宇宙人に誘拐されてスペースコロニーの艦長にさせられた
水色の山葵/ズイ
第1話 告白された
その日の授業が全て終わり、特に部活にも入っていない俺は彼女と一緒に下校するべく校門へ向かっている最中のことだった。
「あの」
女子からそう話しかけられた。
何故か制服でもジャージでもない私服を着たその子は、俺と同じクラスの女子生徒だった。
名前は確か
私服も結構地味目だね。
でも今日は休んでたはずなのになんで学校にいるんだろ。
周りには俺たち以外の生徒もいるが、俺の進行方向を完全に遮ってるんだから俺以外に話しかけてるってことはないだろう。
「なに?」
「つうか誰?」
俺に同調するように彼女がそう言うと、倉持はビクッと身体を震わせ意を決したように言った。
しかし何か一大決心でもしたような面持ちで俺の問いに倉持は答えた。
「わ、私と子供を作ってください!」
頭を下げてそう言った倉持に周りの視線が一気に向く。
おっきい声で何言ってるんだこの人……
「はは……」
こういう不思議なことというか、意味不明なことが起きた時に笑ってしまうのが俺の悪い癖だ。
なんとなく面白そうに感じてしまう。
「何言ってんの? キモいよあんた……」
俺の彼女が刺すような視線を向けて言った言葉に脅えながら、それでも倉持さんは俺の答えを待っているようだ。
「行こうよ
「んー、まぁそうなんだけど。ちょっと可哀想だし先カラオケ行っててよ、後から行くから」
「えー? その面倒事に自分から首突っ込む癖どうにかした方がいいよ?」
「分かってる。今回だけだから」
「また言ってるよ。まぁ私の話なんて凛くん聞いてくれないしね。分かった、先行っとく」
そう言うと倉持を一睨みして俺の彼女は校門の外へ出て行った。
「じゃあまぁ、ここじゃ何だし教室行こっか。事情、説明してくれるよね?」
「うん、ごめんね急に」
「いいよ。けどあんまり長話は無理だからね」
空き教室の一つへ移動し、倉持さんを席に座らせた俺はその二つ前の机の上に腰を下ろす。
「それで?」
「うん。私昨日から学校休んでるでしょ?」
「そうだったね」
「それはさ、宇宙人に誘拐されていたからなの」
電波女とか陰謀論者とかそういうタイプの人って感じはしないんだけどな。
それに、だから子供を作りましょうってなる意味が分からない。
とりあえずツッコまずに話を聞くか。
「宇宙人が言うには自分たちのコロニーのエネルギーが尽き掛けてて、それを補充するために私を攫ったらしいの」
「ふーん」
「でも私だけだと私の寿命が尽きちゃったあとのエネルギーにまた困ることになるからもう一人男の人を誘拐して私とその人の間に子供を作る必要があるってことらしくて……」
「へぇ、それで俺が選ばれたの? 宇宙人に?」
「ううん、宇宙人に選ばれたのはそのエネルギーの素養が特に高い私だけ。逆巻くんは……誰との間の子供が欲しいかって宇宙人に言われて……私が選びました」
なるほど。
めちゃくちゃに顔を赤らめているのを見るに、やっぱり適当なことを言ってるようには見えない。
「それはそれは光栄だ」
「ごめんなさい、彼女さんがいるのに。でも時間がなくて……会えるのも最後かもしれないから、伝えたくて……」
「いいよ別に。でもさ、倉持さんの言ってること信じる根拠がなくてさ。宇宙人が居るって言うなら見せて欲しいな」
「それは逆巻くんが頷いてくれないと無理……です」
「おっけー」
「あーうん。え? 今なんて?」
「だからオッケーだよ。連れてくのか連れてきてくれるのか知らないけど早くして」
彼女が言ってた通り俺の悪い癖なんだろう。
駅前で宗教勧誘しておっさんとディベートしようとしたらぶん殴られて警察沙汰になったこともあるし。
なんか非日常を探してしまう癖がある。
多分飽きてるんだと思う。
普通の生活ってやつに。
でも男子高校生だしさ、割と普通の思考回路でしょ。
「ほんとにいいの? ご家族とか彼女さんとか……」
「あぁ、カラオケで待たせてるんだった。今日は無理って言っとかないと」
「今日とかじゃなくて一生会えないかもしれないよ?」
「それはちょっと嫌だな。でも俺が帰ってこなかったらあいつだって別の男作るでしょ」
「そんな無責任な……」
「え? 倉持さんがそれ言うの? 俺を連れて行こうとしてんのに?」
「それは……」
「倉持さんってさ、別に顔が可愛い訳でもないしメイク頑張ってる訳でもないし話が面白い訳でもないじゃん。決心して告白しましたみたいな顔してるけど、それって必要なの倉持さんの気持ち一つでしょ。気持ちで解決できる問題ってさ、頑張ったって言えないと俺は思うんだよね」
俺は別にこの子が気に入った訳じゃない。
人として、恋人としてのスペックだけを考えれば、今の彼女の方がずっと高いし俺の好みだ。
それでも頷いたのは恋愛感情とかじゃなくて、ただ倉持さんの話に興味が湧いたってだけ。
「幻滅した? でも悪いけど俺はこういう人間なんだよ。だから、俺以外の奴に変えたいならそうした方がいいよ」
どうせ俺は倉持さんのことをよく知らない。
倉持さんだって俺のことをそれほど知ってる訳でもないだろ。
高校生の恋愛感情なんてそんなものだ。
面白そうな話ではあるけど、イニシアチブを持ってるのは倉持さんの方だ。
だけど、だからと言って俺は倉持さんにとって気持ちのいい嘘を言う気はない。
倉持さんがやっぱり別の人を選ぶというなら俺にはそれを拒む手立ても、そこまでのやる気もない。
「そもそも逆巻くんは私と子供を作る気あるの?」
「ないよ。俺は宇宙人と会ってみたいだけ。それに解決策がそれ一つしかないっていうのに納得できないし別の方法を探してみるよ」
そもそも人間のエネルギーが必要なら百人でも二百人でも誘拐して貯蔵しておけばいいはずだ。
地球上には人間は七十億以上いる。
宇宙船とか持ってるなら人里離れた場所にいる人を適当に攫えばいいはずだ。
勿論これは俺の勝手な推測で宇宙人にはそうしない理由があるんだろうけど、事情を聞いてみないと判断できない。
「それに倉持さんだってこんな形で結婚とか子供とか嫌でしょ。じゃあ別の方法考えようってのが普通だと思うんだけど?」
「人生上手くいってる人の理屈だね……」
「上手くいってる奴が努力してないと思ってる奴の理屈だ」
俺の言葉に倉持さんははっと顔を上げる。
美容室にどれだけの期間で行くかとか、ファッションセンスをどうやって勉強してるとか、そのためのお金をどうやって稼いでるのかとか。
そういうのを想像できない人っていうのはいる。
別にそれを責める気はない。
でも、面と向かって俺を責めてくる人間に対しては別でしょ。
「そうだね。ごめん、逆巻くん」
「いいよ。別に怒ってないし」
「逆巻くん、私と一緒に来てくれる?」
「いいよ。でもそれは宇宙人に言われ通りに俺と子供を作りたいから?」
「ううん。私は君みたいな生き方を知りたい。努力のやり方を知りたいの」
気持ちだけじゃ問題は解決しない。
でもいつだって、気持ちだけが行動の起爆剤になる。
倉持さんは芯はある人なんだろう。
「別に俺は自分をそこまで過大評価はしてないよ。でもまぁ、聞かれたことには答える」
「ありがと。じゃあ行こうか」
「うん」
いよいよか。
少し緊張するな。
そう思っていると、倉持さんは鞄から銃のようなものを取り出した。
銃身の先が丸くなっていて穴も開いてない。
物理的な何かが発射される構造とはとても思えないし、何かアニメグッズみたいな見た目だ。
「なにそれ?」
「キャトルミューティレーション銃だよ」
「えぇ……ウケるね」
半笑いの俺に銃口を俺に向けて、彼女は引き金を引いた。
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