第2話 矯正した眼でみる世界は濁る
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別に何かを憎んでいるわけではないし。
別に何かを恨んでいるわけではないし。
わりと普通に幸せで。
わりと普通に呑気にやれてるし。
身を焦がすような激情も。
身を捩るような痛みも。
ボクには存在しない。
だけど。
だけど、だ。
___ヒトの形をしたものを視ると。
“ああ、殺せそうだな”なんて考えが。
身体を支配するなんて感覚は果たして説明したところで理解されるのだろうか?
衝動的な感情ではない。
自動的なシステムだとしか説明出来ない。
世界はボクを優しく受け入れている。
ボクも世界を愛している。
他人だって愛している。
人並みに。
それなりに。
だから。
この殺人衝動は『許せないから』が、動機ではない。此処までは自分でも理解出来ている。
オーケイ。
物語を進めようか。
待たせたな。
“魔女”さん?
『貴方の殺人衝動というか滅人衝動とさえ言い換えて差し支えない強い本能は、太古より破魔や退魔の力として崇拝され信仰された有り難いモノなのですよ、ミスター。それを貴方は事もあろうに廃棄しようとしてますね。ある種、なかなかに贅沢な話です。メタルキングに出会って逃げるを選択するに等しい。これは最高の贅沢なんですよ、ミスター。誰もが願う力を要らないと拒むのはね?贅沢であると同時に、力を望む方々への冒涜なわけです。ドゥーユゥ、アンダスタン?』
モニタ越しの彼女は言う。
表情をコロコロと変えながら。
彼女なのか。
彼なのか。
それは判らない。
ただ、画面に映る姿は。
可愛い、女の子だった。
『自動的な殺人衝動。側に敵対勢力が存在すれば“そう成る”っつーのは珍しくないんですよ、ミスター。世の中の軍人さんやお巡りさんは訓練で自身をシステムに組み込んでますから。しかしですよ、貴方は敵対勢力には反応せずに“悪者”に反応してしまいます。社会秩序を乱す存在全てに、です。これ、チロッと厄介でして。ミスターの場合、不倫や横領。横着や怠惰というような悪性にさえも反応してしまうのです。喩えるなら時速50キロの制限速度を1キロでもオーバーしたら即座に死刑だ!とするのがミスターの性質だとも表現出来ます』
能力、と。
彼女は言わなかった。
性質、と。
彼女は言い切った。
この違いが解らないわけではない。
意図的に。
恣意的に。
制御が可能か不可能か。
と、いう話であろう。
『不正を許さない生活指導の先生みてえな力ですがね、ミスター。なら、その性質を利用なさいな?幸いにも『魔女への懺悔室』には数多の“悪者”についての情報が集まりますからねえ。個人情報保護法とか色々ある世の中ではありますが、貴方のような殺人鬼を制御出来ずに野に放つ方が拙い。私はね、ミスター。貴方が街一つを滅ぼしたと言っても不思議ではないんです。そんぐらい強い殺人衝動なんです。街一つで済んだら儲けもんでしょう。私が危惧してるのはですよ?
“貴方がまだ、一人も殺していない殺人鬼だから”
なんですよ。それ、目の前に牛丼を用意された腹ペコな野球部の男子高校生がずーっと食べるのを耐えてるようなもんじゃないですか。故に危惧というか危険視しているのです。ガス抜きをしなくては、貴方はいつか街一つどころか、“悪を滅ぼします”から。しかしながら、なかなかに面白い。自身の血液を毒に使う殺人鬼は何名か知っていますがね、自身の血液が毒になり身を蝕む殺人鬼とは』
ならば、先天性心疾患に近いのか?
精神病というには。
かなり、物理でキツいが。
『いいえ、ミスター。言うなれば、先天性迎撃疾患でしょうね。貴方は、ヒトを許せないのです。浮気、不倫、いじめ、嫌がらせ、スピード違反、ルール不遵守全部が、です。少しでも逸脱したら、貴方は殺さずにいられない。正に退魔だと』
胸が痛い。
キリキリとか。
シクシクじゃない。
杭を刺された吸血鬼みたいな。
鉄筋が突き刺さった人間みたいな。
『あ、ミスター。まだ死なないでくださいね。貴方には生きる道があります。貴方には生きる役割があります。私達『魔女』は貴方のような人物こそ、貴方のような『殺人鬼』こそを待っていたのですから』
画面の彼女は可愛いままで言う。
可愛いままで。
無責任を隠そうともせず。
『殺したいなら、殺せばいいですよ。ミスター』
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