第2章 和久井涼

第22話

「今日の予定は9時からCMの撮影、

13時から雑誌の撮影とインタビュー、15時からテレビのリハーサル、19時からテレビの生番組出演。以上です」

宮田壮真は8月に芸能界デビューを果たした。

一切プライベートを伏せると言う事で宮田壮真ではなく、和久井涼という芸名で活動する事になった。

自宅は川崎だから通えない距離ではない。

だから都内にマンションは持たなかった。

高校も通える限りは今の高校に通いたいと言うのが本人の希望だ。

だがそれも難しくなる日も近い状況だった。

「涼、車の中で眠っておいた方がいい。気を張りっぱなしじゃ持たないぞ」

マネージャーの藤崎真斗が言った。

「ありがとう。さっきから眠くって…… 」

涼はそのまま後部座席のシートに持たれて眠ってしまった。


「はーい、涼君、笑顔でね」

カメラマンがそう言いながらファインダーを覗く。

「硬い、硬い、もうちょっと柔らかく、優しい雰囲気で」

そんな事をいきなり言われてもどうすればいいのかさっぱり分からない。

涼はますます硬くなっていった。

「涼君、少し休憩しようか」

藤崎は戻って来た涼にミネラルウオーターを渡す。

「どうすればいいか、さっぱり分からない。俺に出来るのかな」

涼はかなり戸惑っていた。

「好きな人の事を考えてみたらいい。

そこに彼女がいると思うんだ」

藤崎に言われて、涼は目を閉じた。

「いい。穏やかな顔になっている」

涼が考えたのは優希の事である。

夏祭りの時の優希の笑顔を思い浮かべた。


再びカメラの前に立った。

柔らかな優しい笑顔を見せる。

「あーいいね。そのままで」

カメラマンがシャッターを切った。

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