リィズ短編集 忍び寄る恐怖

第1話 怪物悪女は優しくなりたかった

　優しくなりたかった。

　でも優しくなれなかった。

　優しくなろうと頑張った。

　でも優しくなれなかった。

　人に優しくしなさいと言われた。

　だから、その通りに生きようと思ったのに。

　人は私を利用して、裏切るばかり。

　私の優しくが足りないせいだと思ったこともあった。

　けれどいくら優しくしても、一向に何もよくならなかった。

　だから私は人に優しくするのを忘れた。

　悪役と呼ばれるようになった。

　鬼と呼ばれるようになった。

　人でなしと呼ばれるようになった。

　たくさんの人が不幸になった。

　血も涙もない所業で犠牲になった。

　たくさんの人が、悲しんで、つらい思いをした。

　怪物になって、醜くなって、世界が壊れた。

　人々を怪物にして、心も怪物にして、世界も怪物にしていった。

　みんな、血だまりの中に消えていった。

　恐怖と苦痛の中で。

　私には彼らの感情が理解できた。

　それでも優しくはならなかった。

　優しくなることをしなかった。

　私は最後まで優しくない人間だった。

　誰もがみな優しくない人間だといった。

　きっと、死んでも変わらないだろう。

　ずっと、いつまでのその評価は変わらないだろう。

　でも覚えておいてほしい。

　優しくない人間を作ったのは、

　自分の事を優しいと思っている、

　お前たちなのだと。

　私は今日も怪物として、悪として、人々をーーする。

「助けてくれ！　死にたくない！」

　ーーとーーになっても。

「やめてくれ！　お願いだ！」

　ーーがーーになって怪物を生んだとしても。

　世界を怪物だらけにしていくことをやめない。

　私はこのままずっと変わらないだろう。