神殺し 善良な神とそれに家族を殺された男の復讐
中立武〇
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最初の違和感は小さなものだった。でも彼が安心して話す表情が愛おしくて、他愛もない会話が名残押しすぎて、違和感はないと思い込むようにしていた。
けれど光る水を飲んだとたんに意識が途切れて確信してしまった。衝動が奔ると同時に剣で彼の首を落とそうとしたのに気が付いて、思わず逃げてと叫んでしまった。
でもその時に殺してもらえば良かったんだ。天井を破り、彼の目の前に降り立った時はもう体の感覚はほとんどない。たしかこうだったような、という思いで無理矢理体を止めようしても、それが合っているのかすら解らない。
必死に抗った結果、見えるようになった目が逆に恨めしかった。あんな、生きる事をあきらめた顔をしたあの人を見ていたくなかった。もう最後かと思った時に、なんでも願いを叶えてくれるという言葉を思い出す。それなら最後に。
「私は、あなたといた日々が、一番幸せでした。」
「そうか。」
「だから、もう一度、堕天させてください。」
砂塵が青き光と赤い夕陽を帯の様に写して棚引かせる中、世界の眼は遺跡の上で、ただ二人だけを捕えていた。
微笑む天使の前には生きる事を諦めた男はどこにもおらず、力と熱が体にみなぎり、鋭い覚悟をその眼に宿す男が居た。
マビダは幸運にも優れていた。後悔と絶望に一瞬で打ち勝つほどに、天使相手に、古代の戦略兵器相手に一人で立ち向かうという、馬鹿げた目標でも意識を研ぎ澄ませ眼前が見れるほどに。
「わかった。」
武器を構え、自分の行動目標と成すべき事を澄んだ思考で思い返せるほどに。愛する者の為にすべてを賭ける一歩を踏みこめるほどに。
「堕天を起こした大罪人の処刑を開始します。」
マビダは優れていた。
「今行くぞ。」
幸運な事に。
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