第11話 保健医エリーゼ

「…………ここは」


 目を開けると、白色の天井が視界いっぱいに広がっていた。

 漂う消毒薬の匂いと、清潔な白いシーツの感触。

 どうやらここはアカデミーの保健室みたいだ。

 それを理解した上で周囲を見渡してみると、確かにゲームで見た保健室と同じ造りになっていた。


「けど、なんで俺がこんな場所に……っ」


 気を失う前の記憶が脳裏をよぎる。

 バフォールがリリアナたちを襲う場面に遭遇した俺は、ヒールを使いバフォールの討伐に貢献した。

 しかし、その反動で気を失ってしまい、ここに運ばれたということだろう。


 まだ少し重たい体を起こし、怪我の具合を確かめる。

 特に問題はないようだ。


「そうだ、ステータスの確認を」


 あの戦いで、何かしらの変化があるはずだ。


「ステータスオープン」


 呟くと、目の前に透明なウィンドウが出現する。



――――――――――――――――――――


 アレン・クロード

 性別:男性

 年齢:15歳

 ジョブ:【ヒーラー】

 ジョブレベル:2


 レベル:21

 HP:1610/1610

 MP:490/490

 攻撃力:213

 防御力:175

 速 度:202

 知 力:288

 器 用:180

 幸 運:202


 ジョブスキル:ヒールLV5、ディスペルLV1

 汎用スキル:ファイアボールLV1、瞬刃しゅんじんLV1


――――――――――――――――――――



「おおっ……これは凄いな」


 レベルが元々の10から、倍以上の21まで上がっていた。

 さらに、ジョブレベルとヒールのスキルレベルも上昇。

 圧倒的格上であるバフォールにトドメを刺したことで、大量の経験値を獲得できたらしい。


 そして新たに【ディスペル】というスキルまで手に入れていた。

 ゲームでも登場した、一定の状態異常を回復させられるスキルだ。

 ヒールほどの汎用性はないが、様々な場所で活用できる優秀なスキルである。

 ……まあ、例にもれず、他人に使う場合は制限があったりするのだが。


「それにしても……これだけレベルが上がるってことは、本当にギリギリの勝利だったんだな」


 もちろん、あれだけの格上を倒せたのは、俺だけの力によるものじゃない。

 リリアナが大ダメージを与えてくれていたおかげだ。

 俺のヒールは敵の回復を中断させ、残り数%のHPを削っただけにすぎない。


「そのヒールだって、リリアナが与えた傷から体内に発動することで、バフォールの魔力に直接干渉できたおかげだし……俺は最後の一押しに貢献しただけだ」


 これで浮かれるわけにはいかない。

 ヒーラーが最弱職であることには変わりないのだから、今後は地に足をつけて努力していく必要があるだろう。


 とはいえ、だ。


「俺がヒーラー以外の職業なら、リリアナたちを助けることはできなかった。それだけは転生前の自分アレンに感謝しなくちゃな」


 振り返りを終えたところで、俺は改めて、今後のことを考えることにした。


「問題があるとすれば、これからか……」


 リリアナを助けたことで、間違いなくシナリオは分岐するだろう。

 実際にどれだけ変わるかは不明だが……


「そういえば、あの後どうなったんだろう」


 俺がここにいるということは、リリアナたちも無事なはずだが――



 ガチャリ



 そう考えていた、まさにその時。

 突如として、保健室の扉が開く音が響いた。


「ふぅ。まだ新学期も始まっていないのに、本当に大変だわ」


 聞き覚えのある声に、俺は視線を入口に向けた。


 なびくピンク色の長髪は、まるで桜の花びらのよう。

 白衣の上からでも分かる豊満な体つきと、大人の色香を漂わせる表情。

 そして何より特徴的なのは、深く開いた胸元から伺える驚異的な膨らみだった。


(あの人はまさか!)


 間違いない。

 『ダンアカ』にも登場するキャラクター、保健医のエリーゼ・アデラインだ。

 攻略可能なヒロインではなかったものの、大人の魅力を全開に振りまくその姿は、男性プレイヤーたちの心を鷲掴みにしていた。


(なんでエリーゼがここに……って、アカデミーの保健室なんだから当然か)


 まさかの遭遇に戸惑っていると、不意にエリーゼと視線がぶつかる。


「「………………」」


 彼女は起き上がっている俺に気付くと、驚いたようにパチパチと目を瞬かせる。

 どうリアクションを取ればいいのか悩んでいた、まさに次の瞬間だった。


「アレンくん!」


「――――え?」


 予想だにしない展開が発生する。

 エリーゼが駆け寄ってきて、いきなり俺を抱きしめてきたのだ。


「目を覚ましたのね……無事で本当によかったわ。貴方の身に何かあれば、あの子たちになんと伝えればよかったか……」


 柔らかな感触と甘い香りに包まれながら、俺は頭が真っ白になる。

 なぜかエリーゼは感極まった様子で、さらにギュッと抱擁を強めてくる。


(い、いったい何がどうなってるんだ……?)


 ゲームでは決して見られなかった展開に、俺は困惑するしかなかった。

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