39話「決着と待ち構えていた者」



 かめは……もとい、俺の攻撃がモンスターたちを飲み込み、辺り一帯が光に包まれる。思わず、腕で目を庇いながら光が消えるのを待つ。



 しばらくして視界が見えるようになると、俺の攻撃の結果がそこにはあった。



「三体目までは貫通しなかったか」


「ブモォォオオオ」



 そこには、鼻息を荒立たせるダンジョンミノタウロスの姿があった。どうやら、ダンジョングレートボアとダンジョンコカトリスが実質的にやつの盾になる形となってしまい、結果として生き残ったようだ。運のいいやつめ。



「こい、止めを刺してやる」



 俺の言葉が通じたのか、ダンジョンミノタウロスが勢い良く突っ込んできた。手には巨大な斧を装備しており、俺に接近すると同時に振り下ろしてきた。



 当たれば大ダメージは必至だが、当たらなければどうということはない。それに、その攻撃は実に緩慢であり、避けることに苦労はしない。



「それで終わりか?」


「モォォオオオ」



 攻撃を躱されたことに激高したダンジョンミノタウロスが、遮二無二襲い掛かってくる。しかし、その攻撃は空を切り、俺に掠ることすらない。



 平静さを欠いた人間ほど判断力が鈍り、動きも単調になる。そんな相手から繰り出される攻撃を躱すなど実に簡単なことだ。



 しばらく、やつの攻撃を躱していたが、それ以上戦況が動くということはなく、あとは俺がいつ反撃するかという状況になっていた。



 他二体のモンスターがやられた時点で、すでに勝敗は決していたのである。



「これで終わりだ。【チェインボム】」



 最後の止めとして、俺は魔法を使用する。その効果によって、ダンジョンミノタウロスの四肢が順々に吹き飛んでいき、最終的に頭部が爆発で吹き飛んだ。



 両手両足と頭部を失った体は、重力に耐えられずそのまま仰向けに倒れ込み、跡形もなく消え去った。



 その場に残されたのは、いつもの魔石と各階層主の素材のみであった。



〈拓内畑羅木のレベルが85に上がりました〉


〈スキル【成長率上昇】がレベル7に上がりました〉


〈スキル【健康】がレベル5に上がりました〉


〈スキル【魔力感知】がレベル9に上がりました〉


〈スキル【無属性魔法】がレベル5に上がりました〉


〈スキル【詠唱破棄】がレベル7に上がりました〉


〈スキル【火魔法】がレベル5に上がりました〉


〈スキル【水魔法】がレベル5に上がりました〉


〈スキル【土魔法】がレベル5に上がりました〉


〈スキル【光魔法】がレベル5に上がりました〉


〈スキル【回避】がレベル6に上がりました〉


〈スキル【直感】がレベル6に上がりました〉


〈スキル【危険察知】がレベル7に上がりました〉


〈スキル【大物食い】がレベル3に上がりました〉




 さすがに同レベル帯のモンスターを倒しただけあって、レベルの上がり幅が半端ない。スキルもいろいろと上がってるようだ。じゃあ、一応ステータスをチェックするとしますか。





【名前】:拓内畑羅木


【年齢】:十五歳


【性別】:男


【職業】:無職


【ステータス】



 レベル85




 体力:137500


 魔力:121000


 筋力:1630


 耐久力:1499


 精神力:1274


 知力:1539


 走力:1293


 運命力:33311



【スキル】:鑑定LvMAX→解析Lv1、成長率上昇Lv7、健康Lv5、アイテムボックスLvMAX→ストレージLv1、異世界言語Lv3、


 魔力感知Lv9、無属性魔法Lv5、詠唱破棄Lv7、火魔法Lv5、水魔法Lv5、風魔法Lv4、


 土魔法Lv5、光魔法Lv5、闇魔法Lv3、時空魔法Lv4、回避Lv6、直感Lv6、錬金術Lv6、危険察知Lv7、


 精神耐性Lv3、大物食いLv3






 モンスターと比べると、レベルに対してパラメータの量が多い気がする。たぶんだが【成長率上昇】というスキルが関係しているようだ。



 これで、三十階層の階層主を撃破することができたわけだが、時刻はすでに夕方に差し掛かろうとしていた。



「ちぃ、肉集めに時間をかけすぎたか? 仕方ない、ここは一旦仕切り直しだ」



 目的の米を入手できていないことで、多少なりとも焦りが出てしまったが、米が逃げることはないと考えを改め、ここは一旦宿へと帰還することにする。








「待っていたわよ!」



 宿に戻ると、キャロラインが仁王立ちで待ち構えていた。どうやら、俺が帰ってくるのをずっと待っていたらしい。



「一体どこへ行っていたのよ?」


「ここは迷宮都市なんだろ? だったら、行くところは一つじゃないか」


「もしかして、君一人でダンジョンに?」



 俺の返答が意外だったのか、珍しくきょとんとした顔を浮かべるキャロライン。その顔がちょっと可愛いかったと思ってしまったのは内緒だ。



「少々ダンジョンに目的ができたのでな。一人で潜っていた」


「どこまで攻略したの?」


「ふっ、さあな」



 そう言いながら、俺は彼女を置き去りにして食堂へと歩き出す。そんな曖昧な返答で彼女が納得してくれるはずもなく、俺のあとをついてきた。



 それから、食事中も俺のダンジョン攻略の進捗について聞き出そうとしてきたが、俺はキャロラインの追及をのらりくらりと躱した。



「明日は、私も一緒に行くわ!」


「そうかい。好きにすればいい」



 そう言って、俺は食事を終えると、彼女と別れた。宿の部屋に戻って寝る支度をすると、俺は意識を手放した。





 ~ Side キャロライン ~



「まったく、一体どうなってるのよ」



 キャロラインは困惑していた。



 まさか、拓内がここまでダンジョンに執着するとは思っておらず、どうやって彼をダンジョンへと誘おうかという策を用意していたのが無駄になってしまった。



「まあ、彼がダンジョンに興味を持ってくれたのは僥倖だわ。これで、Sランクの規定階層である五十階層まで行ってくれれば……」



 彼女の目的は、拓内をSランク冒険者にすることであり、そのための条件としてラビリスのダンジョンを五十階層まで踏破させることにある。



 その条件とは別に三人以上のギルドマスターの推薦というものがある。しかし、すでに自分とゴッザムの二人のギルドマスターの推薦は得ており、残りの推薦人はあと一人を残すのみだ。



 その残りの一人もラビリスのギルドマスターであるバスターに話を持ちかけており、拓内が五十階層まで到達できた暁には、自分も推薦人になるという約束をしている。



「私は見届け人として同行する必要があるわ」



 本来冒険者の階層到達は自己申告であり、その証拠として階層ごとに点在しているモンスターの素材を提示することによって申告の虚偽を判定している。そのため、キャロラインが同行する必要性はまったくないのだが、ダンジョン以外で素材を入手できる可能性も考慮し、ギルドマスターである自分が証人として同行する気だったのだ。



「なのに、私を置いて勝手にダンジョンに行くなんて」



 だというのに、彼のダンジョン攻略に同行できなかったことをキャロラインは悔やんでいた。そもそも、自分が彼をダンジョンへと誘ったのにもかかわらず、その誘った相手を置いて勝手に行ってしまうのはどうなのかと彼女は拓内に対し、不満を抱いている様子だ。



「彼がどんな方法でダンジョンを攻略するのか、見届けなければならない」



 そう意気込むキャロラインであったが、残念ながら彼女の思いとは裏腹に拓内のダンジョン攻略に同行することは叶わなかったのであった。

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