第48話 最終ミッション
トーマが目を覚ますと、既に夜になっており、傍にモエが眠っていた。
慌てて離れるとモエが目を覚ます。
「あ……トーマ君起きた……?」
「う、うん……まだミッション始まってないよね……?」
モエは急いで端末を確認すると安心したように息を吐く。
「あと十分後だった……!」
「よかった……。モエさん……。絶対に生き残って、ゼロに勝とう……!」
「そうだね……。優勝して終わったら、お母さんたちを生き返らせて、お礼を言わなくちゃ……!」
トーマは机の上に置いてある紙を見つけ、目を通す。
――――――――――――――
トーマ殿
この度は心身に負担をかけて申し訳なかった。
キミの作り出したメモリーは運営の管轄外だから使いどころには気を付けたほうがいい。
最終戦、良き結果になるようにサポートをさせていただく。
このミッションが終わり次第、私たちは自身の生まれ育った島に帰るのでキミと会うことはもうないだろう。
それでは健闘を祈る。
獣人探偵事務所 所長 アドラ
――――――――――――――
手紙をそっと置き、ホルダーから碧いメモリーを取り出す。
非正規のメモリーが読み込むかどうかわからない状況ではあったが、それでも確実に勝つためにはこれに頼る事となると期待して再びホルダーにしまう。
モエと顔を合わせて立ち上がると、会場へ【飛ばされた】。
最終戦ということもあり、いつも以上にオーディエンスの数が多く、画面越しではあるが熱気が伝わってくる。
プレイヤーは三人。
トーマ、モエ、ゼロの三人であり、最初は八人いたが、他の全員死亡した。
そして、会場の奥からフードと仮面をつけた見るからに怪しい人物、ゲームマスターが現れる。
「やあやあ皆さん!今日は素晴らしい熱気を放ってるねぇ!それもそのはず、今シーズンの【シャドウズ・オブ・ロンギング】が今回で最後。お友達、親戚がまだ見てないようだったら、チャンネルを教えてあげてね!それじゃあ、ここまで生き残ったプレイヤーを紹介していくよ!まずは~……みんなのアイドルモエちゃんだ~!ここまで女性陣が生き残ったのは中々珍しいよね。一位と二位から得点は引き離されているから優勝は難しいと思うけど、まだまだチャンスがあるから諦めないでね!」
モエはゲームマスターによる紹介が終わった後、アイドルらしく可愛さ全開でアピールする。
「あたしのこと応援してくれてありがとー!絶対優勝したいから、みんなの応援待ってるよー!」
歓声が冷めぬ中、ゲームマスターは次の紹介を始めていく。
「今シーズン圧倒的な強さを誇っていたプレイヤーでもある人物。戦闘能力はトップクラスの実力者。狼のマスクの下は何を願っているのか気になるぞ!ブラックチェイサー:ゼローーッ!」
モエほどではないが、歓声が沸き起こり、始まった当初より確実に彼の人気が窺える。
『白兎に負けんなーっ!』
『お前に全掛けしてんだ!絶対勝てや!』
一部の声の大きいファンからの罵声のような応援にゼロはそっぽ向く。
「そして今大会、二度の偉業を成し遂げた白兎。ドラゴンスレイヤーとスピリットスレイヤーのトーマッ!!前回ミッションで総合一位に躍り出た彼と黒狼のゼロとどのような試合を繰り広げられるのか……!」
ゲームマスターはなぜか感極まったようでマスク越しで目頭を押さえ、肩を震わせていた。
『おい、司会者がプレイヤーに感情移入すんなし!』
『トーマ君がんばってー!』
トーマは声援を受け、目に闘志の炎を宿し、ゼロを見た。
相変わらずトーマの意志に対し無反応ではあったが、ゼロからは非常に大きなプレッシャーを感じた。
「ズビッ……それじゃあ、最終ミッションのルーレットをするよー!ガッチャン!」
この世界では珍しい旧式のレバーを引き、ルーレットのドラムを模した映像が動き始める。
そして、赤いボタンを勢いよく押すと、回転がゆっくりとなっていき、ガチャンという効果音とともに停止する。
そこには【陣取りゲーム】と書いてあった。
そして大歓声が沸き起こる。
トーマはなぜこのミッションにオーディエンスが大盛況なのかわからず、困惑していると、ルール説明の画面が浮かび上がる。
ミッション:エリアスティール
・定期的に出現される陣地を奪い合うものです。
・陣地は人数分ありません。
・怪物が現れますので倒してください。
・最後の一人になるまで永遠に続きます。
・プレイヤー同士の戦闘行為を認めますが、死に至らしめた瞬間、失格処分といたします。
・陣地には一人しか入られません。ほかの人が侵入した際、追い出してください。
・陣地に三十秒間一人で居座るとウェーブクリアです。
「皆さんお待ちかね、プレイヤー同士の直接対決もあり得るミッションが来たねー!エリア内に怪物が入っていると排除するまではカウントしないからね!」
「このミッション、三人しかいないけど……」
「大丈夫!今大会参加者のイミテーションを作ったから、彼らにも負けないようにしっかり気張ってね!」
ゲームマスターがそう告げると、マサルやミユキ、ハヤトなどの今シーズンの参加者の姿が現れる。
トーマとモエは一瞬表情が明るくなったが、イミテーションという意味を思い知り、絶句した。
それもそのはず、彼らには魂のようなものが抜けているのか目に光を宿さず、虚空を見つめていた。
それに加えて、彼らの装甲は【バーサーク】の装甲を身に着けており、戦闘に特化した個体であると思い知る。
トーマとモエがうろたえる中、終始無言だったゼロが口を開く。
「イミテーションどもは怪物同様、殺していいのか?」
「もちろん!プレイヤーじゃないからね!でも、これらも君たちを殺しに来るから気を引き締めて戦ってね!それじゃあ【転送】するよ!行ってらっしゃい!」
三人とイミテーションが戦場へと【飛ばされる】。
今までの荒廃した街や森の中ではなく、只々広い円盤の上に立っているようなものだった。
トーマの中では地球上にこのようなものは存在していないと認識し、前回ミッションまでの『実は現実世界だった』という仮説を大きく覆すものだった。
上空には太陽のようなものは存在しているものの、円盤の上以外は完全な暗闇であり、覗けば吸い込まれそうなものだった。
『試合が始まります。戦闘態勢になってください。カウント、五、四、三、二、一……レディ……ファイト』
開始のゴングが鳴ると同時にゼロとイミテーションはトーマに向かって戦闘を仕掛けたのであった。
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