20話 恥じらう乙女もまた粋なり②
「それで? あたしには何か言うことないの?」
逸らした先で、橘と視線がぶつかる。
挑発的な視線を向ける橘を見て、何を求められているのかすぐに理解した。
「橘も凄い似合ってるよ。めちゃ可愛い。やっぱダンス部だけあって様になってるな」
すらすらと出てくる言葉に、橘は「ふふん」と鼻を鳴らす。
「うんうん。それでいいんだよ、それで。やっぱ女の子はちゃんと褒めないとね」
「前に見た時だって同じように褒めただろ?」
「いつもと違う格好をしてたら、何回だって褒めるべきでしょ。褒められて嬉しくない子なんていないんだから」
まぁ、それもそうか。
そう考えて改めて橘を見ると、その完成された美貌に思わず感嘆してしまう。
藤白に負けず劣らずのプロポーションに、つんと整った目鼻立ち。
柔和な雰囲気を見せる藤白や菜月とはまた違って、まさに美しいという言葉がぴったりな容貌だ。
……やばい。意識したらなんだかさっきの言葉がこっぱずかしく感じてきた。
「あれあれ? 下条君どうしたの? 顔が真っ赤っかだよ?」
わざとらしく笑う橘に、俺はぶっきらぼうに答える。
「橘があんまりに可愛いもんだから、ちょっと直視できなかっただけだよ」
「へぇー? いいんだよ、別に直視しても。減るもんじゃないし。あたしも結乃と真白ほどじゃないけど、中々に可愛いでしょ?」
橘はそう言って、くるりとその場で一回転する。
ふわりとなびくスカート。
俺の座っている席は最前列。必然、その位置は舞台よりも低くなる。
つまりひらひらと揺らめくスカートの中がばっちり見えてしまう訳で――
俺はさっと顔を背けた。
例え下に履いているのが下着じゃないとはいえ、やはり堂々と見ていいものではない。
「ちょっと、なんでこっち見てないのよ」
「……お前が動くからだろ」
「別に下はスパッツだし、全然平気だけど」
「健全な男子高校生にこれ以上言わせるな。橘は、その……可愛いんだから、そこんとこちゃんと自覚しろよ」
それは軽口なんかじゃなくて、つい口から出た俺の言葉そのもので、
「え、あ……」
だからこそ予想外の答えだったのか、橘は打って変わって頬を紅潮させて視線をさまよわせていた。
突然無言になる俺達。
気まずい空気が流れる中、藤白と奈良瀬は他のダンス部員に囲まれて質問攻めにあっていた。
「ねぇねぇ、あの男の子って藤白さんの彼氏? それとも奈良瀬さんの?」
「かっ……!?」
「カレシ……!?」
「え、違うの? 一緒に来たからてっきりそうなのかと」
「し、下条君はただの、その……友達で……! 別に彼氏とかそんなんじゃなくて……」
「そうなんだ。それにしては結構親しげな感じだったけどねぇ?」
「下条君は私達の恩人で、別にそういう関係ではない……です……」
「ほほう、恩人とな。そこんとこどうか詳しく!」
「だ、だめです! それは言えません! 黙秘します!」
二人はダンス部の好奇心旺盛な質問攻めに悪戦苦闘していた。
わーきゃー言いながら楽しそうに恋バナを吹っ掛けるダンス部員と、それに慌てふためく藤白と奈良瀬。
橘も二人の様子を見ていたのか小さく苦笑すると、二人に助け船を出す。
「ほらほら、結乃も真白も困ってるでしょ。その辺でやめときなって」
「ふぅむ……藤白さんでも奈良瀬さんでもないとなると……もしや早紀の彼氏かな?」
「……何バカなこと言ってんの。下条君は私の友達。クラスメイト。それ以上でも以下でもないって」
「やけにはっきり言う所が怪しいなぁ」
「B組の下条君って結構有名だよね。かっこいいし、人気者だし」
「ね。早紀にその気がないなら私がアタックしちゃおっかなぁ」
「――っ!! な、何言って……」
その時、パンっと一際大きな手の叩く音が鳴り響いた。
どうやら三年生のようだ。
「はいはいお喋りはそこまで。さっそく練習始めるよ。早紀は藤白さんと奈良瀬さんのこと見てあげて」
「……はい」
三年生の言葉に従ってぞろぞろと動き出すダンス部員達。
舞台上を流れる人の中、橘と目が合った。
橘は頬を染めると、きまりが悪そうにぷいっと顔を背ける。
その姿を見て俺もまたきまりが悪くなって、思わず頬をかいたのだった。
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