第3話 作戦篇①「兵は拙速なるを聞くも~婚活の害を認識しよう~」

【初めに】


 皆さんお疲れ様です。しぃるです。

 先日プロポーズした婚約者からこんな質問が来ました。

 「ぶっちゃけ運良く話の通じる私と出会っただけなのでは?」とのことです。

 まあ確かに共通の話題が多くて盛り上がりやすく、価値観の近い相手と偶然出会えたのは幸運です。このセリフだけでは読者の皆様に伝わりづらいのですが、可愛いくて「ふぅん……面白ぇ女……」なので、まあ私は幸運ですね……。

 しかしですよ。そもそも婚活は運……もとい御縁があるかどうかが非常に大事です。話が楽しいことは大事です。けれど、反復と学習を繰り返すことで、別にそんな興味ない相手や話題でも決められたタイムで話したり、話を聞いたりすることができるようになります。会話やデートは「一緒に過ごしていて苦痛がなく、良い縁を感じられる相手」と出会う為に互いの情報交換を行う為の手段です。

 幸運な出会いを一度得るまでに粛々と申込みと申し受けを繰り返すのが婚活の基本なので、特殊だけど普通です。成婚してる人なんてみんな幸運、珍しくもありません。「新婚さんいらっしゃい」とか見てくださいよ。みんな素敵な出会いをしてますから。


 さて、今日は孫子の兵法の中でも有名なパート「拙速は巧遅に勝る」を取り扱った作戦篇です。

 婚活は続ける限り人間性を損なっていきます。

 人間は人間を選り好みできるほど偉くも優れてもないくせに、婚活に参加した人間は大量の選択を強いられるからです。多くの人間は責任を伴う選択をする機会が少ないので、いざ重い選択を迫られると多大なストレスを受けることになります。人類はこれで衰弱して通常の社会生活すら困難になります。儚きかな人間。

 もっと悪い場合は自分に選択権があるからといって、自分が偉いと思いこむようになっていきます。んなこたありません、大量の選択をしたのは単に目標達成に失敗し続けてきた無能の証明です。会社で役職について判断を迫られるのとは全く違います。でも息をしているのと同じくらいには偉いことですから胸を張ってください。命と健康は尊いものですからね。

 ストレスによる摩耗にせよ、認知の歪みや異性への怨念にせよ、人格を大いに損なうことは間違いありません。

 その害を正しく認識して長々と婚活を続けないようにする為の注意点について、偉大なる孫子の兵法から学んでいきましょう。


【Today's 孫子ヒント①「拙速は巧遅に勝る」】


 婚活を始めたら婚活はさっさと終わらせましょう。

 導入部で語った人間性の損耗だけでなく

・入会金、お見合料、月会費、服代、男性ならばお茶代、といったお金の消耗

・貴重な休日をその後一生会わないことの方が多い知らない人間と話す時間の浪費

 という重いコストを支払い続けるのが婚活です。

 人類が集団を保つためには安定して婚姻と人口の再生産が行われなくてはいけませんが、そんな持続的社会の維持に中指立ててるとしか思えない重いコストを要求するのが婚活です。


 私は大学を卒業してから比較的早めに婚活を始めたので、病気で中断していた時期を除くと三年くらい婚活をやっていた計算になります。

 ずっとお金と時間で悩まされていましたし、一度日常に入った婚活をするという思考は判断力をじわじわと削って婚活のことばかりが頭の奥で重くのしかかってきたものです。


 だから婚活はさっさと終わらせましょう。あなたの理想の相手は現れません。言うほど自分の理想なんて自分では理解できていないものです。強いて言えば、会ってみて話をして「この人良いなあ~」と思って会う回数が重なる相手があなたの理想の相手です。婚活は理想の相手に出会うことが目的なのではなく、素敵な相手と素敵な結婚生活を送ることが目標です。眼の前の相手を誠心誠意大切にすることで、婚活の目標は果たせます。理想の相手なんて探している人間は自分の参加する婚活の目的を理解していません。

 理想を求めてゆっくりやるのではなく、大雑把でも一緒にやっていけそうな相手をとにかく見つけることを意識してください。

 拙速は巧遅に勝る――私の好きな言葉です。

 

【補足①】


 さっさと婚活を終わらせろ……と言ってもどれぐらい急げば良いんだ。

 そう思う方も居るでしょう。

 これはあくまで個人的な考えなんですが

「目標に期限がない場合、失敗を正しく認識できないことがある」

 と思ってまして、期限とノルマを設定すべきだと思っています。

 守れなかったら婚活やめろという意味ではありません。ただ、ノルマを守れなかった場合はそもそも自分の戦略や戦術が間違っているのではないかと見直すべきです。本当に自分に婚活が向いてないしもう疲れてしまったという時は勿論やめてもいいと思います。

 やっているつもりになって無計画に婚活を長引かせて「ずっと頑張ってる」と自分に言い訳するのがダメなだけです。

 相談員さんが「五年頑張って成婚した人もいましたね、いい人なのに苦労して」って言ってたので、根気強く続けることには大事な意味があります。忍耐力を発揮しているのか、惰性で時間と金と人間性をドブに捨てているのかを意識しましょうという意味です。

 だって人の命と血税が注ぎ込まれる戦争と違って、個人の金と時間と人間性はコストとして割り切れるならいくらでもぶっこんでいいのですから。


 それと、お見合いおよび仮交際の時期を揃えることで婚活の時間効率を最大化できます。一度に30人くらいとお見合いして、3人と仮交際して、真剣交際の判断をして、上手くいかなかったらまた30人くらいとお見合いする。これを繰り返してシーズン1、シーズン2、と纏めておくと相談員さんとも反省会や今後の方針についての会議がしやすくなるのでおすすめです。仮交際開始の時期がずれると真剣交際の判断タイミングがずれて無駄な時間がかなり増えます。交際相手も、真剣交際に入るか分からないあなたに振り回されて嫌な思いをします。即断即決でお互いに気持の良い婚活をしましょう。


【Today's 孫子ヒント②「力を屈くし貨をくさば、則ち諸侯其の弊に乗じて起こる」】


 婚活が長引くとクソみたいなアドバイス、いわゆるクソバイスをしたがる手合が男女問わず現れます。あなたが信頼すべき相手は唯一相談員さんのみです。たとえクソバイスでなく、善意から手助けしようと思ってくれている人が現れたとしても、結婚相談所にだけ頼ったほうが良いでしょう。

 ただし、お見合い相手を紹介してくれる場合は別です。

 先ほどお話しした通り、婚活は試行回数です。試行回数を増やしてくれる相手にはしっかり感謝して、その結果がどうなっても紹介者の方には感謝しましょう。


 婚活が長引くと周りの人間がああでもないこうでもないと言うのは何故かと言うと、うまく行ってないように見えるあなたに知った口を叩くチャンスだと思うからです。病気の診断は医師にしか許されないように、婚活の進捗についての判断はあなた自身と相談員さんにしかできません。

 人間は愚かなので婚活以外でも知った口を叩きます。私は薬剤師として投薬カウンターに立ち患者さんの話を聞きますが、友達や週刊誌の話を鵜呑みにして信じがたい馬鹿な真似をする患者さんは多いです。彼らは知ったようなことを言う割にうがいも手洗いもしません。別に私の働いている場所が田舎だからとかではなく、全国各地こういう患者さんは多いので人類の愚かさが伺えます。

 でも医療の場合はそれでいいのです。人類の愚かさにつける薬はありませんが、そういった事例の一つずつに誠心誠意向き合って患者さんの誤解や心配を解きほぐすことはできます。すると社会の公衆衛生に寄与できますし、患者さんが少し健康になります。私はそういう瞬間に己の仕事の意味を感じます。

 しかし婚活は別。婚活において読者であるあなたに送られるクソバイスにあなたが誠心誠意対応する必要はありません。それはあなたの仕事じゃないし、そのクソバイスに向き合うことは結婚になんら寄与しないからです。


 婚活を続けると周囲が口うるさい。それは覚悟してください。そして受け流すなり秘密にするなり、自分に合う方を選びましょう。でも偶に知り合いを紹介してもらえるからオープンにしたほうが良いと思いますよ、俺は。


【補足②】


 ここからは私個人の思想の話です。

 婚活をオープンにすべきかどうかですが、オープンにすべきだと思っています。婚活をオープンにすることであなたは傷つきます。でも、無傷で失敗するのと、傷つきながらも転がりながらもカサブタだらけの情熱で成婚を掴み取るのでは、どちらのほうが良い結果でしょうか? 大丈夫、痛みは慣れます。Boys Sideでは身体を張った婚活を推奨します。

 そう……婚活は真剣に人生のすべてをぶつける行為なのである。片手間に、自分を危険に晒さないで楽しむ。そんなことで本当に充実した結婚生活ができるだろうか。

 岡本太郎ならそう言ってくれるのではないでしょうか。ともかく、素敵な結婚相手を探すのですから、いつか出会う素敵な結婚相手に対してそうするように、真剣な姿勢で、自分のすべてを使うつもりで良いと思います。

 生身の自分にかけてオープンでいきましょう。

 上手くなくても綺麗でなくても心地よくなくても良いので人生の損失マイナスに飛び込め……婚活男子マン


【まとめ】

◯婚活はできるだけ速く終わらせよう

◯婚活をしている最中には相談員さん以外からのアドバイスはあまり耳を傾けないようにしよう


 早くお前の失敗談を読ませろ、血が見たいわ、俺はお前の中の悪魔が見てえんだよ、などのアツい感想が友人や私の婚約者から飛び交っています。本物の悪魔はお前らだぞ❤

 とはいえ、確かに笑って泣ける感動闘病バラエティみたいな面をしている以上、私が裸にならなければ嘘というものです。

 なので次回こそフィクションの軛を離れてありのままの海野しぃるが見せる剥き出しの文体、天与の筆致が書き出す読める舌禍をご覧に入れましょう。

 それとKADOKAWAコミックエッセイ編集部の皆様におかれましてはぜひプロ部門から台風の目としてこの海野しぃるの限界婚活エッセイにご注目いただければと思います。

 それではまた次回! お疲れ様でした!

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