異世界転生してTSダークエルフになった俺、現実世界に戻ってきたらツンデレとヤンデレに迫られて困ってます
國玉きたみ
第0話その1 むっつりツンデレ委員長の攻略法1
保健体育の授業ほど退屈な物もないと思う。
よくラノベなどの作品では保健体育にエロスを見出して超得意!みたいなキャラがいっぱいいるけども、例えばWHO憲章での健康の定義のどこにエロスを見出せるというのか。
『健康とは身体的、精神的、社会的に完全に良好な状態であり、たんに病気あるいは虚弱でないことではない。』
エロスを見つけた人はぜひとも教えてほしい。
そうすれば、この昼下がりの眠けさも、少しはましになるというものだ……。
曇り空の下、窓に映る自分の姿を見つめながら眠りに落ちていく……。
『ちょっとやそっとじゃ見慣れないもんだな。こんな可愛い姿の自分なんて……。』
『……zzz。』
「……ちょっと。」
『……?……、……zzz。』
「……今聞こえてたでしょ。授業中よ、起きて。」
「んあ。」
俺を心地のよい眠りから起こしてくれたのは、隣の席の少女・湊由愛だ。
成績優秀かつ優等生で委員長、スポーツ万能、おまけどころかメインでかなりの美人と三、四拍子そろった彼女だが、男子に対する素っ気ない態度から近寄りがたく畏れ多い存在として崇められている。
真面目とか、クールだとか。
「湊、この学校の校風はしってるか?」
「……。」
「『生徒の自主性を重んじた、自由な校風』だ。授業に対する取り組み方だって自由なはず。」
「……。」
「無視か?無視なのか?」
「……授業中にくだらない私語は慎んで。」
一蹴されてしまった。まあ今のは俺が悪い。
ただ、学校での湊は大体こんな感じだ。特に男子には。
まあ、クールで近寄りがたいという評価になるのもうなずける。
逆にあのクールさがいいとか。
あの表情で踏んでほしいとか……。
他の人より少しだけ、彼女のことを知っているつもりな俺は、そういう話をきくたび、なんだかなあと思ってしまう。
『あの真面目さは、責任感とか面倒見の良さの、裏返しだと思うんだけどな……。』
湊の左肩を、机に寝そべって見つめる。
委員長として、みんなのお手本として熱心に手を動かしている左利きの彼女の、その左肩を。
……彼女の左肩には、俺にしか見えないハートのマークがある。
眠たい授業が終わって、俺は三人の男友達とだべっていた。
「曇りなのに結構熱いよな、まだ6月だってのに。」
「本当にな。あっち~。」
そう言って俺は、服の胸の辺りを引っ張ってパタパタと風邪を送る。
すると、三人の内二人が、俺の胸元をチラチラと覗いてきた。
そして、俺は気づく。俺の、そこそこ大きめな胸が、覗けているのだと。
「なに見てんだよ、変態。」
慌てて胸を腕で隠し、牽制の言葉をかける。
しかし、可愛らしく聞こえないようになるべく野太い声を出そうとしたつもりだったが、出てきたのは恥ずかしがった乙女のような声だった。
この声にも、胸を見せてはいけない生活にも、まだ慣れていない。
「し、失礼な。拙者らが三次元に興味を持ったとでもおっしゃるつもりか!?」
「そ、そうだぞ!俺らは二次元にしか興味ないに決まってるだろ!」
「どうだか……。」
「まあ、
「小説でしか使わない形容詞を使うな!おおよそクラスメイトに使っていい表現じゃないぞ!」
しどろもどろに反応する二人に怪訝な視線を送る俺を、糸目の友人がからかってくる。
こいつらと関わっているといつもこんな調子だが、まあなんだかんだ言って悪いやつらじゃない。
それに、女子のグループに入るよりはマシだ。昔のアニメやラノベの話もできて助かっているし。
「と、いうか。三次元に興味があるのはむしろ、薫氏の方ではないですかな?」
「は?」
「先ほどの授業中、一体どこを見ていたのか……。よもや忘れたというわけではございますまい。」
授業中?何のこと……。
『湊の左肩を、机に寝そべって見つめる。』
あ。
「あ、あれはそういうんじゃな……ぎゃっ。」
否定しようと慌てて立ち上がると、胸が机に当たって後ろにはじかれる!
椅子にもたれかかる形で着地できたが、その勢いで後ろに倒れそうなのを机を掴んで阻止する。
なんとか前側に倒れることができて一安心……と思っていたら、胸が大きく揺れて制服の前側のボタンがはじけ、友人の方に飛んでいく……。
「あべしっ!」
ボタンがはじけた制服から、胸が見えてしまう……!
いや、本当に俺がイヤなのは、ブラジャーをつけているという事実を見られてしまうことだ!
「み、見るなよ~っ!」
「ちゃんと目をそらしてるっての……。」
「いや~お見事ですね。ピタゴラスイッチみたいでした!……とりあえず何か羽織るものを……。」
「……馨君。これ。」
横から話しかけてきたのは、湊だった。自分のブレザーを脱いで、俺に差し出してくれている。
「あ、あんがと。」
「……別に。」
素っ気ない口調で手渡してくる彼女だったが、左肩を抑えて俯きがちに目をそらしていた。
というか、顔が少し赤くて、息も荒くなっていた。
その様子を見て、俺はチャンスかもしれないと考えた。
「なあ……、大丈夫か?」
「……何が?私は何ともない……。」
という割には、地面に立つその足はふらついていて、覚束ない様子だった。
少し背伸びをして、熱を測るふりをして肩を掴み額に手を触れると、彼女の体が少しビクついた。
「……っっっ!」
湊と目が合う。目が大きく見開いて、口をパクパクさせていた。
そして……彼女は倒れてしまった。
「あ、おい湊!」
『……やってしまった。』
自分のしたことに対する罪悪感と羞恥心が胸いっぱい広がっていく。
いたたまれない。一刻も早くこの場を立ち去りたかった。
「俺、保健室につれていく……。」
「手伝いましょうか?」
「いや、いい。行ってくる。」
糸目の提案を断り、湊を連れて一人で保健室に向かう。
俺にだって元男として、女子を一人で運ぶぐらいはできるという自負とプライドがある。
それに、湊を倒れさせてしまったことに対する罪悪感があったからだ。
どうやら授業が始まったらしい教室の横で、俺は湊を背負って廊下を歩いていた。
背中の方から、彼女のうわ言が聞こえてくる。
「うぅ……。胸が……。ラッキースケベ……。」
……なかなか愉快な夢を見ているようだった。
『意外だよな、実際。』
俺は、湊と初めてあった時を思い出していた。
見覚えのある神社で目覚め、二人の美少女に囲まれていて、神(?)の声が聞こえてきて、「……二人の好感度を上げて。」だかなんだかと言われたあの時だ。
左肩のハートの紋章が、湊由愛の俺に対する好感度を表しているらしい。神(?)が言っていた。
『……こっちの子は、むっつりな女の子。左肩のハートが好感度。』
『むっつり!?こいつが!?エッチなことに興味はありません。みたいな顔してるけど!?』
『……真面目な子だから、ひた隠しにしてる。クールな態度は、男子に慣れてなくて素っ気ないだけ。実は押しに弱いから、まずは頭を撫でてあげるといい。』
『本当かよ……。』
むっつりでクーデレで委員長……。属性多すぎじゃないか……?
『……改めて、わけがわからない状況だよな。』
好感度を上げることを言い渡された時の感情を一言でいえば、わけが分からなかった、だ。
急展開すぎて打ち切りコースって感じだ。
一つずつ、分からないことを質問したかったのだが。
なぜ好感度を上げる必要があるのか。
なんでこの二人なのか。
なぜ俺はTSしたうえに……ダークエルフになっているのか。
なんで俺は……、いくつかの記憶を失っているのか……、とか。
『……好感度を上げていけば、自ずと分かっていく。』
そう言われてしまったら……、やるしかなかった。
……先ほどボタンがはじけたとき、湊が俺の胸を凝視し息を荒くしてたことに、俺は気づいていた。
だから、熱を測るふりをして近づいて……俺の胸を押し当てたのだ。
神?によれば、好感度を上げるにはこういうやり方が効率がいいらしい。
『恥ずかしい……。』
自分のしたことがフラッシュバックしてくる。
ぐぅぅ……!俺はなんて恥ずかしいことをしたのか!
胸を!押し当てるとか!
俺はラノベのヒロインじゃないんだぞ……!
『……それに。』
……まさか倒れるとは思っていなかったのだが……。
湊に対しては、ただただ申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
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