異世界マッチングガチャで、奇跡的にSSRを二人も引いたのに中身はポンコツで、二人のうちどちらかと結婚をする羽目になって困っている件について。【ラブコメは世界滅亡とともに】

月平遥灯

#01 残念なSSR


召喚された異世界人はどこからどう見てもSSRだった。いや、ソシャゲと一緒くたにするのは失礼な話かもしれないが、異世界マッチングというガチャ要素の強い制度からして、SSRと評するのが一番分かりやすい。



この世の者ではないような独特の雰囲気……なんて表現をするとまるで幽霊や妖怪のように聞こえてしまうかもしれないが、第一印象はおとぎ話とかに出てくる氷の女王のようだった。透き通るようなきめ細かくキラキラした肌に長い銀髪、それからサファイアのような碧眼。



「ふぅ。ここが日本?」

「日本の東京。俺の部屋だよ」

「ふーん。あなたが相手?」

「一応……そうなるね」

「ふぅん。どうせ身体が目的なんでしょ。好きにすれば」



そう言って、目の前の異世界人は服を脱ぎ始めた。



あ、この子、なんか思っていたのと違う。

そもそもなぜ俺が異世界マッチングなんてガチャをして、しかもSSR(外見は!)を引き当てたのか。

それは昨晩の飲み会での出来事がきっかけだ。






「青原くんって陰キャっぽいからモテないんですかね?」

「だろうな」



彼女いない歴イコール年齢をイジられることには慣れている。だが、今日は酒が入っているためか、感情が少しだけ敏感になっていたのだと思う。だから、正直イラッとした。

別に好き好んで一人でいるわけではない。単に出会いがないだけで“運命”さえ動き出せば、きっと俺にも彼女くらいできるはず。しかし、いつになっても運命の女神は微笑まず、気づけば二十三歳になっていた。



中学校のときはゲーム好きのオタク。父親の仕事の関係で転校が多かったために一人でゲームを興じることが多かった。当然彼女なんてできようがない。

高校は男子校で寮生活。彼女なんてできるはずがない。

大学はコロナ禍もあって授業はほぼオンラインだった。出会いなんて夢のまた夢で、大学生なのにヒキニートのような生活を送っていた。



そして、就職して今に至る。

これが俺こと青原春斗あおはらはるとだ。 



「青原ってさ、陰キャだよな。ほら、クラスに一人か二人くらい絶対いるヤツ」

「あー、よくいますね。高校の時とかみんなの輪に混ざれずに窓際で、少人数でどうでもいい話してる人種」

「その少人数でも相手にされなくて、仲間はずれにされてたんだろ?」

阿賀塚あがつかくんそれはちょっと酷いですよ。まあ、僕でも同じ扱いするかもですが」

林田はやしだのほうがひどいだろ」



会社の先輩の阿賀塚タケルと林田ミツルはそう言って俺を小馬鹿にした。そもそもなぜそんな話になったのかといえば、なぜ青原春斗に彼女はいないのかという、至極どうでもいい話題を酒のさかなにし始めたことに起因する。それで「いない、生まれてから一度もいた試しがない」と答えたことから、二人はマウント取りはじめたのだ。



「そう考えるとできないのは致し方ないだろうな。だが、くよくよするな。別に彼女なんていなくても生きていける。なんなら、現代日本は晩婚化が進んでいるし、出生率に関しては過去最低を毎年更新してるわけだから。むしろ青原のようなケースが一般的とも言える」

「そうそう。青原くんはむしろ普通なんですよ」

「そうですね。お二人のようにはいかず社会に貢献できないかもしれませんね」

「生まれ変わったらモテるといいな。ほら、異世界転生みたいに」

「ああー、よくアニメとかにあるやつですね。でも、それはひどいですよ、阿賀塚くん」



阿賀塚と林田の彼女は俺も見たことがある。客観的に見てどちらも可愛いと判断せざるを得ない。だからこそマウントを取られると腹ただしく、かつ羨ましく思ってしまう。



阿賀塚は大学時代にラグビーをしていたためにガッチリ体型。

林田は細身。学生時代はチャラチャラした遊びサーで有名だったテニスサークルに所属していたらしく、コロナ禍でも関係なく遊んでいたと自慢げに語った。



二人とも俺と違って、コミュ力があるのだろう。

悔しいがこれが現実だ。



「そんな卑屈になっているけど、実際のところ本当はしたいだろ?」

「阿賀塚くん、それを言っちゃおしまいってやつですよ」

「だってそうだろ。一生童貞のままなんて普通に考えて寂しいって思うじゃん?」



阿賀塚は枝豆をつまみながら俺を見下すように言った。



「それか、今流行りの異世界マッチングでもしてみろよ? なあ、林田」

「あー。阿賀塚くんはしたことあるんですか?」

「あるよ。でも、金突っ込んでもマッチしなかったなぁ。一〇万は使ったと思う」

「一回五千円でしたっけ?」

「そう。あれはホント凹んだわ」

「ひぇー。それでマッチしないとかって詐欺じゃないですか?」

「まあ、はじめから注意書きあったからなぁ。でも引いたらすげえじゃん? だから突っ込んじゃうんだよな〜〜〜」

「どんな感じなんですか?」

「マッチングアプリとは違って、自分のプロフィール入れたらボタン押すだけ」

「え? 相手の顔写真とかないんですか?」

「ねえよ。誰とマッチするかわかんねーんだけど、異世界人は基本レベルが高いからな」



異世界マッチングとは、その名前のとおり異世界人とマッチングすることができる制度のこと。異世界人はもれなく美男美女で、日本人と結婚をして国籍を得たいがためにみんな従順だと聞く。そこまでして国籍を得たい理由は、異世界が過酷な世界だからだということをMHKの“クローズアップ近代”で特集していた。しかし、実際は異世界人の人口が少ないのか、それとも需要に対する供給が追いつかないのか、どちらにせよマッチングすることは稀らしい。



しかも、マッチングするにも異世界と通信をするコストがかかるために、一回五千円と高額。それでも異世界マッチングに金を突っ込む人は跡を絶たず。人はこれを揶揄して“異世界ガチャ”と呼んでいる。



「青原くんやってみたらどうです?」

「いや、いいです」

「出会えたらラッキーだよな」

「俺は……別に」



その後も散々馬鹿にされた。モテないのはコミュ障のせいだの。実際、阿賀塚と林田と話せているんだから、コミュ障じゃねえだろって思うのだが、言い返したところで無駄な労力と判断し、気分の悪い飲み会を早々に切り上げることにした。そもそも俺はそんなに酒に強くない。



このご時世に会社の飲み会とかバカじゃねえの。プライベートの時間を使って、なんで飲みたくもない相手に付き合わなきゃなんねーんだ。一人でゲームでもしながら過ごしていたほうが遥かにマシだ。馬鹿野郎。



テーブルに金だけを置いて俺は店を出た。東京は今日も梅雨空で、湿気を含んだ空気に満ちている。飲み会前は降っていなかったのに、今は雨がしとしとと視界を滲ませた。せっかく気分の悪い飲み会から脱出をしたのに外に出ても不快だな。



中ジョッキ一杯のビールでフラフラになり、トドメのレモンサワーで完全に酔っ払ってしまった。歩くたびに酔いが回って、心臓から溢れる血液が脈打つような気がした。だからなのか分からないが、多少気分が大きくなっていたのかもしれない。



異世界マッチングか。



賞与も近いし、ちょっとだけなら面白いかもしれないな。なんて、このときは彼女が欲しいとか結婚をしたいとか、そういう思いでアプリを落としたわけではなく、単に異世界人と出会って阿賀塚と林田を見返したい。そんな虚栄心が働いていたのだと思う。やっぱりアルコールの力は、人の判断力をバグらせるんだな。



一回五千円……まあ、一万くらいいいだろ。



帰りの電車の中で座席にもたれながらアプリを起動した。異世界マッチングのアプリを開くと会員登録を求められる。自分の情報(名前、年齢、性別、住所、それからクレジットカード情報のみ)を入力し、いざマッチングしようと思うとあまりにシンプルさに驚く。なんと単純明快でボタンが一つしかない。



『マッチングする』



相手を選ぶことも写真を見ることもできない。だからどんな異世界人がマッチするかも分からない。年齢、容姿、趣味、好きなタイプなんて項目はどこを探しても出てこない。どういう仕組なのか分からないが、とにかくマッチングすることは稀で、たまにマッチングしたという報告をSNSで見るが、なんとも怪しい。ヤラセなんじゃないかとコメント欄が荒れることもしばしば。



そして、俺はやはり小心者で震える手で二回タップしてスマホを閉じた。



本当にこれ詐欺じゃないのか……。



マッチングするかどうかはすぐには分からず、最長で十二時間ほど掛かるらしい。理由としては、実際に異世界にある機関に問い合わせるためだと説明書きがあった。うーん、それは本当なのだろうか。飲み込まれていった一万円は無駄だったかもしれないな。いや、それは分かっていたことだ。



それから電車を降りて改札を出てから歩き、ようやく家に着いたときには睡魔に勝てずにベッドに横になって気を失うように寝てしまった。




…………。




なんかスマホの通知で目が冷めてしまった。カーテンの隙間から光が差して、昨日の梅雨空が嘘のように快晴のようだった。今、何時だろうとスマホを開くと“異世界マッチング”アプリから通知が来ていて、その言葉に目を疑った。



『おめでとうございます。マッチしました』



………。



思わずアプリを開き通知を確認したところ、間違いなく異世界人を引き当てたようだった。それはもう驚きで、思わずスマホをベッドに落としてしまった。手が震える。心臓がバクバクと高鳴る。こんなことがあっていいのか。宝くじ並みの確率でしかマッチしないと言われている異世界人が?



いや、あくまでもマッチしただけで、相手に拒絶をされる可能性もある。これは出会いのきっかけに過ぎない。呆然としてダラダラと異世界人について調べているうちに、いつの間にか昼になってしまった。



そして、インターホンが鳴って、「宅配便で〜〜す」と声が聞こえてきた。



荷物を受け取ると、さっそく『異世界省』という政府からの荷物だった。仕事が早すぎないか。いくらなんでも。アマズンのプライス会員じゃないんだから。



箱をビリビリに破いて開けてみると、“使い捨て簡易ゲート”がパッケージされていた。見た目は丸い鏡で、材質はアルミホイルみたいな薄い紙。その鏡面に魔法陣みたいなのが描かれている。取説を読むと、どうやらそれに手のひらで触れるらしい。なんだか霊感商法のいかにも怪しい宗教関連グッズみたいだ。



試しにやってみると……。



使い捨て簡易ゲートから強烈な光が発せられて、部屋中が光に包まれる。数十秒から一分くらいの時間だったと思う。とてもじゃないけれど、目を開いていられずに顔を伏せながら収まるのを待った。



ようやく光が止んだところで顔を上げると、現実ではないような感覚に陥った。さっきまでそこには誰もいなかったはずなのに突如現れたのは氷の女王のような美女。透き通るようなきめ細かくキラキラした肌に長い銀髪、それからサファイアのような碧眼。



「ふぅ。ここが日本?」

「日本の東京。俺の部屋だよ」

「ふーん。あなたが相手?」

「一応……そうなるね」

「ふぅん。どうせ身体が目的なんでしょ。好きにすれば」



そう言って、目の前の異世界人は服を脱ぎ始めた。



あ、思っていたのとなんか違う。

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異世界マッチングガチャで、奇跡的にSSRを二人も引いたのに中身はポンコツで、二人のうちどちらかと結婚をする羽目になって困っている件について。【ラブコメは世界滅亡とともに】 月平遥灯 @Tsukihira_Haruhi

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