第四部
第四十四話 波及
新しい朝。
僕は今日こそ平和で原作通りな一日を過ごすんだと意気込んで寮の部屋を出たんだけど、
「んん?」
なんとなく、今日は辺りが騒がしいように思う。
いや、騒がしいというか、ちょっと落ち着かないというか、うまく言えないけど、なんだか妙な感じ。
「なぁんか嫌なかんじねー!」
ティータもその辺りは感じ取っているようだ。
いつもよりも心持ち速い速度で羽をパタパタさせている。
ちょっと意識して耳を凝らしてみると、
「ライコウ……」
「初日に……」
「やっぱり血筋……」
切れ切れだけれど、「ライコウ?」とかいうのが話題になっているらしい。
(強キャラ登場イベントかなぁ)
同年代にいる「ファイブスターズ」を除けば、僕はこの学園の有名人について何も知らない。
上級生キャラが出てくるとしたら、この辺りで存在感を示してくるのもゲーム的にはありそうな話だ。
とはいえ、それに囚われすぎるのもよくないだろう。
僕は普段通りに登校して、Aクラスの教室に入る。
「え?」
僕が扉を開けた瞬間に、教室にいたクラスメイトたちが一瞬こちらを見た……気がした。
ただし、それは本当に一瞬。
すぐに元通りになった教室に僕は首を傾げながら自分の席に向かって歩いて、
「――あー! 来た来た! 雷光のレオハルト様ー! こっちだよー!」
まるで答え合わせみたいな台詞を吐きながら僕の隣の席から笑顔で手を振るトリシャの姿に、顔をひきつらせたのだった。
※ ※ ※
「それで、その〈雷光のレオハルト〉っていうのは……」
「もちろんレオっちの、あ、いや、雷光のレオハルトっちの二つ名だよ」
「呼び直さなくていいから」
あっけらかんと言い出すトリシャに、僕は額を押さえた。
「ら、雷光! ぷ、ぷぷっ! かっこいいじゃない、ぷふっ!」
隣を飛んでいたティータが口を抑えながら笑っている。
僕は頭が痛くなりそうだった。
「一体なんでそんなあだ名が……」
僕が呆然とそうつぶやくと、トリシャはピンと指を立てた。
「ほら、昨日の模擬戦あったじゃん?」
「模擬戦?」
セイリアと戦った時のアレだろうか?
でもあれは一瞬で負けたから、そんなに注目されるような試合じゃ……。
「レオっちはびゅーんって飛んでって一瞬で負けたでしょ。それが色んな意味で雷みたいに速かったってことで、誰かが言い出したんじゃなかったかなー」
「うあぁ……」
口から、変な声が漏れる。
まさかあのやらかしが、回りまわってこんな事態を招くなんて。
「それとー」
まだあるのか、と僕がうんざりした気持ちでトリシャを見ると、
「もちろんそれだけで二つ名なんかつかないよ。それよりも本題は、レオっちが入学初日にいきなり上級生と戦って勝っちゃったことだね。それも、素行の悪かったスイーツ家の長男相手でしょ? 悪を正すレオハルト家の気質を入学初日にはもう示したってことで、その速さを称えて雷光のレオハルトって二つ名を……」
「ちょ、ちょっと待って!」
流れるような長広舌を、僕は慌てて止めた。
レオハルト家が悪を正すだのなんだのも気になるけれど、それよりも……。
「昨日の僕が上級生ともめたこと、もうそんなに広まってるの? まだ一晩しか経ってないんだけど!?」
「そりゃ寮生活だしねぇ。ここの噂の広がる速度、甘く見ちゃダメだよ」
あっさりと言うトリシャに、僕は口から魂が出そうになった。
(……い、いや。でもこれは、まだ原作通りなはず)
思ったより大事になっているが、既定路線。
ここからさらにイベントに派生することもありえるだろうし、知名度はあった方がいい……はず。
そんな僕の内心を読み取った訳ではないだろうが、早速とばかりにトリシャが提案をしてきた。
「そうだ! もしよかったら、お昼は一緒に食べない? へへへへ、噂の雷光様に、ちょっと頼みたいこともあったりして……」
「僕に? ……まあ、聞くだけならいいけど」
トリシャには、模擬戦の時にお世話になった。
相当無茶な頼みでもない限り、少しばかり力になるのもやぶさかじゃない。
「あ、それと、向こうのあの子も一緒でいい? その、平民の子なんだけど……」
そう水を向けられた僕の反対側の隣の子、確かレミナとかいう女の子は、トリシャに水を向けられてビクッと肩を跳ねさせた。
……これ、ちゃんと本人に話通ってるんだろうか?
「本人がいいなら、僕は全然問題ないけど」
そう返すと、トリシャはちょっと安心したように笑って、
「――じゃあお昼になったら空き教室に来てね! 待ってるから!」
……え、食堂で食べるんじゃないの?
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イベント発生の予感!
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