第10話 秘密基地

 収容所から無事脱出したおれたちは、すぐ近くの森に身を隠した。


 その中で見つけた泉の周辺で休憩。食事を取っていると、ゲンが尋ねてきた。


「これからどうするんだ?」


「拠点の確保が最優先だな。追っ手をやり過ごせるような場所がいい」


 Fランク民は、収容所以外で暮らすことは許されていない。もし見つかれば、すぐまた収容所送りにされてしまう。


「なら旅人を装って街に行くか? 人が多いところなら、紛れることもできるんじゃないか?」


「それは無理だ。ボロ服に、男は坊主頭、女は短髪。すぐFランクと気づかれる」


 仮に容姿をどうにかできたとしても、街中では、なにかと手の甲の印を見せなければならない機会も多い。職探しに、賃貸契約などなど。Fランクが暮らせるようにはできていない。


「じゃあ、森の中に家でも作って隠れ住む感じか?」


「いや。ひとりやふたりならともかく、おれたちは37人もいる。森の中とはいえ目立ち過ぎる。それに、脱出前に小細工はしてきたが、それでも明日――いや、早ければ今晩にも追っ手が来るだろう。家なんて作っている時間はない」


「じゃあ、どうすればいい? ウィルには考えがあるんだよな?」


「もちろんだ。おれたちのように、存在を秘密にしなければならん者の拠点とくれば、昔から相場が決まっている」


 おれはにやりと笑ってみせる。


「秘密基地さ」


「なんだよそれ。家を作るより早いって言うのか?」


「粗末なもので良ければな。食事を終えたらすぐ取り掛かる。まあ見ていろ」


 食後、おれはさっそく作業を開始すべくクラリスを呼び出した。


「……わかった。ウィル様が言う通り、やってみるね」


「ああ、この仕事はおれとお前にしかできないだろう。頼りにしているぞ、クラリス」


「うんっ」


 頼りにされるのが嬉しいのか、クラリスは笑顔で返事をした。そして魔力を操りだす。


 大地を自在に操る魔法『大地潮流アールデシュトローム』の応用だ。脱走の際にトンネルを作らせたように、今度は人の住める洞窟を作り出す。


 その魔力操作を、『慧眼の賢者ワイズマン』で解析。おれも同様に魔力を操る。


 そして目の前の樹の下に、まず入口を作り出す。その中に入って、まっすぐに廊下を作る。それからおれとクラリスは二手に分かれて、大部屋をふたつ、トイレ用の小部屋を作り出す。


 空気を循環させるための小穴も、いくつか地上に通してある。


 さらに、近くの泉から水路も引いておく。


 最後に、出入口を草木で隠せるように細工して終わり。


 おれもクラリスも魔力量が少ないため、休み休みの作業で時間がかかったが、夕方までには完成した。


 各部屋の境に扉さえない、粗末な住処だ。秘密基地と言うより、大きなアリの巣と呼ばれたほうがしっくり来る。


 それでも、案内してやった仲間たちは嬉しそうだった。


「うおお、広い! ここで寝ていいの? 隣のやつとぶつかんなくて済むじゃん、やったぁ!」


「もう壺に用を足さなくていいんだ……嬉しい……」


「水路が通ってる! 水汲みしなくていいんだ!」


「1日足らずでこんなの作れちまうなんて、やっぱウィル様は凄えぜ!」


「さすがBランクを超えたFランク!」


「私たちの希望の星!」


 不満を言われても仕方ない出来だと思っていたのだが、こんなにも褒められると嬉しくなってくる。


「ふふふっ、まあな。おれの天才的頭脳に不可能はないのだ!」


 宣言すると、「わああっ」とさらに湧いた。


「ウィル様! ウィル様!」


 手拍子とともに讃えられる始末である。


 前世ではもっと凄いことをしても、ろくに称賛を得られなかったというのに。その落差に、少しばかり気が引けてしまう。


「いや、まあ、しかし、今回のこの技術はクラリスが編み出したものでな。おれは真似しただけで……」


 つい謙遜してしまう。しかしすぐ、クラリスはふるふると大きく首を横に振る。


「すぐに真似できちゃうだけで凄い! ウィル様、ピグナルドの『二重魔法デュアルキャスト』も見ただけで真似してたし、本当の本当に天才……大天才、だよ!」


 そこにエレンも付け加える。


「クラリスも凄いけど、そのクラリスを仲間にしたウィルも凄いよね。クラリスも笑うようになったし!」


 それを聞いて、他の仲間たちの称賛がまた始まる。


「やっぱ僕たちのリーダーはウィル様しかいないや!」


「ウィル様サイコー!」


「ウィル様! ウィル様!」


 また手拍子が始まってしまう。


「も、もうよせ! おれたちは追われているんだぞ、し、静かにしないか!」


 すると、クラリスがにんまりとおれの顔を覗き込んできた。


「ウィル様、照れてる? なんか、かわいい?」


「照れてないし、かわいくもないからな!」


 このバカ騒ぎは、なかなか収まらなかった。




------------------------------------------------------------------------------------------------





お読みいただきありがとうございます!

もし少しでも面白いと感じてくださいましたら、

ぜひ表紙ページ( https://kakuyomu.jp/works/16818093089420586441 )から

★★★評価と作品フォローいただけますようお願いいたします!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る