心地いい場所
咲良ミルク
心地いい場所
椅子がぐらぐらしている。自分の家の椅子に立つなんて初めてした。深呼吸してぶら下げた縄をもって首を入れて吊った。この、クソみたいな人生を終わらせるために。
案外苦しくなかった。少しずつ意識がなくなってきて気づいたら眠っていた。天国ってどんな景色だろう。地獄はどんな場所だろう。でも絶対、自分の生きていた世界よりはましなはずだ。だって仕事がクビになって、フリーターで実家に暮らしていて、何も面白いこともなかった。バイト先は、出会いもないし三十代のフリーターの男なんて誰も相手にしてくれなかった。だから自分の人生がもう、いやだった。もしかしたら、死後の世界は心地いい場所かもしれない。そう願いたい。
死んで驚いた。閻魔様がいないし鬼も天使もいない。視界は真っ白で何もなかった。多分ここは地獄ではないのだと思う。十分くらい何もない場所を歩いていると、下の方が異様に暗いなと思った。あれが地獄なのだろうか。けど、ここが天国ならどうでもいいからあんまり気にしなかった。しかし、真っ白な道を歩くというのは、不思議なものだ。音もしない。
少しすると向こうに人がいるのが見えた。何だかうれしくなって走っていったけど、その人はにこりとも笑ってなかった。よくみたら周りにも人がいてみんなずっと、真顔だった。意味が分からなかった。
一週間くらいたっただろうか。もう時間の感覚がない。最近少しずつ、天国のみんなが笑ってない理由が分かってきた。。それは、楽しさがここにはないからだ。ここは何もない。家もテレビもスマホもない。自然なものだってない。楽しんだり、笑ったりすることがないのだ。もしかしたら、地獄とは違う理由で地獄なのかもしれない。
そう考えている時に、なんだか段々意識が無くなってきた。死んでいるのに無くなるものなのかと思ったけどすぐに目が覚めた。すぐにここが、病室なことに気づいた。横で両親が泣いていた。一ヶ月間昏睡状態だったらしい。両親には、数年ぶりに怒られた。あれから半年経って、前と同じ生活に戻った。でも、もう死にたいなんて絶対に思わない。
だって、天国より今生きている世界の方が自分にとって心地いい場所だから。
心地いい場所 咲良ミルク @keito3172
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