第46話 弱肉強食の末路
「死ね死ね死ねぇ!」
ゾルグはママを集中的に狙う。弱いミラは放置しても問題ないと判断されたのだ。
再改造で能力が向上したママだけれど、力も速さもゾルグには敵わない。ランクによる戦闘力の差を、ミラは初めて目の当たりにしている。
「このやろー!」
ミラは槍を振り回してゾルグに仕掛けるが、冷静に回避されてしまう。最初の戸惑いは完全に消え、余裕に表情でにやにやと笑みを浮かべているくらいだ。
「かわいいもんだなぁ、へへっ!」
かわされて体勢を崩したミラは、その腕を掴まれてしまう。
「すべすべして気持ちいい~っ」
「やっ、離せよぉ!」
――ぐるるる!
嫌悪の叫びに呼応して、ママが側面からゾルグに襲いかかる。
ゾルグはそれを一瞥もせず、剣で薙ぎ払った。ママは短い悲鳴を上げて地面に転がった。
「ママ!?」
「ワンパターンなんだよクソが、邪魔すんな! さあミラちゃん、楽しいことしましょうねぇ~」
「やめろ、離せってばぁ!」
ミラはゾルグに押し倒されてしまった。ゾルグは剣を手放し、空いた両腕でミラの両手を抑え込む。ミラは両足を暴れさせて脱出を試みるが、その上に腰を下ろされ、身動きを封じられてしまった。
ゾルグの股間で、なにかよくわからないものが膨らんでいくのが見えた。
「はぁはぁ、たまんねえ。たまんねえ」
ベロベロとミラの首筋を舐め回してくる。
「やめろぉ! うぅっ、ママ、ママぁ!」
ミラは身をよじって逃れようとするが出来ない。むしろその動き、その声に、ゾルグはますます興奮したようだった。
「もうママは来ねえよぉ!」
ゾルグは今度はミラの胸に鼻先を突っ込み、匂いを嗅ぎ始める。なにがしたいのか、ミラには理解できない。ただおぞましい。
「ママ……ママ!」
「ぎひひひっ! さすがにうるせえな、そろそろ塞いじまうか」
ゾルグは目を血走らせて、ミラの唇に迫ってくる。
もはやミラしか目に入っていないゾルグの様子に、ミラは力を抜いた。そして、にやりと笑ってやった。
「ママ、今だよ」
「あん――? うがっ!?」
放たれた圧縮魔力が、背後からゾルグを貫いた。
思わずゾルグは振り返る。ママは倒れたまま。しかし見開かれた瞳は、確かにゾルグを映している。
その義足の先端が折れて、内側の砲身が露わになっていた。再改造によって追加された武装だ。
「なんだ、そりゃ……。なんで、まだ生きて……」
確かにママは直撃を受けた。本当なら死んでいただろう。だが
ゾルグは一瞥もせず斬り捨てたが、もしきちんと目を向けていたのなら、その発動が見えていたはずだった。
「もうどけよ。気持ち悪い」
「なに持ってやがる……?」
ゾルグはミラに向き直り、怪訝な表情を浮かべた。
ミラの手には
先ほど狙撃を受けて、ゾルグはミラから手を放していた。その隙に、隠し持っていた
ミラは躊躇なく引き金を引く。灼熱の炎がゾルグを呑み込んだ。
「あぎゃああ!?」
飛ぶようにミラから離れ、地面を転がり回る。
ずっと、このチャンスを待っていたのだ。
まともにやれば、ミラとママの2対1でも勝てないことは、ウィルやルークから教えられていた。だがしかし油断を誘えば、確実に勝てるとも言っていた。
Bランクの騎士は、初めからミラたちを舐めている。
さらに、ろくな武装もないことを印象付けてきた。最初は弓矢を使い、次は煙幕玉、最後は骨で作った槍。
そうして相手が完全に優位に立ったと油断した瞬間、最高の武器を解禁したのだ。
その結果は、ご覧のとおり。
「ちきしょおぉお! クソ最下級民が、この俺に――Bランク様に舐めた真似しやがってぇ!」
なんとか消火して起き上がるゾルグ。ミラに向かってくるが、もはや先ほどまでの勢いはない。腹に穴が開いている上に全身火傷だ。まだ動けるだけ、さすがBランクだと感心する。
でも、もうこちらの勝ちだ。ミラは挑発的な笑みを浮かべる。
「ぶっ殺したてめえのケツを犯し――なにっ!?」
その瞬間、ハッとしてゾルグは立ち止まった。足音が複数、奥の通路から近づいてくる。
「みんな、待ってたよ」
5頭のダイアウルフだ。上級兵たちの誘導を終え、基地内を経由してミラたちの元へ駆けつけてくれたのだ。
「くそ、まだこんな……っ、ぐあっ、あぐ!?」
ゾルグを包囲した
やがてゾルグは倒れ込んだ。ミラの指示を受けたママや兄弟たちが、ゾルグの脚や腕の腱を切り裂いたのだ。もう身動きはできない。
そんなゾルグを、ミラは見下した。
「お前、あたしのお母さんを、食ったんだったな……」
「ひっ、ひっ、だ、だったらどうだってんだよ」
ミラはゾルグには答えない。ママや兄弟たちに、頷いてみせる。
「いいよ、みんな」
すると兄弟たちは、よだれを垂らしながらゾルグに歩み寄っていく。
「あ、ま、待て……やめろ、来るな……や、やめさせろぉ! あああ、来るんじゃねえぇ! 俺はうまくなんかねぇよぉお!」
恐怖で早口に叫ぶ声は、やがて牙を突き立てられ、意味のない悲鳴へと変わっていった。
ふん、とママが鼻を鳴らす。
「お前の言っていた、弱肉強食、だ」
「…………」
生きながら食われるゾルグを横目に、ミラは10歳以前の記憶に思いを馳せる。
優しかったおかあさん、楽しかったおとうさん……。
仇は、取ったよ。
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※
次回、Bランク騎士のもう一方ユリシスを、ひとりで引き受けたクラリス。ピグナルドのように肉弾戦は通用しない相手に、如何に立ち回るのでしょうか!?
『第47話 天才Fランク魔法使い VS Bランク魔法騎士』
ご期待いただけておりましたら、
ぜひ表紙ページ( https://kakuyomu.jp/works/16818093089420586441 )から
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