甘え上手な銀髪後輩ちゃんのオフの姿
俺は放課後、後輩の勉強を見ている。
今日も無事に後輩の勉強を見るという日課を終えた俺は学校から帰り、自宅での勉強に励んでいた。
……そうすれば当然、高校3年生という食べ盛りの時期である俺は小腹が空いてしまい、時間は夜の11時であるというのにも関わらず、俺は勉強の疲れに対するリフレッシュがてら最寄りのコンビニで何か腹を満たせるようなものを探しに来た。
明日は土日の週末であるというのもあって、今週も学校での勉学に励んだ自分へのご褒美を探しにやってきた訳でもあるのだが……この習慣は案外とても楽しいので止められないというのが実際のところである。
店員のいらっしゃいませー、というやる気があるんだかないんだか分からないような間延びした返事を耳にして、同じような喋り方をするあの銀髪美少女の後輩を思い出しながらも、俺はコンビニで何か食べれるようなモノがないかどうかを物色する。
「ん……」
欲を言えば沢山食べたいのだが、流石にこの時間にしっかりと食べてしまえば明日に響いてしまうし、かといってスイーツというモノを食べたい気分でもない。
コンビニ弁当の種類は実に多種多様ではあるのだが、成長期である俺にとっては量が少ない分野になってしまうし、少なすぎるのも悩みどころでさえある。
容器に詰められたパスタも魅力的ではあるのだが、それを食べるのならカップ麺を食べればいい訳で。
「……」
悩みに悩んだ結果、俺はいつもこのコンビニで買っているカップ麺に手を伸ばそうとして――ここのコンビニの人に『いつもあのカップ麵を買っている人』だと思われていそうだったので、何か別の食品でも買うことにしようと再び食品売り場の方に目を向けると、見覚えのある髪色が視界の隅に映った。
「ん?」
俺は偶然にも学校の外で滅多に遭遇しない銀髪美少女の後輩……山崎シエラとばったり出会ってしまったのである。
「あ」
予想外だと言わんばかりに驚愕の表情を浮かべている後輩の服装は普段から目にするような制服ではなく、指がぎりぎりまで見えるぐらいにぶかぶかのパーカーに、すらりとした綺麗な生足が眩しいハーフパンツというとても楽そうな恰好であった。
靴下などを一切履いておらず、綺麗に整えられた足の爪がきらきらと輝いているのが目に見えてしまうような無骨なデザインのサンダル。
いつものロングストレートである銀髪は1つにまとめており、今の彼女は俗にいうところのポニーテール。
そして、メガネ。
……メガネ。
………………良い。
いや、確かに彼女のオフという新鮮な姿を見られたのは眼福ではあるのだけれども、普通に考えてこんな時間にいるのは流石にどうなのだろうか。
学生が、しかも山崎なんていう美少女がこんな時間に1人で出歩くのは色々と問題なのだろうが……それは俺が言えた道理ではないので言及しない事にしておく。
そんな事を考えていると、俺はふとある事に思い至る。
というのも、ここは俺の家に最も近いコンビニであり、彼女の家があるであろう場所からはかなり遠いコンビニなのではないのかという事であった。
普通に考えて、山崎がこんなところにいるだなんて有り得ないことである筈なのだが……?
「お、
俺はそれについて問いただすつもりで、至って自然体に、そしてフレンドリーに彼女に対して声を掛けたのだが……それに対する彼女の返答は実に意外なものであった。
「ひ、人違いです……。ど、どうも始めまして……うちは
彼女は恥ずかしいと言わんばかりに自分の顔を両手で覆い隠しており、まるでその行為は今の自分の顔を見られたくないと言わんばかりであった。
それに彼女は自分の事をうちとは言わないし、そもそも彼女は
「? 何を言ってんだ
「
俺は彼女の名前を言い直したのだが、彼女は依然として違う名前を言い張る訳なのだが……なんか『どす』って言ってる。
あれか? 京都弁の『どす』か?
「……おい、本当にどうしたんだ
「ちゃいます、うちは
俺は京都弁には疎いので、彼女が何を言っているのかを正確には理解できないのだが、彼女と勉強という名の苦楽を共にしていた俺は彼女の言いたい事が何となく分かってしまった。
要約してしまえば、彼女は化粧をしておらず、余りかわいくない格好をしている今の自分を見られたくないのだろうか?
確かに俺の眼前にいる少女はノーメイク状態のただの美少女である。
ぶっちゃけ、このままでも普通に美人が過ぎるというのに、彼女には余程の事なのか、どうしても今の自分の姿を見られたくないようであった。
「……そういう事にしておくね?」
「そないな事にしておくれやす」
ほぅ、と安心したようにため息を零す彼女であるのだが……言われてみれば、彼女は学校に行く時でもほんの少しだけ化粧をしていた。
流石に校則違反ではあるのだが、彼女はその校則のギリギリを攻めるタイプの化粧であり、更には成績が急激に伸びて真面目になっている彼女に対して周りの教員もそこまで言及してはいなかった。
だが、すっぴんの状態であるというのにも関わらず、彼女はかなりの美少女であった。
というか、俺個人としてはすっぴんの彼女の方がすげぇタイプなんだけど。
「やっぱ顔すげぇ綺麗だわこいつ」
「あ、あの……そないにじろじろと見ぃひんで……? は、恥ずかしい……」
「いや、だってすげぇ綺麗だもの」
「う、ぅぅ……! そないに褒めんといて……!」
俺が褒めると彼女は恥ずかしいと言わんばかりにパーカーを被って頭部を覆い隠し、更に両手を総動員させることで隠してみせた。
は? かわいいんだけど?
かわいすぎてキレそう。
つーか、京都弁可愛すぎない?
なにこいつ、あざとくない?
あざとさで俺を殺す気か?
「京都弁かわいい……!」
「ぁ、ぁ……! き、聞かへんどぉくれやす……!」
やべぇ。
学校にいる時の彼女よりこっちの彼女の方がすげぇタイプなんだけど。
「生足エッロ……ッ!」
「ぁぅ……! え、エロいって言わんといて……! ぅぅ……こっち見んといてよぉ……!」
「休日感と親しみやすさが演出される日常用メガネもエロい……!」
「眼鏡に欲情しないで。褒めるなら私だけにして。そんな簡単な事も出来ないの? 馬鹿なの? なんで眼鏡に喜びを見出すの? 意味が分からない。勉強は人並みに出来る癖にどうしてそういう女心が分からないのかしらこの馬鹿」
「何かよく分かんないけどごめんなさい」
メガネを褒めたら何か今までの後輩とは思えないような態度で怒られたと思いきや、はっ、と言わんばかりにいきなりあたふたとした態度を取り始める後輩を名乗らない後輩であった。
まぁ、確かに俺は無機物に興奮する変態ではないのだが、それでもメガネをかけている彼女の姿がエロかったので勢いで褒めてしまったものの、どうやら彼女はメガネについて言及されるのはとても気に食わない事であるらしいという事を知れたのは良い収穫だったと思う。
「にしても、すげぇ量のカップ麵を買ってるじゃん、
話題に困った俺は取り敢えず目に入ってしまった彼女が片手で持っていた白いレジ袋の事について言及していた。
というのも、その袋はパンパンになって袋からはみ出てしまいそうになってしまうぐらいに購入済みのカップ麵が詰め込まれていたのだから。
「勉強した後は小腹空くさかい……後、うちは
「そうなのか。奇遇だな、
「へぇ、そうなんどすか……後、うちは
「ここのコンビニはお前の家に近いって言えども、あんまりこんな時間に出歩くなよ。もう夜の11時なんだぞ、
「いや、その、ちょい冷蔵庫の中身がのうなって……後、うちは
「だからといって、教員に補導されたら色々と面倒だぞ、
「変装してるさかいバレしまへん……後、うちは
「お、誘導したら引っかかるもんなんだな」
「な、何なん……!? こ、このいけず……! せやから、うちは
生いけず、いい。
オフの姿で赤面する彼女が凄くかわいい。
「よし、じゃあ折角だし家まで送っていくわ」
「や……それは流石に悪う思いますわ……」
「だったら、家まで送るご褒美として俺にその大量にあるカップ麺を1個くれ。それでいいだろ? 実を言うと俺も小腹が空いてカップ麺を買おうとしてたから、それでトントンって言うことで」
「そ、そやけど、ここからうちの家まで数十分は掛かる距離どすし……」
「いやいや、こんな美人さんを夜道に1人にするのは忍びない。それにこうして話をしているうちに分かったが、どうも君は俺の後輩の友人らしいじゃないか。後輩の友人を1人で帰らせたって後輩が知ったら俺は怒られるだろうなぁ。という訳でそんな俺を助けるつもりで送らせてくれやしないだろうか? お願い」
「そ、そない言われたら……しゃあないなぁ……?」
という訳で俺は銀髪美少女が大量に買ったカップ麺だらけのレジ袋を持ち、後輩と一緒にコンビニを後にしたのであった。
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「ふ、ふふ、ふふふふふふふふ……!」
自分がコンビニの中で誰がどう見ても不審者にしか見えないような不気味な笑い声をしているという自覚はある。
だがしかし、これが笑わずにいられるでしょうか?
「ふへ、ふへへ……! 先輩のお風呂場の音声をゲットしちゃったわ……!」
そう、家で自習をする必要なんてないほどに頭のいい私はつい先ほどまで日課である先輩のストーキングを行っていたのである。
まぁ、確かにこれは犯罪行為なのでしょうが……私はとんでもないほどに頭が賢いので、以前、先輩の学ランを借りたあの日に学ランの一部を無断で解体して、学ランの中に自作の小型盗聴器を作ってはそれを大量に詰め込んで、再び学ランを編み直しただけで!
これは犯罪行為ではなく、愛! なのです!
「これで暫くは先輩の生の心拍音を聞きながら生活できるわね。それに今日は学ランを軽く洗ってくれたおかげで先輩のお風呂の音声も聞けたのだから、防水仕様にしておいて本当によかった……! ふふ、ふふっ……!」
それはそれとして、盗聴器の音声だけでは物足りないので肉眼で先輩を裸を見ようと頑張ったのだが、流石に無理であった。
今度、盗撮用のドローンでも作るしかないと決意した私は帰りがてら、食料品が空になっていたのを思い出し、先輩の家の近くにあるコンビニに足を踏み入れて、目的のブツを買えたのでさっさと帰ろうとした――その矢先の事であった。
「ん?」
「あ」
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ⁉
先輩⁉
なんで⁉
先輩なんで⁉
「お、
先輩の学ランの中にGPSでも詰めればよかったと後悔しつつも、私は今の自分の状態を思い返す。
不味い。
そう、今の私はすごく不味いのだ。
何故ならば、今の私は先輩から盗撮と盗聴しまくったデータを持っている!
こんなのバレたら今の先輩との関係は間違いなく御破談!
『え……? 俺を盗撮してたの? ……キモい』
とか言われたら死ぬしかないじゃないのよ――ッ⁉
私は賢いので自分を冷静に客観視できるのよ――ッ⁉
だけど、ついつい我慢できなくて行動にしちゃうのよ――ッ⁉
「ひ、人違いです……。ど、どうも始めまして……うちは
なので、すごく賢い私は他人のフリをすることにした。
なんて、私は賢いのだろう。
流石は東大模試で全教科満点を取れる女。
そう……今の私は化粧なんてしてないから全然可愛くない!
そして、メガネ!
メガネ!
親に言われて嫌々勉強しまくった所為で目が悪くなってしまって、掛けたくもないけれど無理やり掛けているメガネ!
こんなにも他人の要素を詰め込んだ私は明らかに別人でしかないのです!
「? 何言ってんだ
なんで気づくのよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお⁉
いや、気づいてくれて嬉しいのですけれど……嬉しいけどぉ……!
だからって今のタイミングで気づかないでくれないかしら……⁉
「
なんで私はそんなバレるような嘘をついちゃう訳なのよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお⁉
馬鹿なの⁉
アホなの⁉
先輩が絡むとIQが下がるの⁉
というか何で京都弁を話してしまったの私⁉
いや、確かに先輩に好きな方言は何ですかって聞いたら京都弁だったから、軽く京都弁を10秒ぐらいでマスターした訳なのだけれども……⁉
だからって、
属性過多が過ぎるわよ!
産地偽造どころかここまで来ると自分でも意味が分からない噓つきじゃないの⁉
「……おい、本当にどうしたんだ
「ちゃいます、うちは
しかしながら……私はとても賢かった。
私はこの数分もの間、持ち前の素晴らしい頭脳と語彙力を駆使しながら先輩からの言及から逃れていき、ついにこの場から離脱できそうなタイミングを見つけたので、私はそそくさと逃げようとしたその瞬間である。
「よし、じゃあ折角だし家まで送っていくわ」
「や……それは流石に悪う思いますわ……」
悪いわよおおおおおおおおおおお⁉
私の心臓に悪いのよおおおおおおおおおおお⁉
私を殺す気なのかしらこの馬鹿ああああああああああ⁉
「だったら、家まで送るご褒美として俺にその大量にあるカップ麺を1個くれ。それでいいだろ? 実を言うと俺も小腹が空いてカップ麺を買おうとしてたから、それでトントンって言うことで」
「そ、そやけど、ここからうちの家まで数十分は掛かる距離どすし……」
やだ!
数十分と言わずに数十時間は先輩と一緒に帰りたい!
それに私1人しかいない家なんかに帰りたい訳ないじゃないの!
いーやーだー!
かーえーりーたーくーなーいー!
せーんーぱーいーとーいーっーしーょーにーいーたーいーのー!
「いやいや、こんな美人さんを夜道に1人にするのは忍びない。それにこうして話をしているうちに分かったが、どうも君は俺の後輩の友人らしいじゃないか。後輩の友人を1人で帰らせたって後輩が知ったら俺は怒られるだろうなぁ。という訳でそんな俺を助けるつもりで送らせてくれやしないだろうか? お願い」
「そ、そない言われたら……しゃあないなぁ……?」
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!
先輩好きいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!
重い袋を持ってくれる先輩優しいよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!
「えへ、えへへ、えへへ……!」
私はだらしのない笑顔を思わずこぼしてしまっていたのだが……仕方ないじゃない!
なんなのよこの気遣いの達人は!
私みたいな性格最悪女なんかには勿体ないぐらい優しいじゃないの!
「あ、外は雨降ってるじゃん。最悪だな……おい、山崎、明日は休みだから今日は俺ん家に泊まるか?」
先輩がなんか言ってる!
かわいい!
しゅき!
「えへ、えへへ、えへへ……! 先輩と一緒に帰れる……! 嬉しい……嬉しいなぁ……!」
「おーい、山崎。俺ん家に泊まるって事でいいんだよな?」
「……え? はい……?」
「よし、じゃあ妹の部屋を使ってくれ」
「……? 妹の部屋……? ……ん? ……え? ……あれ? ……ちょっと待って」
「うん」
「――泊まるの?」
「うん」
「――は?」
こんなの絶対
やったあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!
でも盗撮データが手元に保存されているままなんですけれどもどうすればいいのよこれええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ⁉
「あぅ、あわ、あわわ……⁉」
先輩のお家には行きたいけれども、今の私の手元には余りにもヤバいブツがあるのよ!
どうすればいいのよ!
本音を言えば泊まりたいけれども!
先輩と同じお布団に入って寝たいけどぉ!
「いやいや先輩⁉ 先輩はご自分が何を言っているのか分かってらっしゃるんですか⁉ 私、異性! 先輩、異性! お分かり⁉」
「いや流石に雨が降りしきる中で女の子を帰らすのもな。ちょっと待ってろ、ビニール傘2本買ってくる」
「相合傘したいから1本でいいわよ馬鹿!」
「え?」
「違いますけどぉ⁉ そういう意味ではないですけどぉ⁉ 先輩にビニール傘を2本も買わせるのがアレなんですけどぉ⁉ 先輩のお金を使わせたくないんですけどぉ⁉ それぐらい分かってくれますぅ⁉ 別にぃ⁉ 先輩とぉ⁉ 相合傘したいだなんてぇ⁉ そんな下心なんてぇ⁉ 全然ありませんけどおおおおおおおおおおお⁉」
なんで私はパニくるとこうも色々と頭が残念になるのよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!
こんなの、こんなの……!
まるで私が先輩の事が好き好き大好きみたいじゃないのよっ……⁉
好き好き大好きに決まっているじゃないのよ馬鹿あああああああああああああああああああああああああああああ!!!
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