幼馴染が昼食の誘いを断るので俺も一緒に登校するのを断ろうと思います

陸沢宝史

本編

「なんで一緒に登校してくれないの」


 青空の早朝、俺の家の玄関前で幼馴染の益留友之ますどめとものが混乱したような顔つきをしていた。


「教えない。心当たりぐらい自分であるだろ」


 俺は理由を教えないという素っ気ない対応を取ると友之を置いて一人で歩き出す。


 友之とは幼稚園からの幼馴染で小学校の頃か毎日のように一緒に登校していた。だがこれから友之と学校に通うつもりはない。


 友之が追いかけるの諦めるように早歩きで道を進む。背中側からは走る音と共に懇願するように「待ってお願いだから」と叫ぶ友之の声が嫌でも耳に入ってくる。


 こちらも対応して走ろうとしたが既に遅く友之に右肩を掴まれてしまい足が止まってしまう。


「手を離してくれ。周りの目が気になる」


 俺は周囲を見渡しながらすぐに後ろの友之に聞こえる程度の声量で注意する。


 だが友之の手が離れることはなかった。


「理由教えてよ。わたしも謝るから」


 あまりに切実な口調に友之に憎んでいた俺の気持ちが少し緩んだ。俺は「教えるから手を離してくれ」と伝える。


 すると「本当?」と喜びが漏れ出るような声が後ろから聞こえてきた。


「ああ本当」


 俺は雑に返事をすると手が離れた。そこから間を置かず友之はいつもの定位置である俺の隣に並んできた。


「それで理由は何なの?」


 友之が理由を尋ねてくると俺は遅刻したくないので歩きながら理由を話す。


「ここ一週間ほどこっち何度も昼休み誘っても断るからもう嫌われたのかと思って距離を置こうと考えたんだ」


「それは風登ふうとが悪い……というか」


 歯切れ悪そうに話す友之に俺は少し苛立ってしまい、


「俺に原因あるの?」


 責め立てるように早口で喋ってしまった。威圧的な話し方に俺は反省を抱く。だが俺に責任を求められても腑に落ちない。


「ねぇ風登、最近わたし以外の人と昼食食べたでしょ」


 友之は俺も質問には応じないどころか別の質問を被せてきた。俺は青空を見上げながら最近友之以外の人と昼食過ごしたを回数を思い出す。


 ここ直近だ二週間前にクラスメートと食べたときだ。けどあのときは事前に友之に断りの連絡は入れておいた。それ以外は友之とのみ昼食を食べている。友之に怒られる筋はない。


「二週間前の一回だけだけど。それがどうかしたの」


「それが問題なの」


 友之は怒りを露わにするように頬を膨らませた。


「ただクラスメートと食べていただけだろう。それが何の問題なんだ」


「クラスの子にめっちゃデレデレしながら話しかけていたでしょ。それが嫌なの。昼食の誘いを断ったのもどうせわたしと食べるよりクラスメートの子と食べる方が嬉しいだろうと勝手に思い込んだのが理由」


 友之の尖った声が耳に入り俺は顔を歪めた。友之は歩みを止め拗ねたように俺と目が合うと露骨に視線を外してきた。


 友之の発言に俺は驚き足が止まりしばらく言葉を失った。今まで恋愛話などしてこなかった。そのため友之が俺に抱いている感情はおおよそ理解は出来た。


「それってまさか。てか教室まで来てたんだな」


 俺は友之には『クラスメートとお昼食べるから今日は別の人と食べてくれ』としか連絡していなかった。


「風登が他の人とご飯食べるなんて珍しいから気になって風登の教室まで覗きに行ったの」


「そうだったのか」


 俺は右手で髪を掻いた。友之が俺に好意を寄せているとしたら、心配になって覗きにも来るか。


「ねえ、あのクラスメートのこと好きなの?」


 友之は思い悩むように顔をこちらには向けずに尋ねてきた。俺は「そうだな」と籠もった小声を吐きながら正直に答えるか悩んだ。


 あのクラスメートが好きかといえば違う。けど少しだけ気がある。だから昼食に誘われて受けた。


 一方で友之は親友みたいでどうしても異性としては見られない。もともこれからどうなるかは別だが。


 俺は軽く呼吸をし気持ちを整理すると口を動かした。


「好きではないけど、少し気になっているかな」


「そっか。ということはわたしに対して好意はないんだね」


 寂しそうにそう語ると友之と見て俺の心は何故か傷んだ。長年一緒に過ごしてきた幼馴染を苦しめたからだろうか。


「あの子はあくまで気になっているだけだからな。好きではないから。別に付き合いたいとか思っているわけでもないし」


 罪悪感からか俺は友之を励ますような言葉を自然と送っていた。展開的には俺が友之を振ったような状況であるため歪な感じもした。


 俺の言葉を聞いた友之の目が見開くと顔中に弛んでいくのが分かる。まだチャンスがあると思い元気を取り戻せたのだろうか。


「ならこれからわたしを好きにさせてあげるから、風登待っていてね」


 自信に溢れた言葉で友之はそう宣告してきた。これから俺が友之を好きに確証はない。別の子と交際する展開も十二分にあり得る。けど今の友之を見ていたらいつかこの子のことを好きになるかもしれないという可能性を感じた。だがこの気持ちは今の時点では友之には明かさないでおこう。

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幼馴染が昼食の誘いを断るので俺も一緒に登校するのを断ろうと思います 陸沢宝史 @rizokipeke

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