飛空船創造スキルで大冒険! 2008年版七つの大罪と共存して特能獲得

石上夢悟朗

第1話 来訪、異世界

 俺は今、異世界にいる。


 目の前に広がる景色。自然の偉大さを教えてくれる。どこまでも続く、青い天空。一歩先は断崖絶壁。崖の下には何も無い。崖下の遥か先に、暗闇が広がっている。

 足が震えるのを自覚した。気を強く持って、視線を上に向ける。島が――浮いています。これ異世界だろ、絶対。


「……どうしよう?」


 とりあえず、この場所にいるのは怖い。崖から離れよう! 震える足を無理矢理に動かし、後退あとずさる。数歩分だけ移動し、後ろを振り返った。


「これ、道か!?」


 周囲が緑に覆われる中、不自然なほどに草木の生えていない箇所がある。一つ気になるのは、道が森へと続いていることか。危険な動物が出そうだ。正直、恐ろしい。だが水も食料も無い今、この場に留まることはできない。

 俺は意を決して進みだす。武器になりそうな物は持っていない。というより荷物は何一つ無い。外出から帰ってきて、手荷物を玄関に置いたのは覚えている。それから郵便受けを確認するため、また外に出た。気が付いたら、ここにいる。外出着で靴を履いていたのは不幸中の幸いか。さすがに部屋着と裸足で歩くのは辛すぎる。




 小一時間ほど歩いただろうか。唐突に建物が現れた。


「は? マンション?」


 入口に近づいて再度、確認する。どう見てもマンションだ。しかも奥の扉には、電子制御付きの開閉装置のような物まで見える。かなり大きいな。最上階付近は、明らかに周囲の木々より高い。見通しの悪い森の中とはいえ、こんな建物に、全く気が付かないとは。 

 不審な点を感じつつも、マンションの中へ入ることにした。手前の扉を開けて、風除室に入る。管理人の姿は見えなかった。管理室へと繋がる通話装置を操作し、呼び出しを掛ける。


「はーい」


 声がした! すぐに返事をしようとするけど、声が詰まる。思った以上に不安が大きかったみたいだ。


「どなたですかー?」

「あ、すみません。道に迷った者です。この辺りの事を教えてもらえませんか?」


 音声機能のみの通話装置で、映像は見えない。声の感じからすると、若い女性のような気がした。不審者扱いされないことを祈る。


「まあ、大変! とりあえず中へ入って。すぐ横に管理室の扉があるから、そこで座って待ってて」

「……ありがとうございます」


 そんな簡単に人を入れていいのだろうか? 門前払いされなくて助かったけど。考えていたら、すぐに軽い音を立てて扉が開いた。言われた通り管理室に向かう。


「失礼します」


 中には誰もいないようだけど、軽く声だけは掛けておく。緊張の中で歩き続けたので、ひどく疲れている。遠慮なく座らせてもらおう。部屋の中は、思った以上に普通だ。机や椅子が並び、電話やパソコンが置かれていた。入ってきた扉の他に、仮眠室の札が掛けられた別の扉がある。何の変哲もない扉だ。異世界に来たというのは、俺の思い込みかもしれない。


「お待たせー。ごめんね、仮眠を取っていたから」


 はい、異世界です。断言します。絶対に間違いありません。根拠は隣の部屋から来た若い女性――いや少女と呼ぶべきかもしれない――とにかく、彼女が理由だ。肩口まで掛かった美しい銀髪。やや幼さが残る可愛い顔立ち。身長は低い。とても低い。手の平に乗る大きさだ。背中には神秘的な羽があり、宙に浮いている。


「妖精!?」

「あれ、妖精は珍しい? 大抵の村や町には、誰かしら妖精人族ようせいひとぞくがいるけど?」


 俺は思わず立ち上がり、彼女を見つめる。小首を傾げる姿は、とても愛らしい。しかし今はそれどころじゃない。


「本物の妖精の方でいらっしゃいますか?」

「そうだよー」


 機械や仕掛けを疑うべきだろうか。ただ目の前の彼女は、生物のように感じる。それは置いといて、あからさまに妖精を見て驚いたのは失敗かも。異世界から来たことは隠すべきだろうか。


「あ! 貴方、異世界の人ね! もしかして日本国から来た?」

「なんで分かりました!?」


そもそも隠す前に、見破られてしまった。


「日本語、話しているから」

「……なるほど」


 納得した。


「というか日本語が話せるんですね」

「あたしは約72563の言語が話せるから!」


 言葉って、そんなにあるのか? 少し疑わしそうな視線を向けてしまう。


「疑ってるでしょ?」

「いや! そんなことは――」


 あるけど、口には出せない。怒られそうだ。


「念の為に言っておくと、複数ある異世界で言葉が微妙に違っているの。あたしは異世界転移者の補助役として存在するわ。意志疎通をするため、多種多様な言葉が理解できるってこと」

「補助役?」


 気になる単語を聞いた。少しだけ希望が見えたかもしれない。


「そう、補助役。というわけで、さっそく仕事するよー! では最初の助言、外は危険だから気を付けましょう! 召喚施設の中は安全だからね。ところで貴方は、どこから来たの?」


 やはり外は危険なんだな。建物が見つかって、本当に良かった。


「えーと……ここの入口を出て、正面の道を真っ直ぐ行った場所からです」

「あれ? そっちは島の端だけど?」

「気が付いたら外に居て、崖の前に立っていたんです」


 彼女の表情が変わった。ひどく驚いているみたいだ。顔の近くまで飛んできて、じっと覗き込んでいる。何かを確認しているのだろうか。少し気恥ずかしいけど、動かないようにする。


「まさか、召喚失敗?」

「はい?」


いやいやいやいや、失敗って何!? 


「こほん、こほん。私はフェリアと申します。大変失礼ですが、お名前を伺ってもよろしいでしょうか」


 なんで急に丁寧な口調になったんですか!? しかも無表情になって! それと咳払いが不自然です! 気になるけど、とにかく聞かれたことは答えよう。


「ヤマトです」

「それではヤマト様、これから身体検査を行わせてください。世界間の移動には、大きな負荷が掛かりますので」

「よろしくお願いします」


 フェリアさんに案内されて、隣の部屋に入った。印象としては、談話室だろう。扉に掛けられていた札には仮眠室とあったけど、そうは見えないな。


「―――――」


 なんだろう、フェリアさんが何かを話しているようだ。でも内容は分からない。ふと見ると、目の前に画面が現れた。手の平よりも、少し大きい。画面内には何も表示されていない。


「ヤマト様の個人情報を読み取ります。画面と手の平を合わせてください」

「あ、はい」


 個人情報と言われたら気になるな。まあ検査のために、必要なのは分かるけど。少し緊張しながら、画面に手を合わせる。画面が消えて、次に一回り大きい画面が現れる。おそらく文字が書かれているように見えるけど、内容は理解できない。


「文字は読めないと思いますので、こちらで読み上げましょう。もし事実と異なる項目がございましたら、教えてください」

「分かりました」


 やっぱり文字だったんだな。耳を澄ませ、フェリアさんの声を聞き逃さないよう注意する。


「ヤマザキ・ヤマト。20歳。地元の中学校、高等学校を卒業。得意科目は国語で、苦手科目は数学。主要教科の成績は中の上、副教科の成績は可もなく不可もなく。高校卒業後は一人暮らしでアルバイト生活――」


 手を合わせただけで、情報が読み取れるのか。異世界だし魔法か何かかな。


「――家族構成は両親、姉一人、弟一人。家族との仲は極めて普通である。ただし本人以外の四人は、非常に良好な関係。交際経験なし。友人と呼べるような親しい知り合いはいない――」


 間違ってはいないけど、現実を突き付けるのは止めて欲しい。その後も、現在の状況や過去の経験を聞き続けた。


「――以上ですね。相違点はございますか?」

「……ありません」


 やっと終わった。大変だった。主に精神面で。


「それでは今から世界適合検査を行います。画面の承認ボタン――光っている所を押してください」

「これですね」


 画面内に光っている箇所がある。彼女の言葉通り、ボタンを押した。その瞬間、画面が真っ赤になる。続いて、大きな音が鳴り響いた。


「え!? これ、警告音!?」


 戸惑っていても、警告音は鳴りやまない。うろたえていたら、真剣な表情をしているフェリアさんが視界に入った。


「よかった、問題ないわ!」

「嘘つけ! めちゃくちゃエラー出てるだろ!!」


 誰が見ても問題ある! 


「大丈夫、大丈夫。身体には異常ないから。このエラーは召喚時に適応されるはずの『精神魔法』が掛かってないことを表しているの」

「聞いた感じだと、大丈夫に思えないのですが。すみません、フェリアさん。その精神魔法について、教えて頂けますか?」


 名前からして精神に関わる魔法なんだろうけど、詳細が分からないと不安だな。ゲームや漫画の知識を当てはめるのは怖すぎるし。


「説明はするけど、その前に敬語を止めてもらえる? 堅苦しくて疲れるのよね。約72565の言葉を操れるあたしでも、細かい言い回しを完璧に把握するのは大変。それと、お互い呼び捨てでいきましょう」

「わかったよ、フェリア」


 さっき言ってた数字と違うような? いや、気のせいかもしれないけど。


「それじゃ説明するね、ヤマト。魔法を大別すると物理・精神の二種類になるの。物理魔法は肉体や自然現象に干渉し、精神魔法は心や感情に影響を与える」

「俺に掛かっていない精神魔法は何か分かる?」

「翻訳魔法と鎮静魔法ね」


 なんとなく想像できるような気がする。


「翻訳魔法は名前の通り、言葉が分からなくても意思疎通が可能となる魔法ね」

「この世界で日本語が理解できる人はいる?」


 実はフェリアだけしか理解できない、とか言われたらどうしよう。


「町に一人は通訳担当者がいるはずよ。あたしみたいな召喚補助者が兼任している場合もあるし。それと日本人の転移者が作った国もあるわ。そこの公用語が日本語だったはず」


 予想よりは多いな。だけど日常生活に困るのは間違いない。対策を考える必要があると思う。


「鎮静魔法というのは?」

「精神を落ち着かせる効果があるの。いきなり見知らぬ世界に来たら、大抵の人は混乱するでしょ。それと転移前の世界が平和だと、まともに戦うことが困難となる恐れもあるわ。人間同士の争いもあるしね」


 確かに、その通りだと思う。……あれ? ちょっと待て。


「その鎮静魔法、俺には掛かってないんだよね?」

「そうよ」

「俺、大丈夫?」


 不安に思ってフェリアを見る。彼女は画面に向かい、手を動かしていた。操作をしているようだけど、何か調べているのだろうか。


「うん、大丈夫よ。まず精神魔法が掛からなかった理由から説明するね。ヤマトの魔法抵抗力が高くて、精神魔法を防いでしまったみたいね。しかも他の魔法適性も軒並み高いわ」

「おお! つまり魔法使いになれるってこと?」

「なれるどころか、最上位に届きそうな潜在力があるわ。端的に言うと天才ね」


 天才……! 生まれて初めて言われた!! 


「魔法適性の高さは、精神力の強さに繋がる。つまり鎮静魔法が必要ないくらい、感情を制御できるはずよ」

「そう言われても、あまり実感が無いかな」

「この先、きっと実感すると思うわ」


 そうかもしれない。外は危険と言っていたし、平静でいられない事態に遭遇する恐れもあるだろう。


「鎮静魔法は大丈夫だけど、翻訳魔法は対策を考えましょう」

「ここで言葉は教えてもらえるのかな?」

「できるけど、翻訳魔法を覚えた方が早いと思う。魔法抵抗の制御法も一緒に訓練できるしね」


 そうか、その方法もあるんだな。


「さて。他にも説明することは沢山あるけど、最優先でやらなきゃいけないことがあるわ」


 フェリアの様子が変わった。すごく真剣な表情だ。気を引き締めて、次の言葉を待つ。


「今から魔獣を倒してほしい」

「え? 魔獣を?」


 冗談を言っているようには見えない。


「対象はスライムと呼ばれる魔獣。数は五体」

「ちょっと待って! 危険そうなんだけど。そもそも、いきなり倒せるのか?」

「大丈夫、ほとんど危険は無いわ。人が歩くよりも、動きが遅い。更に殺傷能力も低いから。倒せるかはヤマト次第だけどね」


 つまり逃げるだけなら大丈夫そうだな。倒せるかは、自分次第か。正直、自信が無いぞ。だけど最優先と言っていた。すぐ倒さないと増殖して危険、とかだったら恐ろしい。理由を聞いてみるか。


「急いで倒す理由はあるの?」

「魔獣を倒すと魔核結晶石――通称、魔石を落とす。日没までに五個、その魔石が必要なの。でないと大変な事になる」


 大変な事、一体どうなるんだ。聞きたくないけど、聞かないのも怖い。


「魔石は何に使う物か、教えてもらえる?」

「魔力の塊だからね。用途は色々。結界の核になったり、魔法の触媒になったり。通貨の代わりにもなる。この施設には、高度に発達した通信販売網が存在するの。魔石の価値に応じて、日常品から武器や魔法具まで大半の物が手に入る」

「魔石で買い物ができるってことか」


 とりあえず魔石が重要と理解した。急いで購入する物があるのか。いや、待て。結界の核になると言った。まさか結界の効力が日没で切れるとか言わないよな! このままだと夜には魔獣に襲われる!?


「必要なのは食べ物。ここには召喚された人の為に、非常用の保存食が準備されているわ。でも可能なら購入した物の方が良い」


 とりあえず魔獣に襲われる危険はないのか。でも食べ物か。それも重要だよな。保存食にだって限りがあるはずだ。また必ず魔獣が倒せるとは限らない。保存食が切れる前に、何とかしなければ!


「保存食はどれだけ持ちそう?」

「そうね、二百年くらいかな」


 それしか持たないのか! 悠長にしていないで、すぐにいかなきゃ……あれ?


「ごめん、聞き間違えたかな。保存食が尽きるまではどれくらい?」

「二百年よ、つまり73000日ね。ちなみに、この世界に閏年はありません。ああ、大丈夫。特別な方法で精製・保管されているの。腐敗もしないし、栄養面も完璧」


 えーと、急いで魔石を用意するのだよな。食料を購入するために。被召喚者用の保存食は二百年分。栄養面も大丈夫。


「保存食じゃ駄目な理由は何?」

「あれ不味いから」

「そんな理由!?」


 味の問題なら、深刻そうな顔は止めてほしい!


「それと貴方の身体は、この世界の魔力に適応し始めているの。今の内に一度でも実戦を行えば、そのまま貴方の基礎として定着するわ」

「そっちを先に言ってほしかったよ」


 要するに効率よく力を付ける為に、急いで戦おうということだよな。でも充分に準備してからの方が安全じゃないだろうか。スライムが危険ではないと言っても、絶対に安全とは断言できないはずだ。効率と安全、どちらを選ぶべきか考えて決断したい。


「スライム五体分の魔石なら、お酒も買えるよ! 飲み放題までは無理だけど」

「すぐに行くよ!」


 やはり保存食だけは駄目だな! 俺は全力で部屋の出口に向かおうとした。


「ちょっと! 武器を持たずに行く気!?」

「あ……それ以前に、スライムはどこにいるんだろう?」


 フェリアの言葉に慌てて足を止めた。準備もしていなければ、行く場所も分からない。


「その辺りも含めて説明するから、場所を変えるわよ。ついてきて」

「了解」




 俺は言われた通り、フェリアの後についていく。彼女は手も触れずに扉を開け、廊下に出る。そのまま廊下の突き当りまで行き、階段を下りた。


「地下に行くの?」

「そうよ。地下にある訓練場」


 地下に降りると、目の前に扉が見えた。扉を開け中に入ると、広々とした空間が広がっている。木人形や巻き藁が置かれており、訓練施設を思わせる場所だ。


「とりあえず訓練用の武器を渡すね! 保管庫はこっちだよ!」


 フェリアに保管庫まで案内された。木製武器の他に、本物にしか見えない武器や防具が置かれている。入るとき鍵を開けた様子がなかった。管理は大丈夫かな。


「ここにある物は持ち出すのに許可が要るから気を付けてね。勝手に持っていくと盗難防止の魔法が発動するわ」


 だから鍵が掛かってなかったのかな。


「さっき見た情報だと、武道経験は学校の授業で習った剣道のみね。竹刀は置いてないから、木刀にしようか。好きなの選んで」

「木刀でスライムを倒せるのか?」

「ただ振っているだけじゃ無理よ。木刀に魔力を纏わせてから斬りつけるの」


 何だか難しそうなことを言われた気がする。とにかく、木刀を探すことにした。よく見ると木刀の長さが違う。俺は近くにあった一振りを手に取った。長すぎず、短すぎない。丁度いい長さだ。


「これにしよう」

「決まったわね。魔力を込めて頭上から降り下ろす、今日はそれだけに専念して」

「魔力の込め方が分からないんだけど」


 俺は手にした木刀を軽く振ってみるが、何の反応も無い。


「ここだと感覚が分かりにくいと思う。今、建物内の魔力が少なくなっているの。最初に行うべきは、魔獣を見ること。スライムを観察することで、魔力が覆われている様子を理解できるようになるはずよ」

「なるほど。それで、スライムはどこに?」


 フェリアは部屋の奥を指差した。そこは床に複雑な模様が描かれている。


「転送の魔法陣よ。中心に立って『転移、第一迷宮』と言って。移動したら、すぐ隣の部屋にスライムがいるわ」

「戻るときは、どうする?」

「転移先にも魔法陣があるわ。『転移、第一拠点』で戻れる。ただし転移した後、五分間は再起動できないの」


 大体は理解した。俺は部屋の奥に向かう。


「行ってくるよ。『転移、第一迷宮』」

「頑張ってね――」

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2024年11月29日 21:00

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