第53話 託される願い
「ルーク!?」
おれが外に出たとき、まず目に入ったのは、倒れた巨獣とゴーレムだった。もう1体いるはずの巨獣の姿は見えない。ダミアンの行方も分からない。
代わりに、すぐ見つかったのはうつ伏せに倒れているルークだった。どうにか基地へ戻ろうとしていたのか、這い進んだ形跡がある。
「ルーク! なにがあったんだ? 目を開けろ!」
強く呼びかければ、ルークはうっすらと目を開けた。
「よぉ、ウィル様……。こっちから報せに行く手間が、省けたぜ……」
その声はあまりに弱々しい。だが怪我をしている様子はない。命に別状はないはずだ。重ねて問いかける。
「なにがあった?」
「2体目の巨獣が来やがってよ……。他に手がないから、限界まで頑張ったぜ。見ろ、1体はぶっ倒してやった」
「もう1体はどうした? ダミアンは……?」
「もう1体は、操作を解除されてたからな。周囲に脅威がなくなったって分かったら、どっかへ飛んでいっちまった。ダミアンは、オレに気付かずにそいつを追ってったよ。一度操作を解除すると、戻すのに時間がかかるみたいだ」
「そうか……。ありがとう、お陰で時間が稼げた。撤退するぞ。さあ、肩を貸してやる」
と腕を取って引っ張り上げようとするが、ルークは起きようとしない。
「いいんだ。オレのことは置いてけ。足手まといにしかならねえから」
「なにを言ってる! みんなと合流すれば、少ないが
ルークは、静かに首を振った。
「……ダメなんだよ、ウィル様」
「なにがダメなんだ。なにを諦めてる!?」
「怪我じゃないんだ。病気でもない。使っちまったのは――オレの生命そのものなんだ。なにをしても、取り戻せるものじゃない……」
「な、に?」
ルークの言葉は、おれの心臓を鷲掴みにした。悪寒が背筋を走り抜ける。
喪失の予感を拭いたくて、スキル『
けれど、それでハッキリした。してしまった。
ルークがゴーレムを動かす魔力の源。膨大な魔力に変換できる、別のエネルギー。正体を突き止めるのを後回しにしていた、そのエネルギーが、もう尽きようとしている。
今なら分かる。あれは、生命エネルギーだったのだ。
連鎖的に理解できてしまう。
きっと普段は、生命を消耗しすぎない運用をしていたのだ。おそらくゴーレムを土や岩に戻せば、使用していた生命エネルギーは、ほとんどが戻って来るようになっていたのだろう。
けれど今回、安全な運用を捨て、激しく生命を消費して限界を超えた力を発揮させたに違いない。巨獣と相打ちに持ち込めるほどに。
そして、相打ちでゴーレムが破壊されたがために、ゴーレムに残されていた生命エネルギーさえ失うことになってしまった。
「……ゴーレムはさ、実はオレの――」
「いい。もう分かった。全部理解できた……。お前は、文字通り、生命を使って戦ってくれた。そうなんだろう」
「……ああ」
理解できてしまったがために、喪失感はむしろ大きくなった。予感ではなく確信となって、心の奥底へ沈み込んでいく。
あの軽口が。
あの人懐っこい微笑みが。
あの不愉快でも、どこか楽しかったやり取りが。
今、ここで、消えてしまう……。
「なぜだ……? なぜお前が死ななきゃならない! なぜ生命まで懸けた!? お前には、逃げる道だってあったはずだ! おれたちにやらせたいことだって、代わりの誰かを探せばそれで済む! なのに――」
「よせよ、代わりなんか、いない……」
静かな声とは裏腹に、強い視線がおれを射抜いていた。
「オレには、人を率いる才能はないんだ。前世でも無能だったからな。友達にはなれても、指揮するのは無理だ……。だから、準備はしてても、行動には移せてなかった……。でもな――」
儚げな笑みを浮かべる。
「Bランクの監督官長を倒して脱走したFランクがいるって聞いたとき、オレがどれだけ嬉しかったか分かるか? ついに任せられるやつが現れたんだって……。実際会ってみて、確信は強まった……。才能や実力だけじゃない。仲間のために涙を流すこともできる、これ以上なく素晴らしいリーダーだった……」
そっとルークはおれの肩を叩いた。
「それがお前だよ。からかってるって思われてたけど……オレがウィル様って呼ぶのは、本当に……本当に、尊敬してるからなんだぜ……」
「この、バカ……。そのせいでお前は、妹と、もう会えなくなってしまうんだぞ……!」
「ああ……未練、だぜ。でも、これでいいんだ」
そしてルークは、おれを肩を押した。離れるように。
「はやく、逃げろ。ダミアンが巨獣を連れてくる前に。生き延びるんだ。それだけで、希望になる」
「希望だと……?」
「上位ランクなんかに潰されないFランクがいる……。最下級でも、満たされた生活ができる。幸せになれる……。お前たちの存在が、その事実を世界に示せるんだ。ただいるだけで、誰かの勇気や希望になれる……。立ち上がる気持ちにさせてくれるんだよ……」
「……バカな。それでは、まるでヒーローだ」
「いいじゃないか。なってくれよ、ウィル様……。ヒーローに」
「それは、無理だ……。ルーク、おれは……おれは前世では悪と呼ばれていたんだ。ワイズマンと名乗り、組織を率いて世界に挑戦した……ヒーローとは敵対する存在だったんだ……」
「ワイズマン……ああ、知ってるよ。ニュースでよく見てた……」
なのにルークは、やがて、いつもの人懐っこい微笑みを見せた。
「それが、どうした」
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※
次回、ルークの願いに対し答えを出すウィルですが、もうひとつ、ウィルは理解したのです。ルークという存在が、自分にとって何だったのか。
『第54話 友』
ご期待いただけておりましたら、
ぜひ表紙ページ( https://kakuyomu.jp/works/16818093089420586441 )から
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