第五部

第六十二話 アルマくんのしゅぎょうせいかつ

ここでまさかの修業パート!

ありゅまれおはるとくん、ろくちゃい! に視点が戻りますので注意!

―――――――――――――――――――――


「――MPが、足りないっ!!」


 ぼくは自分のベッドにひっくり返って思わず叫んだ。


「目覚めの日」とかっこつけて呼ぶことにしたあの日から、ぼくは毎日魔法の訓練と称してメニューから光魔法を使い、魔法の熟練度を上げてきた。

 だけど……。



  HP 54 / 54

  MP 0 / 6



 これが、今のぼくのMP。

 いくらなんでも、6っていうのは少なすぎる。


〈ライト〉の魔法にはMPが2必要なので、なんと一日に三回しか魔法が使えないのだ。

 ぼくがメニューからボタンを押すだけで魔法を使えることを加味すると、もう三秒もかからずに一日の魔法訓練が終わってしまう。


 最後の手段として最大HPを削って魔法を使う方法もあるけれど、最大HP54をMPに換算するとたったの5。

 結局は焼け石に水にしかならない。


(せめてMPがもっとガンガン回復してくれたらなぁ)


 なんというかこのゲーム、MPの自然回復がめちゃくちゃ渋いのだ。

 朝に一度使い切ってから夕方になってそろそろ全快してるかなと見てみたら、なんと1MPたりとも回復していなかった。


 どうやらきちんと眠らなきゃMPは一切回復してくれないようで、一日中寝てるよっていう漫画キャラみたいな人を除いたら、一日に一回しかMPは回復しないと考えていいだろう。


(……え、これめっちゃ厳しくない?)


 本で読んで調べた限りだと、この世界、MPを回復する薬は高価で、一般に店では売られていないらしい。


 あとは料理による回復だけど、小数点以下の数値が切り捨てられてしまうため、MPが6しかない現状ではMPが20%以上回復する料理を食べないと、おそらくは効果が出ない。


 というか、MPが20%以上回復するような料理を食べても1しか回復しないんだから、どちらにせよ割に合わないことこの上ない。


(ん、んん? んんんんんんん?)


 見れば見るほど詰んでいるような状態。

 いや、前には進んでるんだけど、いくらなんでも牛歩すぎるというか、こんなんじゃ九年なんてあっという間に終わってしまうというか。


(……やっぱり、おかしくない?)


 流石にこれ、厳しすぎやしないだろうか。

 原作ゲームでもこんな感じだとしたら、どう考えてもマゾゲーが過ぎる。


 ぼくだったら開発に怪文書を送ってるレベルだ。


(そうだ! たしか兄さんは、もっとバンバン魔法使ってたはず!)


 もしかするとぼくは、とんでもない勘違いをしているのかもしれない。


 魔法の真実を確かめるため、急遽ぼくは兄さんを探しに魔法練習場(家の玄関から徒歩二分)へと飛んだ。



 ※ ※ ※



「――ん? じゃあそろそろ、アルマも位階を上げてみるかい?」


 ぼくが兄さんに魔法について相談したら、返ってきた言葉がそれだった。

 聞きなれない単語に、聞き返す。


「位階?」

「なんて言えばいいかな。魔物を倒したりすると、急に『自分が強くなった』って分かる時があるんだ。それを『〈位階〉が上がった』って言うんだよ」


 齢八歳にしてすでに理知的なしゃべりと石影 明ボイスを身に着けている兄さんの言葉に、ぼくは心の中で叫んだ。



(――レベルじゃんそれ!)



 いや、もちろんRPGの世界だし、レベルの概念はあってしかるべきだとは思うんだけど、こうもあっさりと言われると戸惑ってしまう。


(いや、でも、レベル! レベルかぁ!)


 記憶が戻る前はなんとも思わなかったけれど、あらためてこうゲームっぽい単語を突きつけられると、ワクワクしてしまう。


(子供の頃からレベル上げしちゃって、学園入学時には無双状態になっちゃったりして……!)


 いや、もちろん原作遵守は絶対の掟。

 原作を壊しかねない無茶な自己強化は絶対するつもりはないけれど、前世でネット小説をたしなんでいた身としては、そんな妄想が自然と浮かんでしまう。


 ただ、黙り込んでしまったぼくを、兄さんは興味が逸れてしまったと考えたようだ。

 兄さんにしてはめずらしくちょっと早口で、そのメリットを説明する。


「それで、位階を上げると強くなるし、魔力の最大値……えっと、貯めておける量が増えるんだ。だから、位階を上げたらたくさん魔法の練習が出来るようになるんだよ」


 子供のぼくを気遣って、優しい言葉を選んで話してくれるお兄様(八歳)。

 その早熟っぷりに戦慄しながらも、レベル上げのワクワクが勝った。


「それで、どうする? アルマは位階、上げたい?」


 重ねて尋ねてくる兄さんに、



「――やりたい!」



 ぼくは子供の本能のままに、元気よく叫んだ。


 それを聞いて、兄さんの表情も明るくなる。

 前々からぼくと一緒に魔法の練習がしたい、と言っていた兄さんだから、ぼくが魔法に興味を持ち始めたことが嬉しいのかもしれない。


(初レベル上げだ!)


 一体何をやるんだろうか。

 やっぱり森に入って兎狩り、いや、平原でゴブリン相手に殺すKAKUGOを……。


 そんな妄想をたぎらせていると、レイヴァン兄さんはあっさりとうなずいて、



「――じゃあ今日料理長に頼んでおくから、明日位階を上げようか」



 すごーい軽い口調で、そんな不可解なことを言ったのだった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る