6話 彼女達は指南役をご所望らしい①
「二人とも、本当に大丈夫か……?」
食堂のテラス席。
お冷をぐっぐっと呷る二人は、大きく息を吐きだした。
「いやほんと……あれはやばいよ……体が焼き焦げるかと思った……」
「世の中にはあんなにハツラツとした方がいるんですね……眩し過ぎて直視できませんでした……」
「まぁ菜月は陽キャの権化みたいな奴だからな。気持ちは分かる」
俺は目の前の醤油ラーメンを一口すする。
菜月は小さい頃から人と関わるのが大好きな生粋の陽キャだ。
対人コミュニケーションが苦手な人からしたら一緒にいるだけで疲労困憊に違いない。
「下条君だって……陽キャの権化だけどね」
「え、そうか?」
友達もいるし、確かに陽キャの部類ではあるけど……あそこまで振り切ってはいないと思うんだが。
「いつも友達と一緒にいるし、放課後もよく皆で遊びに行ってるでしょ? なのに成績は良くて、運動もできて……ちょっと怖い」
「私達からしたら市……菜月さんも下条君も同じです。殿上人です」
そう言って藤白は油淋鶏定食を、奈良瀬は生姜焼き定食を口に運ぶ。
「あ、美味しい」
「たまには学食もいいですね」
美味しそうに学食に舌鼓を打つ二人だが、俺はそんなことよりも菜月と同列扱いされたことが理解不能だった。
あの菜月だぞ?
小さい頃に公園で遊んでいた名前も知らない子達全員と、その日の内に友達になった菜月ぞ?
あんな根っからの陽キャモンスターと同じな訳がないだろう。
ちなみにその時の俺も同じように公園の子達とはしゃぎ回っていた。
……あれ、おかしいな。
それじゃあ俺も同類みたいじゃないか。
「うーん……菜月ほどじゃないと思うんだけどなぁ……」
自分で自分の考えを否定するように口にすると、二人は眉をひそめた。
「自覚なしですか」
「下条君も市……菜月と同じくらい輝いてるよ。今はギリギリ耐えてるだけ」
(え、そうなの? そんなに?)
二人は目を細めて、とても眩しそうに俺を見ていた。
俺は太陽か何かかな?
でもまぁ……二人が言うならきっとそうなんだろう。
些かショックだが。
「じゃあもしかして、俺なんか避けられてるなぁって感じてたんだけど、それって……」
俺の言葉に、二人はさっと目を伏せた。
「だって下条君、陽キャで怖いんだもん……」
「私達とは格が違うので……」
「そんなばかな……」
人当たりの良い爽やかな人間のつもりでいたが、どうやら彼女らにとってはそんなことなかったらしい。
まことに遺憾である。
俺にだってちゃんとオタク趣味があるし、コミュニケーションが苦手な人の気持ちも分かっているつもりだ。
俺が元々そうだったから。
「俺は陽キャかもしれないけど……ちゃんとそういう趣味も持ってるぞ」
「そういう趣味……?」
「と言いますと……?」
「Vtuber」
俺の放った一言で、二人の動きがぴたりと止まる。
「俺、Vtuberの配信見るのが好きなんだよね。最近ハマってるのは、白羽こころと黒羽すいっていう二人組のVtuberなんだけど……」
そこで俺は言葉を区切り、二人の様子を伺う。
二人とも緊張の色を浮かべて、こちらをじっと見つめていた。
「ぶっちゃけ、藤白さんと奈良瀬さんが白羽こころと黒羽すい……だよね?」
「……どうしてそう思うの?」
「初期から配信は見てたけど、決定的なのは昨日かな。思い切り俺とのやり取りの話だったし」
そう言うと二人は突然顔を真っ赤にして、
「あ、あれは本当にちょっと焦ったから変なこと言っただけで、別に世間知らずとかそんなんじゃないからね!?」
「そ、そうですよ! 別に友達いなくてああいう奇天烈な会話になったとかそんなんじゃないですからね!?」
早口にまくし立ててきた。
「お、おおぅ……どうした急に」
あ、圧が凄い……。
そんなに気にしてたのか、あれ。
「あ、えっと……なんでもないです……」
「すみません、ちょっと取り乱しました……」
「あ、うん。はい」
羞恥を隠すようにもぞもぞとご飯を食べる二人。
なんだかそれがおかしくって、つい笑いがこみ上げてしまう。
「ふっ……ははは」
「そ……そんな笑わないでよ……うぅぅ……恥ずかしい」
「あれは本当に……ちょっとした気の迷いでして……」
「あぁいや、ごめんごめん。そうじゃないんだ。別に昨日のことを笑ってるんじゃなくて、なんかその……二人といると楽しいなぁって」
「「――!?」」
話してみて、よく分かった。
二人は個性の塊だ。話していて楽しい人達だ。
いつも二人で行動していて、他人に対しては塩対応で不愛想だけど……本当はこんなにも個性豊かな一面を持っている。
それが知れてよかった。
「あ、そん……急にそんなこと言われても……」
「あ……ちょ、だめです……そんな眩しい笑顔で見ないでください……」
頬を紅潮させ、恥ずかしそうに目を伏せる藤白と奈良瀬。
実に人間味があって素敵な表情だ。
こっちの方が普段の二人よりも、よっぽど友達になりたいと思う。
いや、もう友達か。一緒に飯食ってるんだから。
そんなことを考えていると、藤白がはたと動きを止めた。
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