三
「助けの船や飛行機がいつ来るのかはわからないから、ひとまず今この状況をしのげるだけの準備をしよう」
「おおー、ごろちゃんが頼もしい♪」
深刻さを分かっているのか分かっていないのか、のんびりとした微笑ペースを崩さないニャー子に僕は提案した。
島の周囲は見渡す限りの海。
島の真ん中は森が茂っている。
川は……小さな沢と言うべきものが二つ三つあったのを確認した。
森の中を詳しく分け入って調べてはいないので、行けばまだ何かしらの水源が見つかるかもしれない。
島の外周をぐるりと歩いた限りでは、猛獣の足跡らしきものはなかったし鳴き声は聞こえなかった。
昼間は冬服着用だと暑すぎるくらいの気温で、日が沈んだ今はコートを着込んでちょうどいいくらいだ。
寒いとはっきり感じるわけではないけれど、寝るときはなにか上にかけるものを用意した方がいいだろう。
夜の暗いうちに雨とか降ったら……安全かどうかわからないけれど、森の中の方に入るしかないだろうか。
「この葉っぱ、おっきいから敷物とかにできるんちゃう?」
「おお、それいいな。集められるだけ集めてくれ。僕は燃料になりそうな枯れ木や枯草を集めるよ」
「らじゃー♪ なんや、キャンプみたいで楽しいなあ」
僕はタバコを吸うのでライターを持ち歩いている。
ニャー子のカバンの中には、菓子パンが一つとキノコの形をしたチョコレート菓子が一箱、あとミネラルウォーターの500ミリペットボトルが一つ入っていた。
あと食料と言えば僕のコートのポケットにミントタブレットがあるけれど……腹の足しになるというわけじゃないなこれは。
菓子パンもチョコレートもそうそう腐るものではないだろうし、そもそもニャー子が食べたくて買ったものなんだから食べるタイミングはニャー子の判断に任せよう。
それ以外でなんとかして食べられるものを、日が昇ったら探さないとな……。
翌朝、と言ってもろくに熟睡できないまま日の出の明るさに起こされた僕とニャー子。
一夜を共にしたからってなにもいかがわしいことはありませんでしたよ?
ニャー子は謎の広葉樹の葉っぱをたくさん拾ってきて、砂浜と木陰の中間あたりに簡易シートを広げてくれた。
その作業が終わるなり、ニャー子はスカピーと寝息を立てて熟睡してしまった。
僕が横にいることを何も気にしてないのだろうかと思うと、それはそれで乙女としてどうなんだろうと軽く心配ではあるけれど……。
僕もニャー子と体ふたつ分くらいあけて横になったものの、色々なことを考えすぎて上手く体を休められなかった。
兎にも角にも、天気もいいことだし行動を始めよう。
「あっちの岩のあたり、夜にヤドカリみたいなのいたって言ってたよな?」
「うん、おったで~。可愛かった」
「岩の隙間とかなら、他になにか食べられそうな生き物がいるかもな……」
潮干狩りみたいなものだよなと思いながら、岩礁の隙間になにか生き物がいるかどうかを確認する僕たち。
小さな貝や小さな蟹のような生き物、フジツボのように岩肌にへばりついている謎の生き物などを見つけはしたけれど。
「これ、食べても大丈夫なんかな?」
「わからないよな……」
少なくとも僕が日本海や和歌山の海で子供の頃に潮干狩りをした時には、こんな姿かたち、色合いの水生動物を見たことはない。
スマホで画像検索さんに助けてもらおうとも思ったけれど、電波は圏外でオフライン機能しか役に立たない。
昨日も電卓と万歩計しか使ってなかったからな……。
「とりあえず火を通して、僕が少しだけ食べてみるよ……何時間か経って安全だなって思ったら、ニャー子も食べるといい」
「えー、ごろちゃんだけ先に食べるん、ズルいわ~」
「いや、お腹空いてるんだったら自分のパンとかお菓子食べてればいいだろ。僕はとったりしないよ。貝も蟹もちゃんとニャー子の分は残しておくし」
「えー、ご飯のあとにキノコ一緒に食べようや~」
「いや、僕はタケノコ派だから、チョコは全部ニャー子が食べなよ……」
実はそうでもないというか、先っぽまでみっしりチョコが詰まってる円筒型のやつがあればそれでいい派なんだけどね。
とりあえずニャー子はメロンパンを半分だけ食べて、僕が貝や蟹を蒸し焼きにしてる間に脚が十二本あるタコを岩礁からゲットしてきた。
二人ともナイフなどは持っていないため、葉っぱで閉じ込めてこいつも蒸し焼きに。
なんだか海岸で石焼き芋やってる気分になる。
この島は暑くも寒くもないけれど、ここに来る前の難波~奈良間は冬真っ盛りだったわけだしな。
焼き上がった食材を、時間をかけて一種類ずつ口に入れる。
一緒に食べてしまうとどの食材がセーフなのかアウトなのか判別がつかなくなると思ったからだ。
と言っても、時間差で体に異常が出る毒を持った生き物だったりするともうお手上げなんだけど……。
「お、おえぇ……」
「ごろちゃん、大丈夫?」
「な、なんとか……この巻貝みたいなやつが、特に、ヤバい……」
毒があるのかどうかはともかく、絶望的にまっずい……。
まるでどぶ川の端っこに溜まっている汚泥を食べているような感覚だ。
いや、そんなもの食べたことなんて一度もないんだけどさ。
タコらしきものだけはその中でも上等だった。
付着していた海水程度の塩気で、割とおいしくいただけた。
毒がなければ、いいんだけど。
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