孤善
煩度理愛
孤善
ぱちぱちぱちぱち 今日も独りパソコンに文字を打ち込む。
何時からであっただろうか、こんな生活をするようになったのは。
「ごめん、別れて欲しいの」
「…え」
「ほんと、ごめんね。あなたのことが嫌いになったとかそういうのじゃないんだけど、なんていうか、合わないなって」
「うん」
「……連絡するとき、いつも私からだったよね。ずっと言えてなかった私も悪いとは思ってるんだけど、やっぱり他の人とかの話聞くと連絡するのが普通だって言われて」
「うん」
「……やっぱり、何も感じてないんだ」
「…」
「じゃあ」
そう言って彼女は俯きながらただ淡々と帰りの支度を始めた。
僕は、その光景をただ茫然と見つめることしかできなかった。
彼女が去ってから半刻。僕は思い切って自分から連絡してみることにした。
「ごめんなさい」
ただ、それだけの一言。だけど、これだけは言わなくちゃならないと思った。
連絡画面を開いた瞬間、急に涙が溢れだした。いや、本当は我慢していた。
「泣くな」と心の中で呟いて、ずっと我慢していた。
初めての恋人だった。当時の僕は彼女がいることをただステータスにしたかったという屑の極みの様な理由で付き合っていた。しかし、彼女と共に過ごしていくうちに、本気で好きになっていった。今日、彼女が来る前にもどんな話をしてやろうかだとかを考えて一人でにやけていた程だった。
凄く、すごく幸せだった。幸せというか、うれしいという感情に近いだろうか。兎に角心臓と脚のふるえが止まらなかった。
それがどうして、こんなことになってしまったんだろう。
至らなかった理由の考えが脳内を迸ってはぐちゃぐちゃになっていく。
どこで誤った。どこで間違えた。どこが足りなかった。
「連絡するとき、いつも私からだったよね」
彼女の言葉を思い出した。
「…そっか」
僕は、ずっとずっと独りよがりだったんだ。今だって、彼女の言葉を無視して一人考えを走らせている。相手のことなんて一ミリも考えてなかったんだ。
本当は、彼女のことなんかこれっぽっちも好きじゃなかったのかもしれない。
ただそういう感情らしきものを持てている自分に酔いしれていただけで、何もかもが独善だった。
「やめて欲しかったんだね ああ 苦しんで欲しかったんだね ああああ」
ああ駄目だ。言葉がまとまらない。自分はどうしてこんなんなんだ。
なんで何もしないで相手から見放されないなんて考えてしまったんだ。
「…俺は、天才なはずなのに」
…信じられない言葉が、僕の口から零れ落ちた。零れ落ちたコトバが、滲みる。
僕はそんなことを考えていたのか…?
「ああああああああ!」
刹那、俺は家から飛び出した。クソが!!なんでこの俺が、俺様が振られなくちゃならないんだ!!
ずっとずっとずっとずっと!!俺は!!!賢かったんだぞ!!
学年の成績だって1年の時は一位だった!!俺はなんだってできたのに!!
ぱちぱちぱちぱち 軽蔑する目で画面の前のSNSアカウントを蔑む。
「…屑め」
孤善 煩度理愛 @kuri-ku
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