第6話 その悪に、忠誠を誓えるか?
ほどほどのところで、おれは両手を上げてみんなの歓声を制した。
「気持ちは分かるが、おれを称賛するのは、よしたほうがいい」
すぐゲンが不満そうに口を開く。
「なんでだ。お前は、俺たちをいたぶってきた監督官たちをぶっ倒してくれたんだ。喜んで感謝するに決まってるだろ」
「やつらからすれば、監督官への反抗など重罪だろう。きっとすぐおれを潰しに来る。おれを称賛していたら、おれの仲間と
あっ、とゲンは口をつぐむ。他のFランク民も同様だ。
心配そうにエレンが問いかけてくる。
「じゃあウィルはどうするの?」
「おれは脱走する。お前たちを置いていってしまうのは心残りだが、おれと一緒にいるよりはマシだろう。ひとりで、好きにやってやるさ」
「それなら……アタシも連れて行ってよ!」
「それはいい! 俺も一緒に行く!」
エレンの発言に、即座にゲンも乗っかってくる。
「おい、話を理解できてないのか。おれと一緒にいたら罪人として追われるんだぞ」
「それでも、ずっとここにいるよりはマシだよ! どうせアタシたち、いつ死ぬかわからない生活してるんだもん!」
「それに俺たちはもう目を付けられてる。ひどい目にあわされるのは変わらない。だったら一緒に逃げるほうを選ぶさ」
その流れは、ゲンとエレンだけに収まらない。他のFランク民たちも次々に声を上げる。
「だったらオレもついていくぜ!」
「ああ、追われてようが、ここよりはマシだろうさ!」
「お願い、私たちを連れ出して!」
「頼むよ、ウィル! いや、ウィル様! 能力が低いからって、こんな暮らしはあんまりだ! 僕たちのリーダーになって、導いておくれよ!」
誰かがそんなことを言ったかと思うと、みんながひざまずき、
「お前たち……そうか……」
同じだ。
前世でのおれは、能力に反して不当な扱いを受けてきた。
そして今ここには、能力が低いというだけで人間らしい生活さえ奪われた者たちがいる。中にはクラリスのように、素晴らしい才能を持ちながらも、能力値判定に反映されず不当に落とされた者もいる。
おれと同じ者たちだ。
胸が心地よく締め付けられる。
前世では己のためだけに組織を率いたが、今は、おれと同じ気持ちの者たちが、おれを必要としてくれている。自らを率いてくれと頭を下げている。
前世に続き、再び組織を
「……念のために聞く。おれたちは、この国、いやこの世界では悪とされることをする。その悪に、忠誠を誓えるか?」
「もちろん誓う!」
「わかった。ならばお前たちの身柄は、このおれが預かる! 共に脱し、共に生きよう!」
「おおおお!」
再び歓声が上がる。感謝の声、称賛の声。どれもが、ここでの生活で聞いたことのない、希望の音色だ。
そんな中、唯一、戸惑いを見せていたのはクラリスだった。
希望に満ちた様子を羨ましく見つめ、しかし、まるで自分には縁のないものだとばかりに、うつむいてしまう。
そんな彼女を放っておくことはできない。
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※
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