第3話

 彼女の承諾を得たところで、今さらだが俺は思い切り固まっていた。

 ああいや、股間が、とかじゃない。思考の方が固まっていた。


(今にして思うと物凄いことやっちゃってるな、俺!?)


 なんて思考が、今さらのようにこみ上げてきたのである。

 この状況って要するにあれだ。元の世界で言うところの、クラスの痴女だかビッチだかが強引にウブな男子に迫ってなし崩し的に系の漫画の導入みたいなシチュエーションなわけで。


「げ、現実に存在したんだ……非モテ美少女にクラスのヤリチンが強引に迫ってくるシチュエーション……ゆ、夢かも……」


 とかなんとか、藤堂さんもぶつぶつと呟いていらっしゃる。あ、そういう漫画お読みになられるんですね?

 だが、俺とて実際の経験があるわけでもない。ここからどんな風にリードすればいいのかとか、まったく分からないというのが正直なところだ。


(……で、この後どうすりゃいいんだ!? 誰か教えてくれ、エロい人……!)


 なんて悲鳴が、頭の中でわんわん鳴り響いていた。


「……あ、あの、辻宮くん。わ、私このあとってどうしたら……?」


 フリーズした俺に違和感を覚えてか、藤堂さんがおずおずとそう訊ねてくる。


 そうだよね!? そうなるよね!? 非モテ童貞男子メンタルな藤堂さんに、この後どうしたらいいかとか分かるわけないよね!? でもごめん、俺も正直分かってないんだ!

 でも正直にそう答えるのもなんかカッコつかない気がして、何か上手い具合のことを言えないものかと頭の中で必死にセリフを探した。


 その末に出てきたのが、こちらである。


「ご、ごめん……勢いあまってこんなことしちゃったけど、この後どうしたらいいんだろう……」


 俺よ死ね。


 ……だが、自己嫌悪に襲われる俺とは裏腹に、藤堂さんにはどうやら何かがツボったようである。

 一瞬彼女は目を丸くしたかと思ったら、少しだけ「くすっ」と微笑んで、早口でぶつぶつ呟きだす。


「ほ、ほ、本当にいるんだ……ヤリチンぶってるくせに実は耳年増だけの、耳年増ヤリチン……漫画の中だけだと思ってた……推せる……うわぁ可愛いすごいすごいすごい……あっよだれが……」


 ……藤堂さん、自分で気づいてないかもだけど全部頭の中の思考漏れ出てるから気を付けてね?

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