第十話 知らないこと
「――そっか、こうすればよかったんだ!」
ぼくは布団に右手だけを突っ込み、〈ライト〉を発動させる。
どうやらメニューから魔法を使うと右手の開いた方向に魔法が発動するようで、布団の中がぼわっと明るくなるのが分かった。
これなら目立たないし、ぼくもまぶしくない。
完璧な解法だ。
(それにしても、このメニューから魔法発動出来るの、かなりチートなんじゃないか)
ぶっ壊れ性能という意味でも、元のズルという意味でもチート感がある。
今まで発動はさせられなかったものの、一応魔法を使おうとしたことはあるので、魔法発動の大変さは知っている。
ゲームに準拠しているので、魔力操作とかイメージで威力は変わったりしないし、キーワードを口にするのが大事というのはそうだけど、じゃあ〈トーチ〉って口にするだけで〈トーチ〉の魔法が使えるかっていうとそこまで簡単でもない。
魔力をちゃんと手に集めないといけないし、その状態で正しい魔法名を口にして、さらに集めた魔力が暴走しないように制御する必要もあるとかなんとか。
(それが上手く出来るかが、この「魔法の成功率」になるのかな?)
それとも完璧に魔法を制御してなお、成功率に出ている確率でしか成功しないのか、その辺はちょっと検証してみないと分からない。
まあとにかく、集中しないといけないのが戦闘中などにはネックになりそうだ。
ただその点、ぼくのメニューならその辺の余計な手間はゼロ。
なんなら念じるだけで発動するので、相手に魔法名が分からないのもいい感じ。
(そうだ!)
普通の魔法と違って、この方式での魔法発動なら準備時間がない。
連打してみたら、一気に魔法がたくさん撃てるんじゃないだろうか。
思いついたら、試さずにはいられなかった。
「ほいほいほい、っと」
名人になった気分で、僕は手の方向を微妙に変えながら、メニューから〈ライト〉を三連打する。
だが……。
「あー、こりゃダメ、か? あ、れ……?」
残念ながら、連打しても〈ライト〉は最後に放ったものしか発動しなかった。
でも、それよりも、
(な、ん……これ、や、ば――)
急速に、本当に突然に、身体から力が抜けていく。
「……ぁ」
助けを呼ぼうにも、声が出ない。
もう座っていることすら出来ず、ぼくは前に身体を投げ出すように倒れこみ、
「――!」
ベッドにほおがついた衝撃で、かろうじて意識が繋ぎ止められた。
「――っは!」
短く、息を吸い込む。
ほんの少しだけ力が戻ってきて、ぼくは最後の力を振り絞って、ゴロンと身体を転がして仰向けになった。
「……はぁ、はぁ、はぁ」
自分の荒い息遣いだけが、部屋に響く。
突然すぎる危機に、身体の震えが止まらない。
(なんだったんだ、今の?)
今までに感じたことのない種類の脱力感。
これまでの人生、いや、前世を合わせても、さっきのような感覚を味わうことはなかった。
思い当たることがあるとしたら、あの魔法の連打。
連打がダメだったのか、あるいは……。
(そうだ、MP!)
よく転生モノの小説で、最初に魔法を使った時に、MPを使いすぎて気絶する描写がある。
しかもMPを使い切ると最大MPが成長したり……っていうのは、ゲームだからないだろうけど。
(確か、前見た時はHPが54/54でMPは6/6だったかな)
これが多いのか少ないのかは比較対象がないから分からないけれど、MPがHPの十分の一程度しかないと考えると、「アルマ」のMPはかなり少ないように思える。
最初の二回も加えると〈ライト〉を五回も使ったんだから、〈ライト〉の消費MPが2以上だったらMPが足りなくなるはず。
MPがないのに無理に魔法を使おうとしたなら、気分が悪くなったというのも分かる。
(さすがにちょっと、舞い上がりすぎたかぁ)
せめて、消費MPを確認してから魔法を使うべきだった。
反省をしながらも、ぼくはなんだか解決したような気分になって、自分のステータスを開き、
「――なん、だこれ」
そこに表示された数値を見て、絶句した。
HP 14 / 14
MP 0 / 6
(どういう、ことだ、これ)
6だったはずのMPが0になっている。
これはいい。
例えば、〈ライト〉の消費MPが2だったなら、消費MPは合計で10。
6全部使っても足りない計算になるからおかしくはない。
問題は、HP。
最大HPの数値が赤くなって、前に見た時よりも大幅に下がっている。
(間違いなく最大HPは54だったはず)
一体どうして?
魔法の使いすぎ?
連打のせい?
何か攻撃を受けた?
まさか毒をもられた?
思考があふれて、止まらない。
(ああ、もう!)
初めて、「知らないこと」の怖さを思い知る。
ぼくは今まで、事を甘く見すぎていたのかもしれない。
学園になんて行かなくたって、この世界は人の命を容易に奪うだけの力を持っているんだ。
(――情報! とにかく情報が必要だ!)
もうなりふりなんて構ってはいられない。
ぼくは弱った身体をふらつかせながら、情報を求めて部屋の外に飛び出した。
―――――――――――――――――――――
本当は怖いミリしらな世界!
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