第8話 迷宮探索、フェリアと同行

 朝、自然と目が覚める。早く寝ているからだろうか、アラームの前に起きる日が多い。昔の生活とは、えらい違いだ。

 手早く準備をし、地下訓練場に向かう。中に入ると、フェリアがいた。


「ヤマト、おはよう! さあ、迷宮に行くわよ!」

「行くって、フェリアも来るの?」


 どうしたんだ急に。用事でもあるのだろうか。


「そ。迷宮最深部に行きたいの」

「魔石を運ぶ為に?」


 一ヶ月前に預かった魔石は手元にある。


「ええ、その通りよ。それから迷宮内の様子を直に見たいの。でも今のあたしは、迷宮の管理に大部分の力を使っているわ。あまり役に立てないのはゴメンね」

「危ない時は戻っても構わないのか?」


 ここは必ずはっきりしなければ。


「モチロン、無理は禁物。撤退の判断は、ヤマトの意志が最優先になるわ。迷宮の攻略も、貴方の計画で大丈夫」

「わかった。一緒に行こう」


 それなら問題ない。フェリアと共に、第三迷宮の中に入る。転移門は二人同時の移動も可能だった。便利だと思う。


「魔獣を見掛けたら、あたしが囮になるわ。注意を引いている間に、倒してね」

「了解」

「あ、食料や補給品は二人分あるわ。可能なら一気に最深部まで行きましょう」


 日帰りで最深部に到達は困難だ。今までは半日くらい進んだら、退却していた。一人だと休息を取るのが難しい。フェリアと一緒なら、交代で休憩できる。本当に助かるな。




 よし、まずは湖を目指そう。入口から湖までの道では、高確率で一角鹿がいる。今までの経験だと、半々ぐらいで遭遇した。他の場所で熊や猪の魔獣を見掛けたが入口の辺りでは一角鹿くらいだ。恐らく迷宮の深部に向かう程、強い魔獣がいるのだろう。


「あ、一角鹿」

「いきなりか」

 

 まだ此方には気付いていない。奇襲を仕掛けるべきか。


「周りに縞猪しまいのししや草食熊はいないわ。どうする?」

「戦おう」


 迂闊に動いて、他の魔獣と遭遇したら厄介だ。図書館の資料だと、本来の縞猪は温厚で臆病らしい。だけど狂暴化の影響か、何度か襲われた。草食熊に至っては、元から狂暴で更に危険度が上がっている。草食なのに、肉食獣より危険な魔獣だ。熊は見掛けたら、すぐに逃げている。


「わかったわ。あたしが囮になるから、ヤマトは各個撃破。がんばってね」

「フェリアも気を付けて」


 危険な囮を買って出てくれたことは、頭が下がる。フェリアは慎重に、ゆっくり一角鹿に向かっていく。ある程度の距離まで近付くと、周囲に光球を発生させた。


「いっけー!」


 魔獣に向けて、光球を一斉に撃ち出す。不意打ちを受けた一角鹿は、攻撃魔法の使用者に向けて突進した。同時にフェリアは移動を開始する。俺は一角鹿の意識が逸れたときを見計らい、素早く魔獣へと近づいた。魔獣は完全にフェリアを追っている。


 これなら背後から奇襲が可能――更に近付いた瞬間、一角鹿は方向を転換した。明らかに俺を狙っている。あまりに急すぎる方向転換、不自然な動きだった。


「まずい!」


 五体の一角鹿が同時に向かってくる。特に前方、二体の位置が近い。仮に片方を一撃で仕留めたとしても、その隙に残った一体の突進を受けるだろう。


「火の矢よ、敵を貫け!」


 迷っている時間は無いか。直前に迫る一角鹿の内、一体だけを狙って攻撃魔法を放つ。魔獣は大きく横に跳ぶ。正面からの火矢は、当たり前のように避けられた。だが、これでいい。魔法を避けたことで、突進の速度が遅くなった。


 木刀に魔力を込めて、一角鹿を見据える。もっとも重要なことは、タイミング。攻撃が早すぎれば、木刀は空を切る。


「今だ!」


 よし、命中! 予想以上に上手くいった。魔獣が崩れ落ちる。でも危険は去っていない。わずかに遅れて、二体目の一角鹿が近付いてくる。


「二体目!」


 今度も成功。残りは三体。


「束縛を招く光の鎖!」

「これは!?」

「拘束魔法よ! でも、ゴメン! 一体、逃がした!!」

 

 地面から光の鎖が伸びて、二体の一角鹿が釘付けになっている。一体は行動可能だけど、問題ない。一対一なら勝てる! それから、すぐ戦いは終わった。魔石や素材を拾いながら、フェリアと合流する。一角鹿の肉が、複数個も落ちていたな。少し前まで、まったく入手できなかったのに。


「お疲れ様。助かったよ、フェリア」

「……囮には、ならなかったけどね」

「魔獣の動きだけど、少し変だった気がする」


 途中までフェリアを狙っていたことは、間違いないだろう。しかし急に俺の方へ向かってきた。


「あたしも気になったわ」

「何か条件があるのかな」


 ただ条件があるとして、確定するのは難しそうだ。


「少し、試してみましょう」

「次に会った魔獣が少数だったら探ってみよう」




 最深部に向かって歩くこと十数分、魔獣の存在に気付いた。かなり距離がある。白と黒の縞模様が特徴の姿。ほぼ間違いなく縞猪だろう。脅威となるのは突進力、そして高速で走りながらも急激な方向転換を可能とする脚力。


「ヤマト、気付いている?」

「ああ、縞猪だよね」


 やはりフェリアも気付いていたようだ。さて、どうするか。討伐するだけなら、何とかなる。


「フェリア、縞猪の行動が知りたい。また囮を頼める?」

「わかったわ」


 俺とフェリアは、その場で行動の打ち合わせをした。


「じゃあ、頼む」

「任せて! 気を付けてね、ヤマト!」


 フェリアは縞猪に向けて、光球を撃ち出す。俺は少し離れた位置まで移動した。縞猪はフェリアに狙いを定め、一直線に突き進む。だが、唐突に動きを変えた。


「やはり、こっちを狙ってきたか!」


 一角鹿の時と同じだ。今まで追っていたフェリアを無視して、俺を狙う。魔獣に嫌われる要素でもあるのか? だけど考えている余裕はない。木刀を構え、縞猪を見据える。可能なら一撃で倒したい。


「いけ!」


 木刀を力の限り、降り下ろす! 


「ヤマト、早すぎる!」」

「え!?」


 避けられた!! やば――気付いたら、吹き飛ばされていた。痛みは、思った程ではない。だが目前には、縞猪がいる。


「火矢!!」


 至近距離で火矢を放つ。命中はしたけど、魔獣の動きは止まらなかった。木刀を振り上げる余裕はない。一歩、踏み込む。全身全霊で、木刀を突き出した。縞猪の頭部に命中。魔獣は倒れ、魔石を落とす。


「倒せた!?」


 正直、意外だった。


「へえー。縞猪は耐久型の魔獣なのに、よく今の短時間で倒せたわね」

「自分でも驚いたよ。ところで今日、手に入った魔石はどうする? 全て換金してから分ければいいかな」

「それは駄目。職務時間中の管理者は、魔獣討伐報酬を受け取れないの。前に仕事サボって魔獣狩りをした管理者がいてね、それから禁止になったわ」


 フェリアは視線を逸らしながら、話をしていた。そして疲れたように、一つ息を吐く。どうしたんだろう。何かあったのかな。


「まさか身内から、サボりの常習犯が出るとはね」

「大変だったのか?」

「周囲から良い目では見られなかったかな。それほど酷くはなかったけど。まあ、それより! 魔獣よ! 動き、明らかに変だったわ」


 確かに変だった。目の前にいるフェリアを無視して、俺を狙っていたのは確実。一角鹿も、縞猪もそうだった。


「とにかく迷宮を正常化させることが先決ね。できるだけ魔獣に見つからない道を進みましょう」

「賛成。目的が最深部の到達なら、無理に戦う必要もないしな」


 周囲に気を配りつつ、可能な限り急ごう。空を飛ぶ魔獣がいなければ、飛空船で長時間の移動ができるのだけどな。


「それじゃあ、行きましょう!」


 迷宮内を慎重に進んでいく。しばらく歩くと頭上から水滴が降ってくる。最初は一滴、二滴。だが、すぐに勢いを増した。


「雨?」

「ウソ、何で? しばらく晴天が続くはずなのに。天候操作に不具合があるの?」


 迷宮内の管理は、フェリアがしている。天候も管理内容の一つだ。不具合という不穏な言葉も気になるが、とにかく今は急いで雨宿りしたいな。ただ近くに都合の良い場所は見当たらない。


「まずい! 魔力が減っている!?」


 身体から力が失われる感覚がした。減っている量は、それほど多くない。だけど無視するのは怖すぎる。


「雨が原因か!?」

「ヤマト、船を見て」

「イカダの周りで、雨が弾かれている?」


 そうか、結界だ! 俺は急いで飛空船に乗り込む。


「フェリア! 中へ!」

「了解!」


 やはり船の周りに存在する結界が雨を弾いている。だけど結界の魔力を少しずつ消費するようだ。それでも直接、雨を浴びるよりは安心だろう。


「魔力は大丈夫?」

「今は問題ないよ。自然回復分で相殺されている様子だ」


 魔力が失われる感覚に驚いたけど、落ち着いて現状を把握する。大きな影響は、無かった。もっとも雨の中を歩く気はしないが。


「それなら、このまま進める?」

「ああ、行けるよ」




 俺たちは船に乗ったまま移動を開始した。高度を上げ過ぎると、魔獣に見つかる恐れがある。十分に注意を払う。


「途中に小屋があるから、そこまで行きましょう」


 おそらく、入口から半日ほど進んだ場所にある小屋だと思う。しばらく進むと、こぢんまりとした建物が見えた。


「無事に着いたな。雨が降ってから、魔獣に遭遇しなかったのは幸運だった」

「……そうね」


 フェリアは何事か考え込んでいるようだ。少し気になるが、今は宿泊の準備か。船を送還し、徒歩で移動する。小屋の中に入り、辺りを見渡した。最低限の設備はあるようだ。一泊する分には問題ないだろう。


「ところで見張り、どうしようか? 前半と後半で分担かな。フェリアは先と後、どっちがいい?」

「え、ええ。あ、見張りね。それなら、あたしが後半に担当するわ」

「わかった。よろしく頼むよ」


 見張りが終わってから休めるのは助かるな。気を遣ってくれたのか。


「場所は、どこにする? 外で警戒した方が良いかな?」

「いえ、中で起きていれば十分よ。小屋の結界は強力だからね。異常に気付いたらすぐに片方を起こす。それから準備すれば大丈夫」


 強力な結界があるのか。それは良い。少しだけ安心できる要素ができたな。


「さて、と。それじゃ、夕食を出すわね」

「ありがとう」


 目の前に携帯食が現れる。異空間倉庫魔法を使って、食事を出現させたようだ。本当に便利だな。俺も早く覚えたい。


「適性のある上級者が使えば、時間経過を調整して暖かい食事も持ち運べる。でも専門外のあたしには無理。ゴメンね」

「食事が取れるだけ、ありがたいよ」


 手早く食事を済ませた。フェリアは食後、すぐ仮眠に入る。数時間後に見張りを交代し、備え付けの簡易寝台で睡眠を取る。


 無事に朝を迎えた。すでに雨は上がっているようだ。

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飛空船創造スキルで大冒険! 2008年版七つの大罪と共存して特能獲得 石上夢悟朗 @yume4696kaku

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