第29話 正義VS清楚
「──
言い終えると同時に、
当の
「この
推しを語る古参オタクのように饒舌な女神の講釈は、まだ続きます。
「さらにあらゆる
「……けっこうです、胸やけがしてきました。それに」
彼のことを私は、前世記憶で知っていました。見た目が違うのは、そこから更に転生を挟んでいたからでしょう。おかげですぐには記憶と紐づかなかったけど、女神の話で完全に繋がりました。
「
「あら。それじゃあもしかして、あなたも……?」
「──ええ、私も彼の
そして私の知る
転生転移を繰り返すなかで壊れてしまったのか、あるいは元来そういう人間ゆえ至った境地なのかは知り得ませんが。
「あらそうなの。とっても同情するわ」
天乃はステージ上で呆然と立ち尽くしています。スポットライトの光は薄れ、せり上がったステージもじわじわと低くなってゆく。
このまま夢が悪夢で塗りつぶされたら、彼女はさらに頑なに復讐に囚われてしまうかも知れない。それだけは何としても避けたい。けれど
「皆さま、そのひとから離れてくださいませ」
声帯に魔力を込めた
「そういう扱いは傷つくなあ。僕も
わざとらしく嘆いてみせるセイギの前方に、距離をとってふわり着地する私。
変わらず浮かべた爽やかな微笑の
「だから安心して。みんなを守るために、
そう言い終えると同時に、溜めも構えもなく自然に踏み出す。次の瞬間には一瞬で間合いを詰めた彼が、吐き気を催すほど濃厚な嘘の匂いとともに、私の眼前で魔剣を振り下ろしていた。
──
翼を咄嗟に頭上で
「どう?
女神が勇者の後方から、愉しげに煽ってくる。
「彼が相手じゃあ、どうせ同じ結果になるでしょうけど」
「……ッ、女神さまはずいぶんと、彼にお詳しいようですね」
翼を内側から両手で支え剣圧に必死で抗いながら、私は言葉を絞り出します。
「まるでご自身が転生させ、チートを与えて、ここまで育てあげたみたい」
「────気のせいよ」
一瞬の間と、無感情な否定。嘘の匂いは、勇者のそれが
その間にも魔剣の刃は、勇者の
このままではまずい。どうすればいい。──
「クッ……そう……ですよね。それじゃあまるで、自作自演だもの……!」
痛みを堪えて発した言葉と同時に私は、翼を
唐突に拮抗する力が失われて空振る魔剣の切っ先が、のけぞった鼻先を掠めてゆく──けれど途中でぴたりと止まり、返す刀が風を裂いて、私の右肩を深々と貫いていた。
やはり、小細工は通用しないようです。
「くふッ……!」
灼ける痛みに声が漏れる。同時に、勇者の口元に貼りついていた微笑が、いびつに歪む。
「ああ……柔らかい肉に……いい鳴き声だ……このために僕は勇者をしている……!」
「あぐッ……やめ……て……」
血にまみれた傷口をこじあけるように、ぐりぐりと刃を蠢かせる。そのたび、激痛とともに血しぶきが舞う。両手で掴んで引き抜こうとするけど、びくともしません。
「もう……許し……て……」
「いいぞ……お前はすごくいい……! ほらもっと無様に足掻け! もっと憐れに鳴けッ!」
「お願いです……
「ふはッ!
懇願する私を憑かれたような目で見つめ、ずぶずぶといびつな魔剣の刃を肩にゆっくり根元まで突き刺していく。
これが、
「それじゃあ、これはどうかしら?」
──艶やかに微笑みながら、
「……
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