異世界秘密結社 ~能力値が低すぎて捨てられた王子、実は前世で悪の総帥だったので、捨てられ仲間たちと秘密結社を作って這い上がります~

内田ヨシキ

第1話 王子から最下級民へ

 今日は、ぼくの能力値判定の日です。


 ぼくたちの国では、10歳になるとこの判定を受けることになっています。10歳時点での身体能力、魔力、所持スキルなどを総合して結果を出すそうです。


 判定結果はS、A、B、C、D、E、Fと7つのランクがあります。


 そしてランクごとに身分が定められています。たとえば最上位のSランクなら王族や、王族と結婚できる権利を持つ上級貴族であったりします。Bランクまでが貴族で、C以下は庶民なのだそうです。


 これは一生変わらないそうです。


 ぼくはゴールドリーフ王国の王子として生まれましたが、もし判定結果でS以外が出てしまったら、王子ではなくなってしまいます。大好きな両親や兄弟たちと一緒にいられなくなってしまいます。


「ウィリアム、心配することはありませんよ」


 母さまが、ぼくの肩にそっと触れてくれました。


「あなたはゴールドリーフ王家と、名門クロフォード家の血筋です。先祖代々Sランクのみを輩出してきた血統同士。Sランク以外ありえません」


「でも母さま、EランクからSランクの方が生まれたこともあると聞きました。その逆も起こるのではないでしょうか……?」


「それは様々な卑しい血の混ざりあった、言わば雑種の低級庶民だから起こるのです。洗練された血統で起こることではありません」


 母さまはそう言ってくれましたが、ぼくの不安は晴れません。


 なぜかと言えば、社会勉強として見せてくれた、最下級のFランク民の姿が目に焼き付いてしまっているからです。


 彼らは、服とは言えないようなボロ布をまとっていました。食事も、ぼくたちの物とはまるで違っていました。死んでしまったような目で、怒鳴られながら過酷な仕事をしていました。


 ぼくが見た仕事は魔物モンスター討伐でした。彼らが囮となり、Bランクの騎士がトドメを刺すのです。囮となったFランク民は、ほとんどが生きて戻ってきませんでした。魔物モンスターの餌となったのです。


 他の誰も気に留めていませんでしたが、ぼくにはそれが怖かったのです。


 最下級民の扱いはこれが普通なのだと教えられて理解はしています。


 けれど人間を、不当に扱っている扱いようにも思えたのです。


 もし、なにかの間違いで、ぼくがFランクだったら……?


 ぼくもあんな風に使い捨てられて死んでしまうのでしょうか? 想像すると怖くて怖くてたまりません。


「ウィリアムさま、わたくしが手を握っていて差し上げますわ。安心してくださいませ」


 そう言ってぼくの手を取ったのは、付き添いで来てくれたカタリーナです。


 名門貴族ウィンターズ家の末娘で、きれいな金髪をツインテールに結んだかわいい女の子です。


 彼女が去年の能力値判定でS判定を出したあとから、母さまの紹介で親しくなりました。今日ぼくがS判定を出すことができたら、正式に婚約することになっています。


「ありがとう、カタリーナ」


 母さまとカタリーナに励まされて、気が楽になってきました。


 前を歩く父さまの背中についていくと、やがて判定の間に到着しました。そこでは高位の神官さまが待っていました。さっそく儀式が始まります。


 ほどなくして、ぼくの能力値判定の結果が出たようですが……。


「まさか、そんな……」


 神官さまは目を見開いて、手をぶるぶると震えさせていました。


「どうした。結果が出たのだろう、申してみよ」


 父さまが低い声で促すと、神官さまはゆっくりと口を開きました。


「恐れながら国王陛下……御子息は、Fランクにございます」


「そんなッ! なにかの間違いですわ!」


 悲鳴を上げたのは母さまでした。


「ウィリアムはこの歳で数々の魔法を習得している才ある子なのです! Fランクのわけがありません!」


「王妃様、それは王家の一流の教育の賜物でありましょう。御子息の魔力は、質も量も低水準なのです」


 神官さまは判定結果の記された紙を差し出しました。能力値判定の儀式で、対象の能力やスキルが自動的に書き込まれたものです。


「た、たしかに……。身体能力も、低い……。で、ですがFランクというほどではありません。C……悪くてもDランク程度はあるはずです」


「スキル欄を御覧ください」


 母さまは判定結果の所持スキル欄に目を向けました。父さまも覗き込みます。


「なんだこれは?」


「スキルは3つあるように見えますが、すべて解読不能の言語で記されております。本当にスキルであるかも疑わしい。この場合、所持スキルなしと判定されます。それゆえ総合してFランクと……」


「そうか」


 父さまは短く返事をしただけでした。母さまはその場にへたりこんでしまいます。


 ぼくの右手の甲には、ゆっくりと印が浮かび上がってきました。儀式によって、ランクに応じた印が自動的に刻まれるようになっているのです。


 その印の形は、紛れもなくFランクを示すものでした。


「あああ、あぁあ~っ!」


 それを見て、母さまはいよいよ泣き出してしまいました。ぼくはただ、その印を見つめて震えていました。繋いだままだったカタリーナの手を握りしめます。


「放しなさい、けがらわしい!」


 その手はすぐ振りほどかれてしまいました。その勢いで、ぼくは尻もちをついてしまいます。


 カタリーナはぼくを見下ろし、ぶるりと背中を震わせました。ハンカチでごしごしと繋いでいた手を拭います。害虫にでも触ってしまったかのように。


「最下級の賤民ごときが、高貴なるわたくしの手に触れるなど虫唾が走りますわ!」


 それからハンカチを、汚物とばかりにその場に捨てたのです。


 ぼくは助けを求めて父さまに目を向けます。


「と、父さま……」


 けれども、父さまの態度はカタリーナと同じでした。


「お前はもはや我が子ではない。同じ空気を吸うことさえ耐え難い。さっさと放り出せ」


 ぼくは兵士に乱暴に連れ出されました。


 この瞬間から、ぼくの最下級民としての日々が始まったのです。

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