②チャンネルの快進撃、本人の一苦労

第1話 元賢者、生配信を宣言する

 確かに、再生回数が35回まで増えている。

 しかも、更に3回増えた。


「コメントも入っていますね。何々……」


『クロスから訪問。さっきの強盗炎上と関係あんの?』

『前日の動画だし、場所も近い。この連中も燃えているし、強盗も燃えていた』

『これ、確かに△■川の河川敷だ』

『そうそう、◎▲橋と交差点の間あたり』

『あの辺りからコンビニ強盗が燃えたのは1キロメートルくらいだろ?』


「強盗炎上?」

 従者Cは不思議そうな顔をしている。

 俺はクロスで、「強盗、炎上」でチェックしてみた。

 すると、見事に出て来た。女神を人質にしていた強盗のナイフを持つ手が燃え上がり、そのまま女神が股間に蹴りを入れて帰っていくさまが。

 これが滅茶苦茶バズっていて、それを見た誰かが俺の動画も見つけて紹介したようだな。


 というか、この動画、強盗は元より女神の顔まで丸写しだが、こういうのはいいのか?

 女神は抗議するべきじゃないのか?


「あっ! 登録者が増えているわ!」

 と思ったら、女神が自分のチャンネルをチェックして喜んでいる。

 どうやら、女神の方は顔バレして、それで関心をもって登録する人が増えたらしい。

 数が増えて喜んでいるが、いいのか、それで?


 室地さんが結論づける。

「つまり、建謝様が魔法の炎の動画をあげたところ、不思議な人体発火を起こした人間がいて、何らかの関連性があると思われたわけですな」


 そういうことだろう。

 登録者も増えている。今、15人ですぐに16と増えた。

 この調子だと1、2時間くらい増加を続けそうだ。


 チャンスだ。

 この勢いで魔法の動画を出していけば、「こいつは本物なんじゃないか?」と登録する者が激増する。

 ただ、コメントを見ていると場所の特定がかなり正確だ。

 外でやるとバレてしまうかもしれない。

 いや、バレても魔法が実際に使えるメカニズムは分からないのだし、問題はないのだが、ちょっと面倒くさいことになりそうだ。


 このあたり、とバレてしまった以上、近くで調査する暇人がいるかもしれないからな。

 なるべくならバレないように、続けていきたいところだ。


 場所は探すとして、とりあえず掴んだ関心を次に活かすものはしよう。

 登録者が増えて上機嫌な女神が早速撮影を始めたので、俺は隣の洗面所を使うことにする。

 携帯を動画モードにして、


「はっはっは。地球の皆さん、こんにちは。

 わしはこことは違う世界……ファンタジア大陸からやってきた大賢者である。

 故あって、元の世界はなくなってしまい、この世界にやってきてしまったのだが、幸い魔法はそのまま使えるようだ。せっかくなので、この世界の皆さんにも楽しんでもらいたいと思って、このチャンネルを作った。

 色々不思議なこともあるだろう?

 ただ、百聞は一見に如かずと言う。まずは土曜日の19時から行う配信を楽しみに待て!」


 と決めて、動画を切る。


 この1分くらいの動画を「告知」として入れる。


 おぉ、登録者が早速反応をしてくれている。

『こいつはマジなやつなのか?』

『怪しいけど、強盗が炎上したってのは嘘じゃないみたいだし』

『というか、昨日の河川敷の奴も、強盗事件で逮捕された奴いなかったっけ?』


 増えている、増えている。

 見た人間がクロスやインヌタグラムで引き込んでいるのだろう。

 登録者はもう50を超えてしまった。


 女神の2万と比較すると小さいかもしれないが、初日でここまで行っているなら悪くないだろう。


 よし、土曜日19時に気合いれたものを作らないと。


 うん?

 でも、ちょっと待てよ。

 生配信ってどうやるんだっけ?

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