第6話 はじめてのエナジードレイン
痴漢の息づかいに動揺を感じながら、最小限の動作で体の向きを半回転。幼いころお爺様から手ほどきを受けた古流武術の足運びです。
向き合った背後の痴漢は、こぎれいなスーツ姿の会社員。
私が目指すのは、清く正しい清楚系JKです。
だから、サキュバスの力で人様に迷惑をかけるようなことは絶対いたしません。
でも、こういうクズ──いえ失礼、悪い大人を懲らしめるためなら、少しくらい構いませんよね?
電車内に吹くはずのない風が、顔半ば覆う
必死に視線を逸らそうとする痴漢だけれど、
──蟻地獄のように。
彼の瞳の奥を覗きこめば、映った私は
その唇を妖しく
『……ジェニタライズ……』
それこそは「
言の葉に込めた魔力を対価として、この世の
びくん、と痴漢の全身が大きく脈打ちます。
第一の魔性技、
触れた相手の体の部位の感覚を、別部位の感覚で
手首を拘束していた尻尾をさらにしゅるしゅる伸ばし、彼の中指に巻きつけながらそれを発動させたのです。
瞬間、中指は彼の体の別の
そして本人は直感的に、
──
震える彼の中指へ、尻尾は優しく
その尾技に宿るサキュバスとして百戦どころか万戦練磨の
「……ッ……!?」
ものの三秒と持たず男は声にならない声を漏らし、指先から熱い
尻尾の
このへんは抱きかかえたカバンに遮られ、私の視界には入っていませんが、
尻尾を伝わって私の
「……んふッ……」
未体験の心地よさから、吐息とともに体がぶるりと震える。
そのまま三秒間隔で十回ほど
全身を小刻みにガクガクと震わせ、虚ろな目は宙をさまよい、半開きの口元から涎を垂らす
……ん……?
そこでふと、背中と左右の
おそるおそる片手で触れてみるけど、肉体にこれといった変化はなさそうでひと安心。
そして
「誓いなさい。二度と
「は……い……誓い……ます」
快楽を与えた相手の
それが第二の魔性技、魔性奴變──スレイヴライズ。
支配力は、快楽が相手の精神的抵抗力をどれだけ上回るかで決まります。
「──それと。次の駅で降りて、そのまま交番に自首なさい」
「はい……仰せの、ままに……」
やがて電車は次駅に到着し、人の流れのままに私も降車します。彼はおぼつかない足取りでふらふらと、交番の方へ歩いていきました。
自首した痴漢がどうなるかはわかりませんが、あとは
このへん、もっと上手いやり方を考えておきましょう。世直しと実益を兼ねた痴漢狩り、これからも続ける気まんまんです。
ただ、上着のポケットで震えたスマホを確認した今の私には、それより何より優先すべきことがありました。
『いままでありがとう』『ごめんね』
『バイバイ』
綾さんから届いていた絵文字もない三連のメッセージに、心臓を冷たく鷲掴みされながら、人の流れを必死にかき分け改札を抜けます。
『今どこ?』『学校?』
『すぐ行くから待って』
既読は付かない。
だから私は清楚系をいったん足元に置いて、徒歩十分の聖条院女学館へと、全力で駆け出していました。
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