第7話 謀攻篇②「彼を知り己を知れば百戦殆からず~我が身を五分反省してみよう~」

【初めに】


 仕事が――捗る!

 とても仕事が捗ります。

 勿論文章ではなく薬剤師の仕事です。

 調剤薬局業界をとりあげる専門誌のインタビューとかも受けており、プロの記者さんの文章は上手いなあと感動するばかりです。

 それもこれも婚活が上手く行ったからでしょう……素敵な出会いは人生を豊かにします……ところで、素敵な出会いとは言いますが、何が素敵な出会いなのでしょうかね? 何をもって素敵な出会いと言えるのかは、出会った相手に与えたものと得られたものが決めるのかもしれませんね……フフ。


 などと、ボケたことを言っている場合ではありません。ここは私が惚気ける場所ではなく、婚活を振り返る場所だからです。嘘、ちょっと惚気ける場所。

 婚活だと出会いの良し悪しを決めるのは相互理解と客観視(間主観視)です。お互いがお互いのことを理解して、眼の前の相手が互いにとって結婚に適した相手か、己は相手に魅力を提供できるか、結婚して幸せになれるか、冷静に判断することができれば全ての出逢いは良い出会いになります。「結婚相手としては明確に違うけど良い人だったな~がんばってね~」で終わるお見合いとかもあっていいと思います。そういうお見合いも結構ありました。あれはあれで楽しい時間だったし、そういう時も楽しく話せたことで「じゃあ今度はあの人紹介してみようかな? 相性良いかも?」とお見合い相手の相談所の相談員さんに思ってもらえることもあります。そもそも人と楽しく話して損することはありません。

 なので、彼を知り己を知る為にはどうしたらいいか、ここで考えていきたいと思います。


【Today's 孫子ヒント「彼を知り己を知れば百戦殆からず」】


 まずもって海野しぃるが己を知っているかといえばノーなんですよね。さして客観視できている訳じゃない。それはプロポーズ成功の勢いで始めてしまったこの赤裸々なエッセイを見ても明らかでしょう。冷静な自己分析よりも瞬間瞬間を必死に生きるエモーションの男、それが私です。

 じゃあ客観視とか言うなよと思いましたか? 成る程、それは当たり前です。ですがこの婚活エッセイの趣旨は「弱いまま勝つ・弱くても勝つ」であることを思い出してください。別に自分が客観視なんてできなくて良いんですよ。そもそもこの世界に完全な客観視なんてものは無く、あなたが今客観視だと思っているものは「他者になったつもりで眼差す自分の視線」です。多少冷静になったつもりで、どこまでいってもそれは自分自身のものです。客観視が必要な時に本当に必要なのは「他者の主観」です。そしてそれを得る為にに頼るのです。


 今回話したいのは相談員さんにちゃんと頼ろうなということです。相談員さんはプロです。自分のことを落ち着いて客観視できない新人婚活者にも、自分のことを落ち着いて客観視できない古参婚活者にも、慣れています。「相談員さんアーチャー、着地任せた」って叫びながら飛び降りるとしっかり受け止めてくれます。あとは信じて生身の自分で飛び出すだけです。

 自分を偽らず、ありのままで思ったことや考えを伝えた上で、相談員さんからアドバイスを受け取りましょう。相談員さん相手に偽りの自分など無意味です。ありのままの姿と思いを見てもらった上で「こうしましょう」と言われたら素直に従ってください。相談員さんは立派な社会人であり大人なので、プロとして必要な意見をできるだけ婚活者がモチベーションを保てるように届けてくれます。でもその相談員さんが意見を言いやすくする為には、あなたの主観が必要なのです。あなたの主観、剥き出しの心を、相談員さんにぶつけてください。覚悟を完了させ、裸になるのは、それは当然抵抗があるでしょう。しかしその胸を裂き全部出して愛より熱い歌になってください。相談員さんは厳しい戦いを乗り越える戦友です。何もかも出していきましょう。

 かくいう私も函館時代にお世話になった相談所では思ったより自分を出せていなかったのではないか? と函館時代の婚活を振り返って反省しています。もっとちゃんと相談員さんに相談して指示に従っていれば見えた良縁もあったと思います。口では偉そうに言っていますがこんなものです。上手くなくてもやろうとするだけで違いますから、自分を知る為に、自分の感覚をちゃんと言葉にして、相談員さんに伝えてみましょう。言語化が苦手だと感じている人は、最初メモに書いて整理してみても良いかもしれませんね。

 これが己を知る、ということです。己如きに己を知ることなどできぬと知り、他者を頼ることを知るということです。


 それでは彼を知るにはどうすればいいか。彼を知るには、相談員さんに聞きましょう。気になった相手は結婚相談所のプロフィールページに載せていない情報もあることでしょう。そしてそれは過去に大病を患ったとか、生活スタイルが特殊とか、とてつもなくヤバい人とか、様々なパターンがあります。これからお見合いを申し込みたい場合は結婚相談所のプロフィールページを熟読し、相談員さんに聞いてみましょう。すると同じ相談所の会員ならぶっちゃけた話をしてくださるでしょうし、他の相談所でもお見合い前に事前に聞くだけ聞いてもらえたり、他の会員さんがお見合いした時の情報が手に入る可能性があります。本当に不味い時は事前に止めてくれたりします。


 私は函館時代に居た相談所で、見目麗しいお嬢さんが在籍していたのですが、当時の相談員のおじいさまが「ならぬ……ならぬぞ海野君……君のような若者には……」とめちゃ止められたことがあります。後にそのおじいさまが健康上の理由で引退なさって、相談所が別の相談所と合併してから、その「ならぬぞ……」と言われた人とお見合いしてみましたが……やばかったね……。「私は医者の娘だぞ!」「薬剤師が偉そうな口を利くな!」などのやべえ発言が次々出てきて戦慄しました。これで本人が医者だったらまだそういうドクターもおるよな職場で偶に見るわと思えたのですが、本人は親の脛かじって生きてます。マジィ? 結婚相談所にはモンスターが居て、あなたが十分善良ならば、相談員さんは彼らからあなたを守ろうとします。だから相談員さんの言うことは聞こう! 絶対だぞ!


 プロフィールページをしっかり読んでも掘り下げたいところや知りたいところが出ないことは割とあると思います。そういう時は視点を少し変えて、お見合い当日会った時にどんな話で盛り上がれそうか考えるのもおすすめです。お見合いに来る女性は、初対面の男性相手で緊張して上手く喋れないことが良くあります。自分のことを喋るのはまだ不安ということもあるでしょう。そういう時に何を話すか、何から話すか、あるいは自分のプロフィールのどこに興味を持つか、ということを考えておくと良いでしょう。

 あえて自分のプロフィールに質問しやすいポイントを作る手法は便利です。相手もお見合いに来ている以上、お見合い相手について質問をしっかりするように指示を受けている筈です。お見合い相手のそういう事情を察して、事前にプロフィールの中に興味深いポイントを設けたり、質問を受けた時にそれを掘り下げやすい受け答えを想定しておくのは良いと思います。


 たとえば旅行が趣味だとして「どこに行くのか」「何をするのか」「何故いくのか」「何時行くのか」「どうやって行くのか」という質問が想定されます。そこで「旅行には自転車で行きますよ」とか「旅先であえて地元の喫茶店でカレーを食べるのが好きで……」とか「たいして観光とかやってない知らない街のビジネスホテルに一泊するんですよ」とか、そういうフックが入ってると「ちょっと待ってそれどういうこと?」ってなるんですよ。勿論、そのままだと変な奴なのですが、お見合いの相手から「待てぃ!」ってボタンを押させて深堀りしてもらいましょう。「待てぃ!」って言わせたらあなたのターンです。自分のおもろいところをまずはプレゼンしましょう。面白ポイントで興味を引いて、その面白い話や自分のこだわりポイントを話し終えて一笑いしてもらった後に、スッと真面目な顔でその面白ポイントが結婚生活に齎すメリットを真摯な態度で語る訳です。すると相手の視点では「質問してみたらこの人の良いところが見えてきた」という成功体験が発生します。短時間で「うまくいった」と思ってもらうと、相手も話しやすくなります。

 相手のことを知らないならば、自分のことを先に知ってもらえば良いのです。そうすれば「お互いに全く知らない相手」から「自分のことを知ろうとしてくれる相手」に変わります。知らない初対面の相手と話すなら、相手に「自分を知ろうとしてくれる相手」という情報を付与してやれば良いのです。

 彼を知る、のちょっとした応用ですね。自分が相手に情報を付与して、それを糸口に相互理解を進めるのです。


【補足】


 今した話の中では孫子の

「上下の欲を同じうする者は勝つ」

を以て不虞ふぐを待つ者は勝つ」

「将の能にして君の御せざる者は勝つ」

 のあたりの話も入っています。要するに

「意思統一のできている集団は強い」

「下準備のできている方が強い」

「優秀な指揮官の判断を意思決定者が邪魔しなければ強い」

 ということですね。婚活流に噛み砕くと

「相談員さんと目標やアプローチについて考えを共有しよう」

「お見合いの前に下調べを丹念にしている方が成婚に近づく」

「評判の良い相談所の優秀な相談員さんを探し出して、その人の言うことを聞け」

 という話になります。


 そしてお見合い前の下調べと、「相手に質問してもらう場所を作る」は一貫して有効札だったので意識してみてください。私は❤マイスイートハニー❤との初デートの時にも、執筆のお手伝いをさせていただいた『クトゥルー神話解体新書 2』を携えていました。やっぱオフ会に最新の作品持ってくの大事とかそういうのではなく、質問してもらえるポイントを作る意識ですね。流石にこれは極端な例ですが、実際に会った時に「良い意味で気になるところ」をなにか作って質問してもらうのは良いと思います。やってみてください。


【まとめ】


◯彼を知り己を知るのは難しいので、プロのご意見を聞こう

◯相手からの「知りたい気持ち=質問」を引き出そう


 この2つです。

 しぃる曰く「自分を知れと気軽に言う奴を信じるべきではない」と。

 まあ僕の友達はめっちゃ「己知ってる?????」って煽ってきますが……ワイの人生における数少ない幸福な時間や……少し浮かれさせてくれてもええんやで?

 まあでもマジレスすると己を知るどころか振り返ろうとしている人すら少ないので、やってみて損はありません。

 私は婚活中に自分を振り返る度に、重い現実がのしかかり、自らの愚かさを静かに噛み締め、なんかうっすらと人生を投げ出したくなり、生まれてきたことへの後悔が湧き上がり止まらなくなってしまったのですが、まあそれでも人生そんなもんSuch is Lifeです。

 そもそも生きてるのは苦しいので今更我が身を反省したところで苦しみの総量はさして変わりません。だったら反省した方がちょっとましです。反省したら、良いことあるかもしれませんからね。


 それでは今日はこんなところで! お疲れ様でした!

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