第二部

第十三話 時は過ぎて

実は子供時代の修業パートをのんびりやってく案もあったんですが、面倒になったのでぶっ飛ばします!


『結果』だけだ!!

修業パートの『結果』だけが残る!!


―――――――――――――――――――――


「――そろそろ時間、か」


 視界の端に映ったメニュー画面で現在時刻を知った「僕」は、ゆっくりと立ち上がった。


 そのままなんとはなしに視線を落とすと、そこには子供の手とは言えない大きさの自分の手が映る。


(僕も、大きくなったなぁ)


 あらためてそんな感慨がこみあげてきて、少しだけおかしくなる。


(ついに始まる、んだよな)


 早いもので、全てが変わったあの「決意の日」からもう九年の月日が過ぎた。

 それはつまり、僕が十五歳になり、学園への入学資格を得たということだ。


 ただ、その事実に晴れがましさを感じることはない。

 ひたすらに透徹した純粋な使命感だけが、僕の心に満ちていた。



(――守護まもるんだ、絶対に!)



 あれからもこの世界とアンケートに書いた内容の差異を探したが、それらは全て失敗に終わった。

 もはや原作を守護る以外に、僕が、そしてこの世界が存続する道はない。


 それまでの準備期間でどうするか。

 僕は悩んだが、ひたすら自己強化に努めることに決めた。


 気になるのは、ゲーム転生のルールの一番目。



・基本的にはゲームのシナリオの通りのことが起きますが、あなたがゲームと違う行動を取れば歴史が変わる可能性があります



 ゲームスタート時の「アル」が落ちこぼれだったのは確定しているから、僕が自己研鑽に励むことで歴史が変わってしまう可能性は否定出来ない。

 しかし、そのリスクを理解した上で、僕は自分を鍛えることを選んだ。


 僕は〈フォールランドストーリー〉は知らないが、〈フォースランドストーリー〉についてはよく知っているし、そのつもりでアンケートを書いた。

 だから、確信があったのだ。



 ――あの難易度で普通に初見攻略してたら死ぬでしょ、という確信が。



 ……いや、まあ、その、ね。

 もちろん〈フォースランドストーリー〉は名作だ。

 戦闘もやりごたえがあって、バランスが取れていて、決して理不尽じゃない。


 ……「リセットを許容する」という前提なら。


 だってあのゲーム、とりあえず全滅してから戦術を練るのが前提になっているというか、あからさまにリトライが簡単なのはもうそういうことだろう。

 そして最悪なのは、「俺」がアンケートにその通りのことを書いてしまったということ。


 ――つまり、この世界もリセゲー並みの難易度を誇る可能性が高いのだ。


 だったらもう、こっちは自分をバチバチに強化して、初見の罠をパワーでごり押ししてなんとかしていく以外に生き残る手段は思いつかなかった。


(だけど、大丈夫だ)


 希望はある。

 このゲームには二周目以降があることも、それによって戦力自体が強化出来ることも、すでに自分の書いたアンケートが証明していた。


 ならば、多少は初期キャラを逸脱した性能で入学しても、イベントの流れがおかしくなることはない……はずだ。


「……ぁ」


 物思いにふけりながら歩いていると、あっという間に目的地に着いてしまった。


 九年前から利用するようになった、レオハルト家の秘密の練習場。

 二年前に兄さんが「学園」に旅立ってからは、ほとんど僕専用の場所となっていたそこに、今は二人の先客がいた。



 ――レオハルト公爵家当主〈レイモンド・レオハルト〉と、その妻〈ルシール・レオハルト〉。



 つまりは僕の父さんと母さんがその先客であり、今日の「試験官」だ。


「よく来たな、アルマ。果たしてお前に英雄学園に名を連ねるに足る実力があるか、私たちに示してみろ!」


 実力もなく英雄学園に籍を置くのは、貴族の名折れ。

 もし今回の「お披露目」で実力が足りないと判断されたら、僕は〈帝立第一英雄学園〉はあきらめ、国外にある、身分問わずに入学出来る学校に行き先を変えろと言われている。


(たぶん、これも愛……なんだろうね)


「まるで貴族の体面のため」のように言っているが、おそらくはそれこそが建前だ。


 話を聞く限り、英雄学園は決して甘い場所じゃない。

 もし生半可な実力でその門をくぐったならば、命を落とす危険性もある。


 見込みがないと思ったのなら、向かわせないことが本人のためだというのは僕にも分かる。


「アルマ……」


 母さんの、僕を呼ぶ小さな声が、耳に届く。


 最近は練習場を使う機会も減ってきたからか、母さんが僕を心配そうに見る機会も増えた。


 前世の記憶のせいで変わったことばかりする子供を、ここまで愛情深く育ててくれた両親には、感謝しかない。


(だけど……)


 どんな危険が待ち構えていたとしても、僕はあきらめる訳にはいかない。

 英雄学園に入り、そして、「原作を守護る」ために!


(――大丈夫。僕は強くなった)


 身体の大きさだけじゃなく、ここ九年間、原作を守護るために毎日たゆまずに訓練を重ねた。

 一番分かりやすいところでは、六歳の時は1だったレベルを、この九年間で25まで引き上げた。


 ゲームにもよるが、これは序盤の終わりから中盤程度の能力になるはず。

 主人公がレベル25から始まる学園物RPGなんて前代未聞だと思うが、生存のためだ。

 見逃してほしい。


 むしろ25を超えてレベルを上げることも検討したが、イベント条件にレベルがあったら困るということと、あまりにも目立ちすぎるということ。

 さらには、入学後に行われる〈精霊の儀〉を行うことでレベルアップ時の成長に補正がかかるという情報を重視して、泣く泣く中断した。


 スタートダッシュばかりにかまけて、最終的な強さをないがしろにしてはそれはそれで危険だ。

 いくら「成長に上限がない」と神に明言されているとはいえ、そもそもこのゲームのカンストさえ知らない以上、そのメリットを生かせる作りになっているかも分からない。


 ただ、レベル上げをそこで止めた代わりに、僕は「自分にしか出来ない方法」で強くなった。


(ここから、だ)


 派手な訓練はこの練習場を使っていたから、両親さえ今の僕の力を知らない。


 果たしてその訓練が、僕の努力が、これまでの九年間が、本当に意味のあるものだったかどうか――



 ――その成果が今日、試される!




―――――――――――――――――――――

本編よりクソゲ回の方が書くのが楽という不具合

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