第2話
「今日から、お前はここに住むことになる。今から私と特訓だ。ついてまいれ」
「ちょっと待てよ。俺だって仕事もあるし、今住んでいるところもある。それに俺は、お前らと
「お前の退職届は済ませた。住んでいる住居も退去の手続きは済んでいる。荷物もここへ運び込んだ。お前の帰るところはここしかない」
「おい、おい。強引だな。それじゃ、俺はこれからどうすればいいんだよ」
有無を言わさず、
「これから、お前の潜在能力を引き出す。覚悟しろ。これに耐えられなければ、お前は使い物にはならない」
「使い物にならなかったら、俺、どうなるの?」
「要らぬ者をここに置いておくわけにいかぬ」
「え? 追い出されるの?」
「そうだ」
(強引に連れてきて、勝手に退職届出して、住居も退去させて、使えなかったら捨てられるのか? ひどすぎる)
「そこへ座れ」
大輔は言われたとおり座ると、煋蘭が正面に座り、にじり寄って来た。
(わぁ~。近づいてくる。なんかいい匂い)
煋蘭は大輔の思考を読んでいるが、顔色を変えず、大輔の頭を抱え込んだ。
(おぉ~。これはいきなりおっぱいパフパフか?)
大輔の思考に我慢が出来なかったのか、煋蘭は大輔を持ち上げてそのまま後ろへ投げ飛ばした。
「お前は邪念が過ぎる。他の方法に変える。表へ出ろ」
道場から出るところに、大輔の靴が置かれていた。
「俺の靴、なんでここにあるんだ? 玄関で脱いだのに。何か変わった気配がするぞ」
「感がいいな。式神だ」
「煋蘭ちゃん、式神操れるの? 妖退治ってのも、本物っぽいな」
式神がなぎなたと刀を煋蘭に渡した。
「武器を持て」
煋蘭をそう言って、刀を大輔に投げて渡した。
「おっと」
その刀のずっしりとした重みで、大輔は真剣であることを悟った。
「鞘から刀を抜け」
「煋蘭ちゃん。これ、真剣じゃないか。煋蘭ちゃん死んじゃうよ。俺、剣道やってたから、心得はあるんだ」
「自分の心配をしろ。さあ、かかって来い」
煋蘭はなぎなたを大輔に向けて構えた。
大輔も仕方ないという感じで、刀を鞘から抜くと構えた。
「かかって来ぬのなら、こちらから行く」
煋蘭はなぎなたで大輔の刀をなぎ払った。
「心得があるならば、刀を離すな。おまえは武器も使えぬのか。情けない」
式神たちはなぎなたと刀を回収した。
「ならば、素手で行くぞ。さあ、かかって来い」
煋蘭は拳を握り、戦う姿勢を取った。
「ほんとにやるの? 俺、女の子の顔を殴るなんて出来ないよ」
大輔がそう言った瞬間、左わき腹に煋蘭の蹴りが炸裂し、数メートル飛ばされた。
「ぐはっ」
大輔は苦痛に顔を歪ませ、
「あばら骨が折れたかも」
と言った。
「話せるなら折れてはいない」
「もしかして、手加減してくれたとか?」
「殺しはせぬ。早く立て」
「無理だよ。俺、怪我しているんだ」
「甘えるな。来ぬのなら、こちら行くぞ」
その後も、煋蘭の拳と蹴りを受け続けた大輔は、見るも無残な状態で、息をするにも苦しい様子。もうすでに、軽口をたたく元気すらなかった。
「それでおしまいか? お前はまだ、一度も私に攻撃をしていない」
(俺、女の子に手を挙げられないよ。痛い、苦しい、もう死にそうだ)
「これぐらいでは人は死なぬ。皇の血を引く者がこのような無様な姿は赦されぬ。さあ、立て。私に攻撃して来い」
(見ての通り、俺、もうズタボロだ。動けないよ。ご褒美くれるとかだったら、頑張れるかも。煋蘭ちゃんに勝ったら結婚してくれるとか)
「私は自分より強い者を伴侶とすることに決めている。お前が私より強くなったら、伴侶にすることを考えてもいい」
(ほんと? それじゃ、俺、死ぬ気で頑張っちゃうよ)
大輔が精神を集中させると、身体に何やら力が沸いてきた。
「おぉ。俺、なんか熱い血潮が漲って来た。煋蘭ちゃんのご褒美が効いたみたいだ」
「お前、傷が治癒している。能力が開花したのか」
「そうらしいな。なんか強くなった気がするぜ」
大輔はそう言って、煋蘭を捕まえようとしたが、躱されたうえ、背中に重い蹴りを食らった。今度は煋蘭も手は抜かなかったため、大輔は庭の端まで飛ばされた。
「調子に乗るな。今日はここまでだ。お前の潜在能力を引き出すのが今日の課題だ。後は自由に過ごすといい。それと、お前に一言言っておく。私や母で卑猥な想像をするな」
煋蘭の嫌悪に満ちた眼に、大輔は反省したように、
「悪かった。あんたがあまりに美人で、俺もちょっと舞い上がっていたんだ」
としおらしく言った。
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