第23話 固有名詞
「──リリスと申します。どうぞ、お見知り置きくださいませ」
そして彼女は両手を下腹の、白く仄光る清楚な淫紋の上に重ねて、美しい角度の礼をしてみせた。
この裸身、よく考えれば私自身のものなのに、羞恥心より高揚感が勝ってしまう。
「……リリス……だと……」
向き合うゴルゴーンは、呆然とその名を復唱します。
神によってアダムと共に作られた、地上で
その由来を遡るならば
──あるいは、魔王サタンの花嫁。
それがこの世界におけるリリス。
そして「夜の魔王」──それが異世界におけるリリス。
異なる世界であろうとも、同じ名を持つ者はそれに相応しい力を持つのが
屋上に対峙する、
「ッああア! 喰らい尽くせえッ!!」
確信していた圧倒的優位が足元から覆ったとき、ひとはこんな風になってしまうのか。
上空から冷静に見下ろす私の視界のなか、
「そんなに取り乱して、どうしたの。そっちの世界にも
しかし
「だッ……だまれ! だまれだまれッ!」
図星を突かれたか、さらに激昂した
増大していく
ここで、すべて出し切るつもりなのでしょう。
「そそり立て、
屋上に溢れる大小すべての蛇たちが、黄金の燐光に包まれながら彼女の前方に殺到し、絡み合って巨木のような一匹の巨蛇を形作ってゆく。
加速しながら再び真横を通り過ぎた黄金の巨蛇の頭を、私は小さな翼を羽ばたかせて追います。
──夕陽が落ちて藍色に染まった空を背景に、圧倒的質量で襲う捕食者をまっすぐに見上げるリリス。
「
微笑みながら呟いて、頭上に右側の翼をふわりと掲げ──
「──
魔名を
その名称は北欧神話における最強の魔剣だったはず。リリスとは出自の
もはや紅の超大太刀と化した片翼で彼女は、巨蛇の
落下と斬撃の激突が、空気を震わせる。
巨蛇の上顎に並んだ二本の
そのとき
きっと何か企んでいる──直感に従い、ぱたぱた飛んで暗い巨蛇の口の奥を覗き込むと、そこから二又に分かれたピンクの舌がチロリ顔を出す。
『──
私の声にならない声は、間に合うのか。
一瞬で伸びた
しかしその牙は、リリスの艶めく白肌に届く寸前で、静止していた。
彼女の背後から伸びて蛇体に絡みつくのは真紅の大蛇──いえ、
「フフ、いい子ね。たすかったわ、ありがとう」
グルルルと猛犬じみた唸りをあげるハートの頭(?)を優しく撫でながら、発した彼女の言葉の後半は、私にも向けられていた気がする。
その眼前では、蛇の牙先からしたたり落ちた透明な液体が、しゅうしゅうと白い煙をあげ足元のコンクリに底の見えない穴を穿つ。
「もう、そんなに
顔をしかめながら彼女は、指先でするりと蛇の下顎をなぞる。舌に擬態するためか、あるいは
──そう、
「……
囁いたのは、
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます