甘え上手な銀髪後輩ちゃんは泊まりたい
私の名前は山崎シエラ。
普段は頭の悪い人間の演技をしている超天才銀髪美少女だ。
そんな私は頭が大変よろしいので、蜘蛛の巣のように張り巡らされた策謀に引っ掛かってしまった先輩本人の口から『今日は俺の家に泊まれ』という台詞を言わせる事に成功した才女でもある。
しかもそれだけに留まらず、私はつい先ほどまで好きで大好きで仕方がない先輩と一緒に相合傘を! 相合傘しちゃったのよ!
そう! 今までのは全て計画通り!
今までの私のアホっぷりも全ては自分の計算の範疇!
全く、これだから東大模試を勉強もせずに全教科満点を叩きだしてしまう自分の頭の良さが
「ほら山崎、どうぞ上がってくれ」
「はぅ⁉ ひえ⁉ ひゃ、ひゃい⁉ 分かりましたぁ⁉」
「……靴は脱いでくれると嬉しいな」
「す、す、す、しゅ、しゅみませんッ! すぐ脱ぎますねぇ⁉」
「いや、脱ぐのは服じゃなくて靴でいいんだよ山崎」
そう言った私はパーカーを脱ごうとして止め、代わりに靴を脱ごうとしたのだが、余りにも慌てていた為か足の小指を思い切り靴棚にぶつけてしまった。
「ひぎぃっ⁉」
なんでこういう時にかわいい悲鳴を出さないのよ私の声帯⁉
もうちょっと……こう……あったじゃないの⁉
ひゃん、とか! きゃあ、とか!
どうして男受けの良いかわいい声を出さないのよ私⁉
いや、私は賢くてクールなんだからそんなかわいい声を出す訳ないでしょこのボケナスゥ⁉
「ぅ……っ……うぅ~~~!」
「だ、大丈夫か⁉ 何か冷やすものでも……」
「こ、こここここここ……これぐらい大丈夫ですよ⁉ ほら平気大丈夫痛ぇです!」
「全然山崎が大丈夫じゃない」
私はとても賢いので、自分を客観的に見る事が出来るので言わせて貰うのだが――めちゃくちゃ緊張しているじゃないのよ私ィ⁉
そんなガタガタになるぐらい緊張する要素がどこにある訳……って、ありまくるわよ⁉ ありまくるからこんな子ウサギのように怯えてしまっている訳で……子ウサギィ⁉ バニーガール⁉ 欲求不満⁉ 性行為⁉
「ならいいけど……まぁ、別にそんなに緊張しなくていいって。自分の家だと思ってくつろいでくれ」
自分の家ェ⁉
つまり……⁉
それって……⁉
そういうことよね……⁉
私、今からこの人の家族にされちゃうんだわ……⁉
そんなの望むところ――じゃないわよ⁉
ちょっと待って覚悟はまだ出来ていないのだけれどもぉ⁉
「ひゃ、ひゃい……!」
これじゃ……これじゃまるで……!
私が先輩のお家でイケないことをされることを望んでいるみたいじゃないのよ⁉
望んでいるに決まっているじゃないの馬鹿⁉
「あ、そう言えば山崎は風呂はまだだよな? 良かったらうちの風呂を使う?」
「――――――」
先輩のお家のお風呂⁉
潜って思い切り深呼吸したい――じゃないわよ⁉
つまり、これはそう……私が裸になるということ!
そんな状況をこの先輩が見逃すでしょうか?
いや絶対に見逃さないでくださいお願いしますぅ!
「俺はもう風呂に入ったし、多分そろそろ妹が風呂から出るだろうからその時に入ってくれ」
「――――――」
つまり、これは……私×先輩×妹の3Pじゃないの⁉
先輩の妹は当然ストーキングしている最中に調べ上げたけれども、当然ながら先輩と同じ血が流れている訳なので、言わば女体化した先輩と同意義!
私はこれから男性の先輩と女性の先輩に可愛がられてしまうんだわ……!
「……お、お手柔らかにお願いします……」
「どういう意味での発言なのソレ」
そんなこんなで私は緊張しながらも先輩の家の中にあるリビングへ通された。
先輩の家は私と違って1人暮らしではないし、そもそもこの時間帯には家族の皆々様がいらっしゃるので、リビングにある椅子には先輩のお母様がお座りになられていたのでした。
「
先輩譲りの黒髪を後ろに束ねて、見るからにとても優しそうなお母様……
「は、ははは! 始めまして
私なんかとは打って変わって、羨ましいほどの茶目っ気と愛嬌がおありの優しい母親であり、私の母親なんかよりも余程母親らしい素晴らしいお人であらせられるし、そもそも、先輩を産んで育ててくださった聖母様である。
なので、私はそんな彼女に感謝の気持ちを伝えるべく、出会い頭に床に顔の額をつけるほどに深々と土下座をした。
「先輩を産んでくださって誠にありがとうございます……っ!」
「いきなり奇行に走るのは本当になんなの山崎⁉」
「清司! あんたこの子の弱みか何かを握っているの⁉ 色々と教えているってあんた一体何を教えているの⁉ 私はあんたをそう育てた記憶はないわよ⁉」
「違う……! 色々と教えているって言っても俺は只々彼女に勉強を教えているだけで……!」
先輩がしどろもどろになっている私に代わってお母様にご説明を行っている間、私は床に鼻をつけながら先輩の生活臭を堪能している間に、どうやらお母様の誤解はひとまず解けた様子であるらしかった。
「まぁ、雨が降ったのなら仕方がないけれども……それよりも山崎さんでしたっけ? 山崎さんのご両親に連絡を差し上げたいのだけれども宜しいかしら。後、土下座なんてしなくてもいいのよ。土下座をしないといけないのはうちの清司の方なんだから」
お母様の許しが出たので私は一旦土下座を止めて、正座をして背筋をぴんと伸ばして彼女に向かい直った。
「母には予め連絡を入れております。疑うようでしたらこの連絡ツールをご覧いただきたく存じます」
「いきなり落ち着いて美少女ボイスになるの止めてくんない? 心臓に悪い」
「清司の言う通り、綺麗でかわいい声ねぇ。って、あら本当だわ。ふむふむ、お母さんの許可は取っているのね? それなら安心だわ」
私が表示した携帯電話器具の画面の内容を覗き込んで、うんうん、と頷くお母様に対して、私は更なる好感度稼ぎを行った。
「今の時間帯は深夜に近いですし、お母様の外聞を汚すような真似は一切しませんので何卒ご容赦を頂きたく存じます」
「あらあら、真面目さんなのねー! 髪の色が銀髪で綺麗だったからちょっと警戒しちゃったけれども、すっごくしっかりしてるじゃないのよこの子! でもちょっと柔らかくしていいのよ?」
「でしたら……これからは少し砕いて話します」
「あらあら。まだまだ固いわよシエラさん!」
――ふぅ、危なかった。
お母様に先輩の血が半分しか流れていないお陰で、私は興奮して鼻血を出してあられもない姿を現すということは避けられた。
先ほどお母様にお見せした連絡ツールは実は本物そっくりに自分で作った連絡ツールであり、私と母がやり取りをしているかのような場面を演出しただけの事。
そう、本当の事を言えば私は自分の家族なんかの許可は得ていない!
取る必要なんてある訳ないでしょバーカ!
事前に作っておいた脳内マニュアルの効力は抜群!
後はなんだかんだで私が持ってきているこのスマホ内の盗撮データや盗聴データが見つからなければ大丈夫でしかない!
そもそも、スマホのパスワードは私の指紋認証で設定されているのでバレてしまうだなんてことは皆無に違いないのだろうけれど……私が寝ている間に私の手を使って入力されてしまえば一巻の終わりだろうがそんな事はそうそう起こりえる筈がないのだ。
「にしてもあの清司がこんな美少女に勉強を教えるだなんてねぇ! いやぁ、因果なものよねぇ。この、この!」
そう言いながらお母様はご自身の肘で先輩の肩を小突いていたのだが、そんなお二人の様子がとても微笑ましくて、私は思わず笑みをこぼしていた。
「ふへ……ふひひ……ぐひひ……!」
何故か信じられない様子でこちらを見られてしまったので、私は何か粗相でもやらかしてしまったのかと危惧してしまって、伺うように彼らの様子を探ったのだがその瞬間に彼らの表情は一瞬にして消え失せた。
「……意外とキモかわいい笑い声だな……」
「……柔らかい物腰の美少女から発せられるキモい笑い声いいわね……」
私は頭の上にたくさんの疑問符を浮かべていたが、私の口から発せられたのであろうアレが出てしまったのだと気づいてしまった私は焦燥の念に駆られるまま、彼らに嫌われないように慌てて土下座をした。
「す、すみません! 気持ち悪い笑い声なんか出してしまって……! 気持ち悪いですよね⁉ この悪癖は絶対に直しますから……!」
私は必死になって謝るものの、それに対する彼らの態度はとても暖かいものであった。
「いやいや、別に謝ることはないって。そういう山崎もいいよ、新鮮で」
「そうよ山崎さん! 女の子は誰でもかわいい生き物なのよ!」
私は目頭が熱くなるのを自覚しつつも、彼らの言葉に甘える事にした。
私は昔から変な笑い声を発してしまうという悪癖があって、その所為で父親に矯正と称されて殴られた事もあるし、友達が出来なかった事もあったし、それだけでいじめの標的にされてしまった事があるので、極力この笑いを出さないようにしていたのだが……目の前にいる人たちは、私の常識では信じられないほどに暖かい人間であった。
「あ、あ、あ……ありがとうございます……!」
私は思わず泣いてしまって、再び土下座をして彼らに感謝の意を伝えた。
「いや、だから山崎、土下座なんてしなくていいから。ほら早く楽にしろって」
「そうそう。笑い声なんてどうだっていいじゃない。山崎さんがそれを気にしてしまうのはただ単に笑い慣れていないだけなんだから。だから思い切り笑っちゃいなさい。笑いを我慢するのは意外と人間性が磨り潰されちゃうから駄目よ?」
人間性溢れる上品な笑い声に混じって、私の聞くに絶えない笑い声が入り混じる。
ただのそれだけだというのに、私はここにいていいんだ、という希望が、どうしようもないほどに只々嬉しかった。
「さて、それよりも山崎さんはお風呂まだよね? だったら早く入ってらっしゃい。あ、でもコンディショナーとかそういうのに拘りあるかしら? うちは中流家庭だから稼ぎが少なくてね、山崎さんが使っていそうな洗剤は……」
「あ、大丈夫です。私は洗剤に拘りはなくて。いつもスーパーの特売日で買うようなとにかく安いもので済ませていまして」
「えー⁉ それでその髪質⁉ 嘘ぉ! ちょっと山崎さん、髪を触ってもいいかしら⁉」
「ど、どうぞ……?」
私は言われるがままに彼女に自分の髪を触る許可を出した。
にしても、こうして他人に髪を触らせるだなんて一体いつ以来だろうか。
仕事で忙しい母親が私の髪を触ってくれたのは幼稚園の時までだったし、小・中学生の時には髪の毛を冗談と称して後ろから強く引っ張られたり、勝手に鋏で切られてしまって耳を切られてしまったのがトラウマになっていた私は美容室に通わずに自分で髪の毛を切っている訳なのだが……ここで断ってお母様の好感度を下げることを考えたら、触らせた方が良いように思えた。
「ちょ……! 触りすぎですってば⁉ く、くすぐったいですよお母様……⁉」
「いい髪触りをしている山崎さんが悪いんだぞこのこのー!」
「ふへ、ふへへ……!」
「え? 本当にどこの美容室に通ってるの? それぐらい髪の毛がふわふわしてるし、艶もいいし、触り心地も完璧じゃないのよ!」
「あ、それならこの動画がオススメですよ。私、この動画で見た内容を完璧に暗記しているので、自分で機材を揃えてやってます」
「えー⁉ 山崎さん凄すぎない⁉ 将来は絶対に美容師さんになれるわよ⁉」
「そ、そうでしょうか……? ふひ、ふひひ……!」
「凄いわよ! あ、それなら私と連絡先を交換しない? さっきの動画のリンクを送ってくれると嬉しいわね!」
やばいわよ。
好感度を稼ぎすぎじゃないのかしら私。
流石にここまで来ると、上手く行きすぎというか……只々お母様が良い人過ぎるのよ……!
こんな優しい手付きで頭部を触らせるだなんて、一体いつ以来だろう?
そう思うと今日こうして先輩の家にお邪魔して本当によかったのかもしれない……そう思いながらも、今、私の手元のスマホの中に封入されている盗聴データの存在が私の胸を痛めつけた。
「…………」
私は、一体何をやっているんだろう。
好きだからという免罪符を掲げて人として最低な事をして、その最低な事はどう見繕っても気持ち悪いものでしかないに違いない。
私は、頭がいい。
だから、こういう盗聴や盗撮をやらかしてしまうだけの技術と知能があった。
私を今までに傷つけてきたヤツら相手なら容赦なくソレを振るえたのだろうけれども……今の私の目の前にいる彼らはそんな人なんかじゃない。
「よし! 連絡先交換完了! これからも清司をよろしくね……って、山崎さんどうしたの? そんな神妙そうな顔をして」
「……いえ、ちょっといらないアプリがあったので消しただけです」
私はそう告げて、1つだけ、彼らに対する隠し事を無くしたのであった。
私が精一杯隠しているであろう全ての隠し事を詳らかにしたら、本当の意味で彼らの家族になれるのではないか――そんな子供じみた馬鹿らしい事を考えて実行しただけだが。
だって、世の中には嘘で満ちあふれている。
嘘をつくのが、当たり前の世の中だ。
だけど、そんな当たり前の嘘をつかなくていい相手を見つけて、ただ一緒にいたいだけなのだと、私はそう思っただけなのだ。
――とはいえ、今までに嘘を積み重ねてきた私が今更やっても信じられないだろうけれども。
「これからもどうか宜しくお願いします、お母様。そして今晩はお世話になります」
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