第20話 圧倒的大勝利
「ヒィイ! アギャ、ナンでぇええ!? アガッ!?」
掃射された圧縮魔力が、次々にゴブリンに命中。即死する者もいれば、這いつくばって苦痛に呻く者もいる。身を屈めて怯える者、混乱して右往左往する者も。
どれも、つい先程まで浮かべていた醜い笑顔は消えている。
訓練していないため命中率は高くないが、それがかえってゴブリンたちの恐怖を煽ったようだ。
「よし、撃ち方やめ」
おれは手を上げて発砲を制止する。
十数匹いたゴブリンだが、大半は死ぬか重傷といったところ。無事な者でも、戦意を失っている。
仲間たちの多くは、その光景に目を見張っていた。
「これ、オレたちがやったんだよな……?」
「ゴブリンを、こんな簡単に……?」
「
「油断するな。連中にトドメを刺すぞ」
おれが生き残ったゴブリンに近づくと、そいつは腰を抜かしてへたり込んだ。
「ヒィィ、クるな! コないで! やめてやめてやめて! コロさな――」
おれは指先から圧縮魔力を放ち、頭を撃ち抜いた。
それを目の当たりにした、別のゴブリンが戦慄して「ヒィイ」と悲鳴を上げる。
「さあ、みんなもやれ。
すると、まずゲンが進み出た。持ってきていたツルハシを瀕死のゴブリンに振り下ろす。
クラリスも、おれと同じように圧縮魔力を撃ち込んでいく。
他の仲間たちは、息を呑んだ。そして武器をツルハシやシャベルに持ち替えた。戦意を失ったゴブリンに、次々とトドメを刺していく。
「やれる……」
「ああ、オレたちやれるぞ!」
「ずっと無理だと思ってたけど、ゴブリンも、勝てない相手じゃないんだ!」
「その通りだ。どんなに力の差があろうとも、やり方次第で勝つことはできる。おれは、それをよく知っているんだ」
前世では、力の差を覆された側ではあったが。それも良い教訓だ。
すべてにトドメを刺したところで、おれたちは巣に突入する。
もうゴブリンに怯える者はいない。自信を持って、かといって油断もせず付いてきてくれている。
進むうちに次から次に現れるゴブリンと、それに使役されるダイアウルフだったが、士気の高まったおれたちを止めることはできない。死体の山となるだけだった。
やがて
さらわれた女性が何人も囚われている。近隣の町からさらわれた者たちだろう。その前で、群れのボスと思われる、他より体の大きなゴブリンが、怯えながらひざまずいた。
「オレたちのマけだ……! もうヒトはオソわない! オンナもカエす! どこかチガうトコロへイく! だからタスけて! コロさないでぇえ!」
ボロボロと号泣しながらの訴えである。醜い姿とはいえ、その様子には感じるものがあったのだろう。ゲンや他の仲間たちは、武器を持つ手を下ろしてしまった。
クラリスはおれの動向を見守るのみ。
もちろんおれは聞く耳など持たず、さっさとボスゴブリンを射殺した。
後ろ手に隠し持っていた棍棒を見つけ、「やはりな」と呟く。こちらが命乞いを飲んだら、すぐ不意打ちするつもりだったのだろう。
「みんな覚えておけよ。泣いて命乞いをされたからといって情をかける必要はない。こいつがなにをしてきたか、生かしておいたら次になにをするか、よく考えて判断しろ。大抵の命乞いは、その場しのぎの嘘だからな」
「あ、ああ……分かった」
神妙な表情でゲンが頷く。良い教訓となっただろう。
そんなとき――。
「ウィル様! 見てくれ、ウィル様!」
仲間のひとりが呼びかけるので、そちらに目を向ける。
「お宝だ! ゴブリンが貯め込んでいたんだ!」
最奥の部屋の片隅には、金銭や宝石、魔石が積まれていた。
「これがあれば、オレたちもっといい暮らしができるぜ!」
「ダメだ! 手を付けるな!」
おれは大声で制止した。
そいつは財宝に伸ばした手をビクリと止める。
「それは捕まってる女性たちと同じで、近くの町から奪ってきた物だろう。返すべき物だ」
「でも……」
「その財宝を奪って、盗賊扱いされたいか? わざわざ追っ手を増やすのか?」
「あ、ご、ごめん、ウィル様……。そこまで考えてなかったんだ……」
「分かればいいんだ。怒鳴ってすまなかったな」
おれはそいつの肩をぽんと優しく叩いてやる。
「さあ、女性たちを助けて帰るぞ。お前たちはゴブリンを殲滅し、奪われた女性や財宝を取り戻した。素晴らしい成功体験だ。今後の人生で、かけがえのない宝になる。それだけでも充分過ぎる報酬になるさ」
しかしその後、おれたちは思いがけない報酬を得ることとなる。
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※
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