだね」


『わたしはてんさい』


「そ、そうだね。魔物とは思えない知性だ」


『わたしはかわいい』


「う、うん……、そうかも、しれないね……?」


『しょくぎょうは、おひめさまです』


「アンドルーズ君、これ本当に正常な動作かい????」


「正常だぞ」


存在そのものがギャグみたいなもんだから、発言がギャグでもセーフだろ。


「う、うーん……。トロット君は、自分を何者だと思っているのかな?」


『びしょうじょ』


「これからの目的は?アンドルーズ君には何を命じられているのかな?」


『もくてき……?あそんでくらす?おとうさんは、マイバッハのおともだちになれって』


「今日はどんな気分かな?」


『うきうき、さたでーないとふぃーばー』


「トロット君は、自分が生きていると思うかい?」


『いきているから、きょうもごはんがおいしい』


うーん、全てにおいてふざけた野郎だな。


しかしマーリーンは、真剣な顔つきだ。


「……一見、回答はふざけているように見えるけれど、こちらの言葉を完全に理解しているね。論理的思考はどうだろう?……もし僕の手の上にリンゴが一つあったとして、一つを君にあげたら、僕はいくつリンゴを持っているかな?」


『ふたつ。さんすう?さんすうは、ニアのほうがとくい』


「そうなのか……。こちらのゴーレムがニア君だったかな?」


「そいつ、ゴーレムじゃなくって生き物だぞ。見た目がゴーレムなだけだ」


俺のアドバイス。


「ええと……、ニア君?」


『buppibabibi!bibiribibi!』


「あ、ニアも喋れないぞ。スパロボのAI機体みたいなブザー音しか出ない」


「じゃあ、意思疎通はどうしているんだい?」


「そいつのモニター見てよ」


『私は、お友達シリーズの二番、混成獣ニア。趣味は兵器開発です。数学は得意分野で、解析学のフーリエ解析や偏微分方程式はもちろんのこと、流体力学や制御理論のための応用数学、アルゴリズムのための離散数学などを嗜んでおります』


「……素晴らしい情報解析だ。微分?とは何かな?」


あ、え?


あそっか、この世界、まだない概念か。


ユークリッド幾何学が基本だもんな。


『ユークリッド幾何学は直線や円の性質についてでしたが、微分積分は、たとえば弓矢の軌跡や川の流れのような複雑な曲線を扱います。まず「微分」は、曲線の接線を見つけ、その傾きで変化の速さを測る術です。例えば、馬車が坂を登る速度が刻々と変わるとき、微分は、ある瞬間での正確な速さを示します』


「ふむ、接線……。ユークリッド幾何学というのは分からないけれど、現行の学説では直線に似るね。でも、曲線に触れる線をいかに定めるのかな?瞬間とは?古の数学者アウストロメオは、運動は連続的であり、瞬間を切り取ることはできないと説いていたよ?」


『良い質問ですね!その連続性は確かに重要です。ですが微分では、瞬間を「限りなく小さな時間の幅」で「近似する」のです。例えば、このように曲線を描き、その一点で曲線に触れる直線を見てください。この直線の傾きを、時間を細かく分割して求めます。その分割を無限に細かくすると、瞬間的な変化が明らかになるのです。これは連続性を、数学で探る方法ですね』


この時点で、三十人くらいの勉強が得意そうな魔導師達が、蝋板……えっと、蝋が詰まった小さい板で、この板に傷をつけて字を書くやつね。中世版メモ帳だ。この蝋板を持った魔導師達がズラリと集まってきた。


『しかし、実際の計算では、分割を十分に細かくし、近似します。例えば、星の軌道を考えるとして、プトレマイオスの円運動では近似ですが、微分積分なら、星が刻々と動く速さや方向をより正確に測れるのです。これは天文航法などにも使われるそうですよ』


「そう習ったのかい?アンドルーズ君に」


『はい、マスターは高い知性と知識をお持ちです。ですが、演算力においては私の方が上ですから、実際に数学的モデルを制作して運用するとなると、私の方に軍配が上がりますね。ただ、私は魔法があまり上手く使えないので、そこで大きく劣るのですが。……そして、「積分」についてですが、こちらは微分と対をなすものです。例えば、土地の面積を測る時、形が不規則ならユークリッド幾何学では難しいです。ですが、積分は、土地を細かな長方形に分け、その面積を足し合わせるのです。分割を細かくすれば、より正確な面積が得られますね。これは、星の軌道が囲む面積や、川の水量を計算するのにも使えます』


「それは土地測量の術に似るが、分割を無限に細かくするなら、計算は終わるのかな?微分と積分は、互いにどう関わるのかな?ひとまとめにする意味は?」


『微分と積分は、深く結びついています。微分が変化の速さを測るなら、積分はその変化を積み重ねて全体を求めるのです。例えば、馬車の速度(微分)を積み重ねれば、移動した距離(積分)が分かります。計算の終わりについては、実際には近似を用い、十分な精度で結果を得る形になっています』


モニターに図が表示される度、魔導師達は狂ったようにそれを記録した。


数学ねえ、ハマると楽しいけど、俺も別にそこまで詳しくは……。


大学数学くらいは人としてできて当然だろうが、俺は医学部でそこまで詳しくない。


一応、抽象代数学やトポロジー、微分幾何学なんかを趣味で知っている程度に教えたが、今ではニアの方が詳しいんじゃないかな?


とにかく、勉強は楽しいから、良いんじゃない?


今後はニアに代役を任せても良いかもな。こういう会合のさ。

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