第三十三話 遭遇
「――な、なに? 急に立ち止まっちゃって、どうしたのよ?」
ティータの言葉にはすぐには答えず、周りを見渡す。
毎年この時期は部活動なども休みだそうで、妙な物音は聞こえない。
でも……。
「ちょっと待って、ティータ。ええと、こっち……かな?」
そう断ってから、僕は走り出した。
脳内マップを頼りに、薄闇に染まりかけた敷地内を駆け抜け、問題の場所を目指す。
「ど、どこ行くのよ!」
なぜだか、焦燥感が募る。
ティータの声がちゃんとついてきているのを確認して、僕はさらに足を速めた。
(こっちは……校舎裏?)
訓練施設からも、部活棟からも離れた場所にある、校舎の陰。
異変が起こっているのは、どうやらそっちの方向らしい。
(あの辺、かな?)
らしくないことをしてるなぁ、と思うが、僕は絶対原作守護るマン。
この先にイベントらしいものがあるのなら、見逃すことなんて出来ないのだ。
「お邪魔しまーす、っと」
僕は、軽い気持ちでひょいっと校舎の陰を覗き込んで、
「ひゃっ!」
一瞬で、後悔した。
「あぁ!?」
「あんだぁ?」
校舎裏に飛び込んだ僕を迎えたのは、暴力的な気配を漂わせた五対の目。
もちろん学園の生徒なのは間違いないだろうが、クラスメイトと比べると体格も迫力も、それから身に纏っている空気まで、まるで違う。
「や、や、やばいわよ! コイツらアンタよりずっと強そうだしワルそうだし、絶対やばいわよ!」
ティータが叫ぶが、そんなもの言われなくても分かっている。
ここに屯している五人は見るからに柄が悪く、言ってしまえば不良という奴だが、目の前の彼らはそんな生易しい存在じゃなかった。
彼らは素行が悪かったとしてもこの学園に入学出来るだけの実力を持っていた訳だし、学園の生徒たちは入学前にかなり鍛えてきているとはいえ、学園での一年の成長は大きい。
あの「ファイブスター」にも比肩するほどの迫力と暴力の気配を、彼らは備えていた。
「き、聞いたことがあるわよ! 学校には校舎の裏に住み着いて他人を攻撃して喜ぶ習性のある、ヤンキーって生き物が生息してるって! アレ、絶対ヤンキーよ!」
震える声でティータはそう言うが、アレはただのヤンキーじゃない。
エリートのヤンキー。
――つまり、エリートヤンキーだ。
なんか間違ってる気もするが、とにかくその威圧感は当然半端じゃなく、しかも返答を間違えたらすぐにでも殴りかかってきそうな気迫があった。
「んだよ、まぁた一年坊か?」
「さっさと失せろ。さもなきゃ……」
男たちの剣呑な気配が、さらに強くなる。
(わ、わわ! まずいって!)
さっき熱中して魔法を試してから、まだ全然時間が経ってない。
調子に乗って削ってしまった最大HPはいまだに危険域に突入したままだし、MPだって一番しょぼいマナポーションを飲んだだけだから、下位の武技を二、三回使える程度にしか残ってはいない。
――何が起こっても対応出来るように、最大HPは出来るだけ満杯状態に、可能ならちょっとした魔法を使えるくらいのMPも常に確保しておきたい。
なぁんて言ってたのは誰だったのか。
自分の迂闊さを殴りたい。
こんな状態で、間違っても対人戦なんて出来るはずがない。
(こ、こここは、落ち着いて逃げの一手だ!)
幸いにも彼らは円陣でも組むようにこちらに背中を向けて丸くなっていて、何やらお取込み中のご様子。
僕はこれ以上絡まれませんように、と祈りながら、慌てて回れ右をする。
「し、失礼しました――!」
そうして何か因縁をつけられる前に、急いで退却……しようとして、
「……え?」
円になった先輩たちの奥。
そこに一瞬だけ見えた人影に、心臓が跳ねる。
「――セイ、リア?」
そこで何が起こって、そしてこれから起きようとしているのか。
ところどころ乱れた服を押さえるそぶりもなく、俯き、ただ静かに涙を流している彼女の姿を目にした瞬間、僕の頭から全ての事情が吹っ飛んでいた。
「アルマ!? アルマってば!! な、なにしてんのよ! いいから早くここから離れて、誰か呼んで……」
耳元で叫ばれるティータの声も、もはや頭に入ってはこない。
別に、親しかった訳じゃない。
むしろ敵視されていたくらいで、仲がよかったなんて口が裂けても言えない。
でも……。
「おい」
気が付けば、自分の口から出たとは思えないような低い声。
その声に、彼らが反応するよりも早く、
「――今すぐ彼女から離れろ」
僕は上級生たちに向かって、力強く足を踏み出していた。
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これは主人公!
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