龍の姉妹
ルビー
それにしても何という妖艶を醸す女なのだろうか。シェランドンは正体を現した女を凝視して素直にそう思った。同じような雰囲気を携えた女としてグリンセルがいるが、まるで大人と子供だ。写真と同じく、身体のラインをありのままに表す紅い一枚布で整形されたワンピースを着ていて、長い手足を惜しげもなく晒している。内側からほとばしる赤い髪は鮮やかな緋色で、本当に燃える炎のようだ。
「ルビーというそうじゃな」
ルシファリアが壇上から悠然と見下ろした。「魔王軍を相手に立ち回る、最近噂のツヴァイハンダー。
魔王軍の支配は苛烈だ。占領地で民兵などによる抵抗運動は後を絶たない。ツヴァイハンダーはその最もたる組織であり、他の占領地域の敗残兵や志願兵を受け入れて抵抗を続けている。
とはいえ、たかが民兵集団だ。バラランダの工業力と
魔戦士ですら討ち負かされる様を見るに、いよいよこれは異常事態だとヴァイダムの首脳陣も考える。民兵ごときに成せる業ではない。
実は魔王軍が宣戦布告をする前年、プルーアという場所においてカノンの機罡獣の一つ、勇猛の獅子の存在が確認された。これに対してヴァイダムは捕獲或いは破壊を目的に師団を出撃させた。全世界に対する大規模作戦の前哨戦として臨んだ魔王軍だったが、結果は目的達成の寸前に獅子が
その時の屈辱を此度の抵抗軍の話で思い返したルシファリアは直ちに詳細を調べるように命じた。
ジャニンドーら魔王軍の諜報部隊による調査の結果、どうやら抵抗軍の中に赤毛の女がいて、これが只者ではないとの報告がルシファリアにもたらされた。それが
妹はともかく、姉は武器の扱いに長けており、特に射撃の腕前が頭抜けている。抵抗軍を鎮圧するのに送り込まれた魔戦士のひとりは戦う前に頭を撃ち抜かれた。近づいて攻撃すれば
「その他、身勝手で気性が激しく、おごりたかぶって他人の事は全く考えない強欲者で守銭奴。そのうえ大酒飲みで酒乱ときたか。これに対して妹の方は品行方正で大変な物知り。力はないが掃除洗濯が得意で身の回りのことによく気が付き、抵抗軍の間で大変な人気者とのことじゃな」
「妹が何だっていうんだい、あたしが
いけしゃあしゃあと女の形の良い唇から手前味噌な台詞が発せられ、魔王軍の戦士達は言葉を失くした。なんだ、この女は? いろいろな意味で只者ではないことは判然と理解した。
「その豪胆さは認めてやろう。そしてその身一つで魔王軍の本拠地に乗り込んでくる愚かさもな」
「あたしゃ回りくどいことは大嫌いでね。ここに魔王軍の首魁がいるのなら、乗り込んで首を上げちまえばいいし、この大きな動くガラクタもぶっ壊して解体でもすれば、少しは戦後の復興資材の足しになるだろうさ」
「潜入するにしても、少しはその目立つ容姿を隠そうとはしなかったのか」
「おかげで魔剣将軍様はあっさりと引っ掛かってくれたよ」
ぐぬぬ、とデビラーは憤怒の表情で剣の柄を握るが、ギルバンがそれをまあまあと抑えた。
「さて
ふ、ふ、ふ……はははは! 誰とも知れず漏らした笑い声につられて、やがて魔戦士達は皆大笑いした。この女と戦い、敗れた魔戦士など、彼らからしてみれば小物に過ぎない。
中央に配備された我らこそ魔戦士の中でも最強だという自負が誰の心にもある。
シェランドンも女の行動力には呆れるを通り越して感心していたが、この後の展開を考えて下衆な表情を浮かべた。隣にいるギラザンガもにんまりしているところを見ると、考えていることは同じだ。
ルシファリアに言われるまでもなく、自分たちの移動要塞に不法侵入されたのだから直ちに拘束して、みっちりと事情聴取をしなければなるまい。魔王軍に国際法は関係ない。暴力、理不尽、薬物、拷問に至るあらゆる方法でゆっくりと問い詰めねば!
女の顔立ちはどことなく
ガゴン!
鉄製の壁が大きく
魔戦士達の笑い声はぴたりと止んだ。
「あはは、かわいい坊や達だね! このあたしとイイ事がしたいのなら、力づくで押し倒してごらんよ! そこの男みたいに拍子抜けさせられるのは御免だからね」
度々名指しにされた魔剣将軍の顔から嘲りが消え、どす黒い怒りの表情へ変わった。
*
**
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます