美少女が極端に恐れられてる貞操逆転世界で好きな子に普通に告白した話

月野 観空

第1話

「藤堂さん、好きだ、付き合ってくれ!」


 その日の放課後。

 俺は校舎裏で、片想い中のクラスメイト、藤堂穂香ほのかさんに告白していた。


「え? ……え?」


 穂香さんは俺の告白に目を丸くして、おどおどと驚いた様子である。

 まるで、自分が告白されるなんて夢にも思わなかった……とでも言いたげな、そんな反応。


 美人で。

 艶やかな黒髪はきめ細かくて。

 どこからどう見ても美少女で、いかにもモテそうな穂香さんには似合わない、「なんで私なんかが……?」とでも言いたげな、その反応。


 そんな彼女の両手を取り、俺はなおも彼女に詰め寄る。


「本当に……本当に好きなんです! 俺と、付き合ってほしい!」


 そんな俺の熱い思いを叩きつけると、穂香さんはあわあわと顔を赤くして視線を泳がせる。

 それからやがて、おろおろとした様子で俯くと、か細い声で呟いた。


「あの、その……ごめんなさい、すごく混乱していて……男の人って、私みたいなの、すごく嫌いだと思っていたから……」


 美少女が嫌いな男なんて存在しない、と俺は思う。

 思う……が、どうやらでは違うらしい。


 このでは、美女であればあるほど、恐れられ嫌われる存在らしいのだ。


  ***


 三日前のことである。朝起きたら、そこはすでに『貞操逆転世界』だった。


 いわゆる、男女の貞操観念が真逆になる世界、と言ったらいいだろうか。女がめちゃ肉食系の性欲モンスターみたいになって、逆に男がスケベとか無理ですぅとか言っちゃう草食系へと変貌している、という世界のことだ。


 この世界では痴漢されるのも(性的に)襲われるのも男性の方が多いらしく、世に出る不審者もおっさんではなく妙齢の女性ばかりとかいう、わけの分からん世界である。

 だから男性も女性を恐れているらしいが、その中でもいわゆる美女・美少女は、男からも女からも恐ろしい存在として認識されているようだ。


 実際、俺の母親(ブス)もテレビで美人の女性が出てくれば「ああいう女性がいるから世の治安が乱れるのよねぇ」とかボヤいていたし、街を歩けば美人に限って誰もが露骨に避けている。

 テレビに出てくる女性タレントも、明らかに地味でパッとしない風貌の女性ばかりになっていたし、人気の女優やアイドルなんかも不思議と軒並み芋っぽい。


 とにかくこの世界では、美女・美少女という存在があからさまにタブーとして扱われているらしいのである。


 そして当然、俺の意中の相手である藤堂穂香さん(かわいい)も、そんなタブー的な存在の一人のようで……彼女のことを観察していると、見るからに教室に彼女の居場所はなかった。


 例えば、彼女が朝、教室に入ってくれば、一瞬で教室中がシーンと静まり返ったり。

 授業中にも、教師が露骨に藤堂さんの順番を飛ばして教科書を読み上げさせていたり。

 廊下でばったり出くわした男子生徒が、「ひぃぃぃぃぃ!!」と情けない悲鳴を上げて逃げ出したかと思ったら、そのまますっころんだ拍子で階段から転げ落ちていったり、なんて現場まで見たことがある。


 おまけに、藤堂さん自身は何もしていないにも関わらず、その男子生徒が階段から落ちて怪我したことによる反省文まで書かされたというのだから美女・美少女に対する当たりの強さときたら半端ではない。


「と、藤堂さん!」


 それでも淡々と日々を過ごす藤堂さんを、俺は次第に見ていられなくなってしまって……。


「今日この後、ちょっと付き合ってもらってもいいですか!?」


 気づけばこの日の放課後に、彼女に声をかけていたのである。

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